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59章 お祭りはそれでも続行
828. どこかで見た光景ですね
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アベルが声を上げて初めて、エドモンド達は慌てた。というのも、彼らには近づく勇者が見えていたのだ。しかし魔力感知で全方向に警戒する生活に慣れた魔族にとって、戦闘中は後ろから忍び寄られても気付ける。
日本人であるアベルが気づかずに立っていた事実に、ようやく気づいた。焦って火の球を吐こうとした竜の口を、エドモンドが素手で覆う。
「こら、何かあったらどうするんだ!」
その言葉に滲む本音に気づき、オレリアとラウムは複雑そうな顔をした。今、エドモンドは「こら、アベルも避けられないんだぞ」と叫んだも同然だ。確かに避けられない可能性が高いし、魔法で自分を結界で包むほど器用な男ではないが……あれでも一応「魔王チャレンジ」の表彰者である。
「煩い、黙れ! 魔王と戦うんだ」
なぜか魔王との対決に固執する勇者一行の剣士に、おろおろしたのはドラゴン達だった。周囲のエルフは器用に植物を操って、剣士以外の人族の拘束を試みる。剣士が助けに入ったりアベルを害さないよう、交渉役としてルシファー本人が囮役を買って出た。
「え、陛下が出るんですか?」
「この場合、最適だと思うぞ」
けろりと返すルシファーに、オレリアが頭を抱えた。魔王だと名乗る気だろうか。念のために大公の誰かを呼んだ方がいいのでは……そう考えたオレリアの肩を、ぽんと白い手が叩いた。
「安心していいわ! 私がルシファーを守るもの」
笑顔で請け負った魔王妃リリスの言葉に、曖昧に頷いたオレリアの後ろで、ラウムがアスタロト召喚を試みた。声に出さずに魔法陣を手のひらに描き、「アスタロト閣下、お願いします」と呟く。
「余が魔王である。その者を盾に取る卑怯者が、勇者か?」
「私が魔王妃よ! 日本人を盾にするなんて最低よ。さっさとその手を離しなさい」
挑発して怒らせ、その隙にアベルに逃げてもらおうと考えたルシファーとリリスは息ピッタリだった。だが、剣士は予想外の反応を見せる。
「亡命させてください」
「はぁ??」
「え?」
きょとんとして顔を見合わせたルシファーとリリスは、同時に首をかしげて剣士に視線を戻した。まだ剣先を突きつけられたままのアベルが「えええ? 人質になった意味って何?」と焦る。確かに彼を人質にする必要はなかった気がするが……。
「どこかで見たような光景だと思いましたが、アベルも亡命組でしたね」
心配したラウムに呼び出されたアスタロトが苦笑いした。呼ばれてきたものの、出番はなさそうだ。申し訳なさそうなラウムに手を振って、気にしないよう合図した。
「アスタロト、どうしたものか」
困惑したルシファーは、取り乱した心境を示すように普段の口調だ。肩を竦めたアスタロトが代わりに前に出た。
「亡命を希望とお聞きしましたが、理由を教えてください」
にっこり笑ったアスタロトは人当たりの良さそうな顔を装い、対応を始めた。このままルシファーに任せると、魔王の威厳もへったくれもない。さりげなくルシファーをヤンの上に押し戻し、リリスも抱っこさせた。これで彼らの化けの皮が剥がれる心配は減った。最低限の対応を終わらせたアスタロトに、剣士は後ろを気にしながら答える。
「彼らがいない場所でなら……」
どうやら自称勇者御一行様は、一枚岩ではないらしい。亡命を希望するのが剣士の彼のみなら、他の4人に聞かれる可能性がある場所で言いづらいのも理解できた。
「いいでしょう。アベルを解放して、こちらへどうぞ」
穏やかな物腰に、しかし剣士は警戒を解こうとしなかった。
日本人であるアベルが気づかずに立っていた事実に、ようやく気づいた。焦って火の球を吐こうとした竜の口を、エドモンドが素手で覆う。
「こら、何かあったらどうするんだ!」
その言葉に滲む本音に気づき、オレリアとラウムは複雑そうな顔をした。今、エドモンドは「こら、アベルも避けられないんだぞ」と叫んだも同然だ。確かに避けられない可能性が高いし、魔法で自分を結界で包むほど器用な男ではないが……あれでも一応「魔王チャレンジ」の表彰者である。
「煩い、黙れ! 魔王と戦うんだ」
なぜか魔王との対決に固執する勇者一行の剣士に、おろおろしたのはドラゴン達だった。周囲のエルフは器用に植物を操って、剣士以外の人族の拘束を試みる。剣士が助けに入ったりアベルを害さないよう、交渉役としてルシファー本人が囮役を買って出た。
「え、陛下が出るんですか?」
「この場合、最適だと思うぞ」
けろりと返すルシファーに、オレリアが頭を抱えた。魔王だと名乗る気だろうか。念のために大公の誰かを呼んだ方がいいのでは……そう考えたオレリアの肩を、ぽんと白い手が叩いた。
「安心していいわ! 私がルシファーを守るもの」
笑顔で請け負った魔王妃リリスの言葉に、曖昧に頷いたオレリアの後ろで、ラウムがアスタロト召喚を試みた。声に出さずに魔法陣を手のひらに描き、「アスタロト閣下、お願いします」と呟く。
「余が魔王である。その者を盾に取る卑怯者が、勇者か?」
「私が魔王妃よ! 日本人を盾にするなんて最低よ。さっさとその手を離しなさい」
挑発して怒らせ、その隙にアベルに逃げてもらおうと考えたルシファーとリリスは息ピッタリだった。だが、剣士は予想外の反応を見せる。
「亡命させてください」
「はぁ??」
「え?」
きょとんとして顔を見合わせたルシファーとリリスは、同時に首をかしげて剣士に視線を戻した。まだ剣先を突きつけられたままのアベルが「えええ? 人質になった意味って何?」と焦る。確かに彼を人質にする必要はなかった気がするが……。
「どこかで見たような光景だと思いましたが、アベルも亡命組でしたね」
心配したラウムに呼び出されたアスタロトが苦笑いした。呼ばれてきたものの、出番はなさそうだ。申し訳なさそうなラウムに手を振って、気にしないよう合図した。
「アスタロト、どうしたものか」
困惑したルシファーは、取り乱した心境を示すように普段の口調だ。肩を竦めたアスタロトが代わりに前に出た。
「亡命を希望とお聞きしましたが、理由を教えてください」
にっこり笑ったアスタロトは人当たりの良さそうな顔を装い、対応を始めた。このままルシファーに任せると、魔王の威厳もへったくれもない。さりげなくルシファーをヤンの上に押し戻し、リリスも抱っこさせた。これで彼らの化けの皮が剥がれる心配は減った。最低限の対応を終わらせたアスタロトに、剣士は後ろを気にしながら答える。
「彼らがいない場所でなら……」
どうやら自称勇者御一行様は、一枚岩ではないらしい。亡命を希望するのが剣士の彼のみなら、他の4人に聞かれる可能性がある場所で言いづらいのも理解できた。
「いいでしょう。アベルを解放して、こちらへどうぞ」
穏やかな物腰に、しかし剣士は警戒を解こうとしなかった。
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