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58章 悪人成敗で咲く恋の花
819. 無邪気な暴露は恐ろしい
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傷を表面だけ消して、中身はずたずたのまま放置してやろうかと考えたものの、心配しているルーサルカの横顔に諦めた。後でバレたら信頼を失いかねない。何より、ルーサルカを守ってくれたことに関しては感謝しているのだ。
獣人の噛み傷が、翳した手の下で塞がっていく。牙で引き裂いた肉や神経が繋がり、ぎゅっと拳を握っても痛みが走らなくなった。ほっとした様子のルーシアの腕の中で、アミーがきゃんきゃん鳴く。尻尾を振るアミーをイザヤが撫でた。
「ありがとうございます! 治ったぁ!! マジ、大公クラスすげぇ」
後半は叫んでいるが、アスタロトはアベルの発言をスルーしてルーサルカに向き直った。黒系のローブに彼女を隠すようにして帰宅を促す。先ほどはアミーの件があったので自由に行動させたが、やはり連れ帰るべきだったと後悔していた。有無を言わせず城へ連れ帰るつもりである。
男性に襲われたら相手を殺すが、人身売買目的で攫われるのも許せない。自覚のないヤンデレを発揮する吸血鬼王は、笑顔で本音を包んで促した。
「帰りましょうか」
「お義父様、あの……」
どうして喚ぶ前に来てくれたのか。ルーサルカが言葉を紡ぐ前に、がさりと草をかき分ける音がした。しかしアスタロトに警戒した様子がないことから、イザヤは柄に手を置いても抜かない。アベルは治った肩をぶんぶん回して、復調を確かめていた。
「アミー!」
「きゃん!!」
先ほどのアミーの遠吠えに呼応した人狼が飛び出した。道なき道を通ったらしく、全身に擦り傷や葉っぱがついている。ルーシアに駆け寄り、彼女から息子を受け取ると膝から崩れ落ちた。ほっとしたため力が抜けてしまい、そのまま座り込む。
「あなたがたも城の方が安全ですから、一緒に回収しますね」
相手の意見を聞かずに決めたアスタロトは、足元に呼び出した魔法陣でルーシアと人狼親子を包む。ルーサルカの手を取って引き寄せ、残された日本人ににっこり笑った。
「危険ですから、ご自宅まで送りましょう」
問答無用。アベルとイザヤに別の魔法陣をかぶせ、転移させてしまった。
彼らは購入した自宅の門の前に落とされたのだが……待っていた女性達に言い寄られて大騒ぎになる。騒ぎを聞きつけたアンナが彼らを回収するまで、もみくちゃにされたアベルは「魔族女性は誘拐犯より強かった」と青ざめて、翌日は夕方になるまで部屋から出てこなかったという。
魔王城の中庭に転移したアスタロトの笑顔は、花が咲かんばかりのご機嫌だ。逆に恐ろしくて遠巻きにする貴族の間をすり抜け、駆け寄った侍従のベリアルに人狼親子を任せた。城から出るときは誰かに言づけるよう言い聞かせ、親子は少し地味な部屋に案内される。
魔王城の中でも装飾品が少ない客間は存在する。侍従達の部屋に近い一角で、ゲーデはアミーを抱いて無事な現状に感謝した。気を利かせたベリアルが軽食と風呂を用意したため、親子はぐっすりと翌日の昼過ぎまで休めたらしい。
「ルーサルカ、ルーシア嬢もこちらへ」
心配したリリスが顔を見たいと強請ったため、少女達は夜中にも関わらず魔王が使う客間へ通された。すでに入浴を済ませたリリスの髪を乾かすルシファーが、櫛を片手に黒髪と格闘している。
「……ルシファー様、侍女長のアデーレが困っています」
仕事を取り上げられたアデーレが苦笑いする横で、アスタロトが苦言を呈する。何度言い聞かせても、この人は手を出してしまう。多少器用でこなすから困る。いっそ不器用で諦めてくれたらよかったのに。溜め息をついた側近に、顔を上げたルシファーが「お疲れ」と笑う。
反省の色はまったくない。膝の上にお座りしたリリスも、無事な2人の姿に頬を緩めた。
「よかったわ! 無事だったのね。さっきルカの血の匂いがするって、アシュタが飛び出したからびっくりしちゃった」
あっさり事情を暴露するお姫様に「……そうでしたか?」と惚けるアスタロト。しかし隣の妻アデーレは味方ではなかった。
「本当に。早かったですわね。まさか中庭へ行くのに飛び降りるなんて……どこぞの魔王陛下を叱れませんわ」
飛び降りたらしい。ケガをする心配はないが、行儀が悪いとルシファーをよく叱った手前、居心地悪そうにアスタロトは目を逸らした。そこへリリスが無邪気にとどめを刺す。
「これからは『ルカ』って愛称で呼ぶんでしょ? さっきもそうだったし」
咄嗟の場面でつい呼び方を変えた事実を指摘され、ついにアスタロトは右手で顔を覆った。
獣人の噛み傷が、翳した手の下で塞がっていく。牙で引き裂いた肉や神経が繋がり、ぎゅっと拳を握っても痛みが走らなくなった。ほっとした様子のルーシアの腕の中で、アミーがきゃんきゃん鳴く。尻尾を振るアミーをイザヤが撫でた。
「ありがとうございます! 治ったぁ!! マジ、大公クラスすげぇ」
後半は叫んでいるが、アスタロトはアベルの発言をスルーしてルーサルカに向き直った。黒系のローブに彼女を隠すようにして帰宅を促す。先ほどはアミーの件があったので自由に行動させたが、やはり連れ帰るべきだったと後悔していた。有無を言わせず城へ連れ帰るつもりである。
男性に襲われたら相手を殺すが、人身売買目的で攫われるのも許せない。自覚のないヤンデレを発揮する吸血鬼王は、笑顔で本音を包んで促した。
「帰りましょうか」
「お義父様、あの……」
どうして喚ぶ前に来てくれたのか。ルーサルカが言葉を紡ぐ前に、がさりと草をかき分ける音がした。しかしアスタロトに警戒した様子がないことから、イザヤは柄に手を置いても抜かない。アベルは治った肩をぶんぶん回して、復調を確かめていた。
「アミー!」
「きゃん!!」
先ほどのアミーの遠吠えに呼応した人狼が飛び出した。道なき道を通ったらしく、全身に擦り傷や葉っぱがついている。ルーシアに駆け寄り、彼女から息子を受け取ると膝から崩れ落ちた。ほっとしたため力が抜けてしまい、そのまま座り込む。
「あなたがたも城の方が安全ですから、一緒に回収しますね」
相手の意見を聞かずに決めたアスタロトは、足元に呼び出した魔法陣でルーシアと人狼親子を包む。ルーサルカの手を取って引き寄せ、残された日本人ににっこり笑った。
「危険ですから、ご自宅まで送りましょう」
問答無用。アベルとイザヤに別の魔法陣をかぶせ、転移させてしまった。
彼らは購入した自宅の門の前に落とされたのだが……待っていた女性達に言い寄られて大騒ぎになる。騒ぎを聞きつけたアンナが彼らを回収するまで、もみくちゃにされたアベルは「魔族女性は誘拐犯より強かった」と青ざめて、翌日は夕方になるまで部屋から出てこなかったという。
魔王城の中庭に転移したアスタロトの笑顔は、花が咲かんばかりのご機嫌だ。逆に恐ろしくて遠巻きにする貴族の間をすり抜け、駆け寄った侍従のベリアルに人狼親子を任せた。城から出るときは誰かに言づけるよう言い聞かせ、親子は少し地味な部屋に案内される。
魔王城の中でも装飾品が少ない客間は存在する。侍従達の部屋に近い一角で、ゲーデはアミーを抱いて無事な現状に感謝した。気を利かせたベリアルが軽食と風呂を用意したため、親子はぐっすりと翌日の昼過ぎまで休めたらしい。
「ルーサルカ、ルーシア嬢もこちらへ」
心配したリリスが顔を見たいと強請ったため、少女達は夜中にも関わらず魔王が使う客間へ通された。すでに入浴を済ませたリリスの髪を乾かすルシファーが、櫛を片手に黒髪と格闘している。
「……ルシファー様、侍女長のアデーレが困っています」
仕事を取り上げられたアデーレが苦笑いする横で、アスタロトが苦言を呈する。何度言い聞かせても、この人は手を出してしまう。多少器用でこなすから困る。いっそ不器用で諦めてくれたらよかったのに。溜め息をついた側近に、顔を上げたルシファーが「お疲れ」と笑う。
反省の色はまったくない。膝の上にお座りしたリリスも、無事な2人の姿に頬を緩めた。
「よかったわ! 無事だったのね。さっきルカの血の匂いがするって、アシュタが飛び出したからびっくりしちゃった」
あっさり事情を暴露するお姫様に「……そうでしたか?」と惚けるアスタロト。しかし隣の妻アデーレは味方ではなかった。
「本当に。早かったですわね。まさか中庭へ行くのに飛び降りるなんて……どこぞの魔王陛下を叱れませんわ」
飛び降りたらしい。ケガをする心配はないが、行儀が悪いとルシファーをよく叱った手前、居心地悪そうにアスタロトは目を逸らした。そこへリリスが無邪気にとどめを刺す。
「これからは『ルカ』って愛称で呼ぶんでしょ? さっきもそうだったし」
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