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56章 海という新たな世界
785. 可愛いわよね?
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パシッ……どんっ!!
激しい音がして落雷が巨体を直撃する。当然だが、足首を掴んでぶら下がるベルゼビュートも感電した。
ぱふっと間抜けな音がして、彼女の髪がくるくる丸まった。巻毛を通り越して、ちりちりに縮れている。自業自得なので、ベールは溜め息をついて見守った。くすくす笑うのはルキフェル、アスタロトは曖昧な笑顔でスルーした。
ここで誰も心配しないところが、魔王軍だ。落雷くらいで大公が傷つけられるなら、苦労しない。異常な魔力量の多さと外見の良さ、様々な技術を極めた彼らへの信望は厚い。
「ベルゼビュート大公閣下は、己の身を犠牲にして落雷を試されたのか」
好意的に受け止めた魔王軍のドラゴンをちらりとみたルシファーは、言いかけた言葉を飲み込んだ。彼らの幻想をわざわざ壊すことはない。夢見ていた方が幸せなこともあるのだ。
ベルゼビュートは間違いなく、感電のリスクを忘れていた。自慢の巻毛が縮れる可能性を失念しただけだ。
痺れた一瞬で手の力が抜けたのか。ぽちゃんと左手の子供が水の中に落ちた。いや、子供と表現していいかわからない。小柄な緑の生き物は、雷も平気だったらしい。すいすいと泳いで仲間と合流した。
灰色の巨大生物は硬直して動かなくなる。その触手の手を切り落とし、ベルゼビュートは海水へ落下した。濡れてくしゃくしゃになった髪を摘み、不満そうに唇を尖らせて戻ってくる。
「失敗したわ」
「ベルゼ姉さん、その髪も素敵よ」
縮れ過ぎて長さが半分になっているが、これはこれで個性的だ。吹き出しそうな口元を手で覆ったルシファーは、肩を震わせて笑いを抑えた。アスタロトの笑みが深くなる。ルキフェルはついに声を上げて笑い出した。
「ありがとう。ここまで縮れたら、切るしかないかしら」
ムッとしながらもリリスの褒め言葉に応じるベルゼビュートへ、ルキフェルが魔法陣をひとつ渡した。回復系の魔法陣だが、なにやら記号が複雑だ。
「これ、回復用だけど……直るかも」
大笑いしたルキフェルだが、ベルゼビュートに同情しないわけではない。見たことのない新種相手に戦って、名誉の負傷と呼ぶには面白すぎる姿で帰った同僚を労る気持ちはあった。決して新しい魔法陣を試してみたかったわけではない。
「助かるわ、戻った?」
開発中の魔法陣は予想通りに発動し、思っていた以上の結果をもたらした。ピンクの巻毛はいつものふわふわした形状を取り戻す。
「問題ない、いつも通り綺麗だぞ」
笑いそうになった詫びなのか。ルシファーが饒舌に褒める。頬を緩めたベルゼビュートは、腰に手を当てて振り返った。
「聖剣を海に落としちゃった」
落雷後に足を切り裂いた剣だが、海に落ちた際に手を離してしまった。拾いに再び海へ足を踏み入れる彼女の姿に、アスタロトが呆れたとぼやく。
「懲りない人ですね。ルシファー様といい勝負です」
「オレに失礼だぞ」
抗議するルシファーへ、リリスが袖を引っ張る。緑の小さな生き物を指さした。
「ルシファー、あの子達可愛いわ」
「「「「かわいい、ですか?」」」」
後ろの側近4人に「ないです」と否定も露わに問い返され、少し首をかしげる。隣のルシファーを見上げ、純白の髪を一房掴んだ。
「可愛いわよね」
「うーん、好みが分かれるところだが」
お世辞にも可愛いとは思えず、ルシファーも曖昧に逃げた。しかし完全否定するとリリスの機嫌を損ねる気がして、ぼんやりと誤魔化す。
「ねえ、あの大きいの。動かなくなったわ。もしかして殺しちゃったかしら」
困惑気味で聖剣を引きずって戻ってきたベルゼビュートの指摘に、全員が慌てて巨大生物に向き合った。
激しい音がして落雷が巨体を直撃する。当然だが、足首を掴んでぶら下がるベルゼビュートも感電した。
ぱふっと間抜けな音がして、彼女の髪がくるくる丸まった。巻毛を通り越して、ちりちりに縮れている。自業自得なので、ベールは溜め息をついて見守った。くすくす笑うのはルキフェル、アスタロトは曖昧な笑顔でスルーした。
ここで誰も心配しないところが、魔王軍だ。落雷くらいで大公が傷つけられるなら、苦労しない。異常な魔力量の多さと外見の良さ、様々な技術を極めた彼らへの信望は厚い。
「ベルゼビュート大公閣下は、己の身を犠牲にして落雷を試されたのか」
好意的に受け止めた魔王軍のドラゴンをちらりとみたルシファーは、言いかけた言葉を飲み込んだ。彼らの幻想をわざわざ壊すことはない。夢見ていた方が幸せなこともあるのだ。
ベルゼビュートは間違いなく、感電のリスクを忘れていた。自慢の巻毛が縮れる可能性を失念しただけだ。
痺れた一瞬で手の力が抜けたのか。ぽちゃんと左手の子供が水の中に落ちた。いや、子供と表現していいかわからない。小柄な緑の生き物は、雷も平気だったらしい。すいすいと泳いで仲間と合流した。
灰色の巨大生物は硬直して動かなくなる。その触手の手を切り落とし、ベルゼビュートは海水へ落下した。濡れてくしゃくしゃになった髪を摘み、不満そうに唇を尖らせて戻ってくる。
「失敗したわ」
「ベルゼ姉さん、その髪も素敵よ」
縮れ過ぎて長さが半分になっているが、これはこれで個性的だ。吹き出しそうな口元を手で覆ったルシファーは、肩を震わせて笑いを抑えた。アスタロトの笑みが深くなる。ルキフェルはついに声を上げて笑い出した。
「ありがとう。ここまで縮れたら、切るしかないかしら」
ムッとしながらもリリスの褒め言葉に応じるベルゼビュートへ、ルキフェルが魔法陣をひとつ渡した。回復系の魔法陣だが、なにやら記号が複雑だ。
「これ、回復用だけど……直るかも」
大笑いしたルキフェルだが、ベルゼビュートに同情しないわけではない。見たことのない新種相手に戦って、名誉の負傷と呼ぶには面白すぎる姿で帰った同僚を労る気持ちはあった。決して新しい魔法陣を試してみたかったわけではない。
「助かるわ、戻った?」
開発中の魔法陣は予想通りに発動し、思っていた以上の結果をもたらした。ピンクの巻毛はいつものふわふわした形状を取り戻す。
「問題ない、いつも通り綺麗だぞ」
笑いそうになった詫びなのか。ルシファーが饒舌に褒める。頬を緩めたベルゼビュートは、腰に手を当てて振り返った。
「聖剣を海に落としちゃった」
落雷後に足を切り裂いた剣だが、海に落ちた際に手を離してしまった。拾いに再び海へ足を踏み入れる彼女の姿に、アスタロトが呆れたとぼやく。
「懲りない人ですね。ルシファー様といい勝負です」
「オレに失礼だぞ」
抗議するルシファーへ、リリスが袖を引っ張る。緑の小さな生き物を指さした。
「ルシファー、あの子達可愛いわ」
「「「「かわいい、ですか?」」」」
後ろの側近4人に「ないです」と否定も露わに問い返され、少し首をかしげる。隣のルシファーを見上げ、純白の髪を一房掴んだ。
「可愛いわよね」
「うーん、好みが分かれるところだが」
お世辞にも可愛いとは思えず、ルシファーも曖昧に逃げた。しかし完全否定するとリリスの機嫌を損ねる気がして、ぼんやりと誤魔化す。
「ねえ、あの大きいの。動かなくなったわ。もしかして殺しちゃったかしら」
困惑気味で聖剣を引きずって戻ってきたベルゼビュートの指摘に、全員が慌てて巨大生物に向き合った。
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