799 / 1,397
56章 海という新たな世界
794. 母の不安を察したのかも?
しおりを挟む
魔王ルシファーがリリスと腕を絡めて降り立つと、周囲をぐるりと囲まれた。貴族達は「ご無事だった」となぜか安心して涙する。城下町の住人達も同様で、確かにおかしかった。
「何がそんなに不安なのか?」
問うたルシファーへ、明確な返答を持つ者はおらず、皆が漠然とした不安に怯えた事実が浮き彫りになる。
「逆に平気な者はいるか?」
不安を覚えた者が理由を説明できないなら、何も感じなかった者との差異を調べる方がはやい。決断したルシファーの問いかけに、挙手したのは簡単に数えられる少人数だった。
アンナ、レライエ、アムドゥスキアス、アスタロト、ベルゼビュート、ベール、ルシファー。
魔力量は直接関係なさそうだが、レライエとアンナを除けば魔力量は人並外れて多い。気味の悪い現象に、ルシファーがルキフェルとベールに調査を命じた。少し離れた場所では、サタナキア将軍が、無事な娘の姿に涙している。彼も不安に駆られた側らしい。イポスも父の姿にほっとする。
この現象が長く続けば、街の機能や人々の生活に陰を落とすだろう。愛する人をずっと隣に置いて生活できる者は限られていた。仕事で離れたり、勉強や移動で一時的に距離を置くこともあるのだ。
「リリスもさっき、不安そうだったな」
魔力量でいえば、大公と大差ない彼女が影響されたのだから、やはり魔力は無関係だ。ルキフェルも突然飛び込んできたのは、親代わりのベールが近くにいなかったせいだろう。
困惑した状況で、ひとまず祭りの行事を可能な範囲で消化する決定を下した。祭りの期間中は仕事をしている者は限られ、家族や恋人が一緒にいることもできる。即位記念祭をあまり先延ばしできない事情もあった。
貴族は領地や領民を置いて参加しており、観光に来た魔族もそれぞれの家に戻らなくてはならない。可能な範囲の行事を終わらせておくことで、即位記念祭を打ち切る可能性も考慮したルシファーの宣言が出され、人々はひとまず散った。
「あのね、ルシファー。たぶんだけど……魔の森がまだ揺らいでるのよ」
リリス自身も確証がない話らしく、曖昧な言い方をする。少し迷いながら言葉を探す姿は、どこか幼く見えた。
「魔族は魔の森の子だから、母親が不安定だと伝わるんじゃないかしら」
なるほどと納得しかけたところで、アスタロトが口を挟んだ。
「アルシア子爵が、黒い何かが魔の森の魔力に混じっていると話しましたが、関係ありますか?」
ぱちりと金瞳を瞬き、リリスは口元を手で覆って考え込んだ。そんな彼女をふわりと抱き上げ、ルシファーは木陰へ歩き出す。後ろをついてくるヤンが巨大化し、大木の根元でくるんと丸くなった。
久しぶりの毛皮ソファに、ルシファーが声をかけて沈み込む。座り心地も温もりも申し分ないヤンの上に、ピヨも飛び乗った。まだ番のアラエルより母親代わりのヤンの地位が高いようだ。
「確証はないけど、魔の森が回収した魔力にまだ異世界の毒が入っていて、浄化し切れていないみたい。それが揺らぎになって、植物系の種族が影響を受けたのね」
納得したのか、アスタロトはそれ以上質問を重ねなかった。魔の森の安定を優先すべきだが、何をすればいいか分からない。ルシファーは迷いながら、提案した。
「魔の森を浄化する方法を探るか」
「何がそんなに不安なのか?」
問うたルシファーへ、明確な返答を持つ者はおらず、皆が漠然とした不安に怯えた事実が浮き彫りになる。
「逆に平気な者はいるか?」
不安を覚えた者が理由を説明できないなら、何も感じなかった者との差異を調べる方がはやい。決断したルシファーの問いかけに、挙手したのは簡単に数えられる少人数だった。
アンナ、レライエ、アムドゥスキアス、アスタロト、ベルゼビュート、ベール、ルシファー。
魔力量は直接関係なさそうだが、レライエとアンナを除けば魔力量は人並外れて多い。気味の悪い現象に、ルシファーがルキフェルとベールに調査を命じた。少し離れた場所では、サタナキア将軍が、無事な娘の姿に涙している。彼も不安に駆られた側らしい。イポスも父の姿にほっとする。
この現象が長く続けば、街の機能や人々の生活に陰を落とすだろう。愛する人をずっと隣に置いて生活できる者は限られていた。仕事で離れたり、勉強や移動で一時的に距離を置くこともあるのだ。
「リリスもさっき、不安そうだったな」
魔力量でいえば、大公と大差ない彼女が影響されたのだから、やはり魔力は無関係だ。ルキフェルも突然飛び込んできたのは、親代わりのベールが近くにいなかったせいだろう。
困惑した状況で、ひとまず祭りの行事を可能な範囲で消化する決定を下した。祭りの期間中は仕事をしている者は限られ、家族や恋人が一緒にいることもできる。即位記念祭をあまり先延ばしできない事情もあった。
貴族は領地や領民を置いて参加しており、観光に来た魔族もそれぞれの家に戻らなくてはならない。可能な範囲の行事を終わらせておくことで、即位記念祭を打ち切る可能性も考慮したルシファーの宣言が出され、人々はひとまず散った。
「あのね、ルシファー。たぶんだけど……魔の森がまだ揺らいでるのよ」
リリス自身も確証がない話らしく、曖昧な言い方をする。少し迷いながら言葉を探す姿は、どこか幼く見えた。
「魔族は魔の森の子だから、母親が不安定だと伝わるんじゃないかしら」
なるほどと納得しかけたところで、アスタロトが口を挟んだ。
「アルシア子爵が、黒い何かが魔の森の魔力に混じっていると話しましたが、関係ありますか?」
ぱちりと金瞳を瞬き、リリスは口元を手で覆って考え込んだ。そんな彼女をふわりと抱き上げ、ルシファーは木陰へ歩き出す。後ろをついてくるヤンが巨大化し、大木の根元でくるんと丸くなった。
久しぶりの毛皮ソファに、ルシファーが声をかけて沈み込む。座り心地も温もりも申し分ないヤンの上に、ピヨも飛び乗った。まだ番のアラエルより母親代わりのヤンの地位が高いようだ。
「確証はないけど、魔の森が回収した魔力にまだ異世界の毒が入っていて、浄化し切れていないみたい。それが揺らぎになって、植物系の種族が影響を受けたのね」
納得したのか、アスタロトはそれ以上質問を重ねなかった。魔の森の安定を優先すべきだが、何をすればいいか分からない。ルシファーは迷いながら、提案した。
「魔の森を浄化する方法を探るか」
20
お気に入りに追加
4,927
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~
大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア
8さいの時、急に現れた義母に義姉。
あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。
侯爵家の娘なのに、使用人扱い。
お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。
義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする……
このままじゃ先の人生詰んでる。
私には
前世では25歳まで生きてた記憶がある!
義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから!
義母達にスカッとざまぁしたり
冒険の旅に出たり
主人公が妖精の愛し子だったり。
竜王の番だったり。
色々な無自覚チート能力発揮します。
竜王様との溺愛は後半第二章からになります。
※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。
※後半イチャイチャ多めです♡
※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる