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58章 悪人成敗で咲く恋の花
818. 義父の勘ですよ
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「あの、お義父様?」
「さきほどは失敗しました。切り刻むなら、ベールの結界の中で行うべきでした」
反省しきりのアスタロトのセリフに、ルーシアが「愛されてるのね、たぶん」と呟く。家族愛であっても、捨て子の友人にとって必要な愛情だと思う。ちょっと……いえ、かなり過激だけれど。
ベールの結界内は、以前にワイバーンをバラした時と同じで、鳳凰の治癒を適用できる。貴族故に他種族の能力に詳しいルーシアは、聞こえないフリを貫くことに決めた。
「仕方ありません、死体も戻せるか聞いてみましょう」
人身売買の強盗もどきを倒すのに、アスタロト1人で過剰戦力である。それなのにベールの能力を使って、何度も生と死を行き来させるつもりらしい。吸血鬼王の本気に、ドン引きした周囲をよそに彼は獲物をせっせと転移した。
送られた先が研究熱心なルキフェルなのか、回復得意なベールか。はたまた治癒も出来るがバラすの大好きなベルゼビュートか。どこへ飛ばされても、悲惨なことには変わりない。しかしアスタロトに直接手を下されるよりマシだろう。
「……これで全部ですか?」
5人をすべて回収したアスタロトは、感知を使って確認を終えるとルーサルカの手を掴んだ。
「失礼しますね」
手のひらに描いた魔法陣を指先で弄って、一部を変更する。何度も確認して、魔法陣の出来に満足そうに頷いた。
「これで問題ありません。今後は心で私を呼んで貰えば、声が出なくても、喉を押さえられても伝わります」
やだ、それって最強じゃない。ルーシアの驚きの表情は、うちの過保護な親だってそこまでしないわ、という本音が漏れ出ていた。戦っていた敵を奪われたイザヤは、刃の状態を確認して血を拭ってからしまう途中で固まる。アミーはぶるぶる震えながら、必死に「きゅーん」と親を呼び続けた。
この場においても空気を読まないアベルが、どかっと尻をついて地面に転がる。
「だぁ、疲れた。大公クラスは強すぎるぜ。僕だって勇者だから強いはずなのに」
ぼやきながら、何度も深呼吸をする。魔力を集めて傷口を塞ごうと試みるが、呼吸のタイミングで痛むため集中できない。諦めて身をおこしたところで、ルーシアが駆け寄った。
「傷を塞ぐわ」
「助かります」
そのやりとりで、ルーサルカは慌ててアスタロトを見上げる。まだ手を握った義父に「彼は私を庇ってケガをしたの。助けてくださいませんか」と頼んだ。
魔法陣を書き換えたアスタロトは後ろを振り向き、アベルの傷にいま気づいたような顔で瞬きをした。
「ルーサルカを守った傷なら、残っても本望では……」
「お義父様、お願いします」
「わかりました」
なぜ渋るのか、首をかしげる当事者と察してしまった婚約者持ちに反応が分かれた。ルーサルカもアベルも恋愛音痴のようなところがある。しかし恋愛で婚約したルーシアや、最愛の妹を射止めたばかりのイザヤは気付いてしまった。
アスタロト大公は、自分を呼ばずに危機に陥った娘が、アベルに気があると考えている。そのため、多少の痛い目にあって諦めればいいと放置する気だった。たちの悪い大人の嫌がらせだが、当事者2人はまったく気づかない。あまりの鈍感さに、純白の主人を思い出し溜め息をついた。
どれだけ嫌がらせをしても、気づかない者が一番強いのだ。アスタロトは仕方なく近づくが、さり気なくルーサルカを自分の背に隠した。
見守るイザヤとルーシアは、心配で心臓がばくばくしている。うっかりした反応をしたら、アベルも先ほどの犯人のように真っ赤な水溜りになりそうな恐怖で声が出せなかった。
「傷をみせてください」
「あ、お願いします」
素直に応じるアベルの疑わない様子に毒気を抜かれながら、アスタロトは手をかざした。
「さきほどは失敗しました。切り刻むなら、ベールの結界の中で行うべきでした」
反省しきりのアスタロトのセリフに、ルーシアが「愛されてるのね、たぶん」と呟く。家族愛であっても、捨て子の友人にとって必要な愛情だと思う。ちょっと……いえ、かなり過激だけれど。
ベールの結界内は、以前にワイバーンをバラした時と同じで、鳳凰の治癒を適用できる。貴族故に他種族の能力に詳しいルーシアは、聞こえないフリを貫くことに決めた。
「仕方ありません、死体も戻せるか聞いてみましょう」
人身売買の強盗もどきを倒すのに、アスタロト1人で過剰戦力である。それなのにベールの能力を使って、何度も生と死を行き来させるつもりらしい。吸血鬼王の本気に、ドン引きした周囲をよそに彼は獲物をせっせと転移した。
送られた先が研究熱心なルキフェルなのか、回復得意なベールか。はたまた治癒も出来るがバラすの大好きなベルゼビュートか。どこへ飛ばされても、悲惨なことには変わりない。しかしアスタロトに直接手を下されるよりマシだろう。
「……これで全部ですか?」
5人をすべて回収したアスタロトは、感知を使って確認を終えるとルーサルカの手を掴んだ。
「失礼しますね」
手のひらに描いた魔法陣を指先で弄って、一部を変更する。何度も確認して、魔法陣の出来に満足そうに頷いた。
「これで問題ありません。今後は心で私を呼んで貰えば、声が出なくても、喉を押さえられても伝わります」
やだ、それって最強じゃない。ルーシアの驚きの表情は、うちの過保護な親だってそこまでしないわ、という本音が漏れ出ていた。戦っていた敵を奪われたイザヤは、刃の状態を確認して血を拭ってからしまう途中で固まる。アミーはぶるぶる震えながら、必死に「きゅーん」と親を呼び続けた。
この場においても空気を読まないアベルが、どかっと尻をついて地面に転がる。
「だぁ、疲れた。大公クラスは強すぎるぜ。僕だって勇者だから強いはずなのに」
ぼやきながら、何度も深呼吸をする。魔力を集めて傷口を塞ごうと試みるが、呼吸のタイミングで痛むため集中できない。諦めて身をおこしたところで、ルーシアが駆け寄った。
「傷を塞ぐわ」
「助かります」
そのやりとりで、ルーサルカは慌ててアスタロトを見上げる。まだ手を握った義父に「彼は私を庇ってケガをしたの。助けてくださいませんか」と頼んだ。
魔法陣を書き換えたアスタロトは後ろを振り向き、アベルの傷にいま気づいたような顔で瞬きをした。
「ルーサルカを守った傷なら、残っても本望では……」
「お義父様、お願いします」
「わかりました」
なぜ渋るのか、首をかしげる当事者と察してしまった婚約者持ちに反応が分かれた。ルーサルカもアベルも恋愛音痴のようなところがある。しかし恋愛で婚約したルーシアや、最愛の妹を射止めたばかりのイザヤは気付いてしまった。
アスタロト大公は、自分を呼ばずに危機に陥った娘が、アベルに気があると考えている。そのため、多少の痛い目にあって諦めればいいと放置する気だった。たちの悪い大人の嫌がらせだが、当事者2人はまったく気づかない。あまりの鈍感さに、純白の主人を思い出し溜め息をついた。
どれだけ嫌がらせをしても、気づかない者が一番強いのだ。アスタロトは仕方なく近づくが、さり気なくルーサルカを自分の背に隠した。
見守るイザヤとルーシアは、心配で心臓がばくばくしている。うっかりした反応をしたら、アベルも先ほどの犯人のように真っ赤な水溜りになりそうな恐怖で声が出せなかった。
「傷をみせてください」
「あ、お願いします」
素直に応じるアベルの疑わない様子に毒気を抜かれながら、アスタロトは手をかざした。
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