779 / 1,397
55章 海の嘆きと森の歌
774. 集まりすぎた気がする
しおりを挟む
謁見の間は、可能な限り柱を減らした大広間だ。南側にドラゴンも通れる大きな窓があり、噴水のある庭がある。以前キマイラ騒動で壊れた噴水も、すでに修繕が終わっていた。北は廊下と扉があり、貴族の控室もそちらに用意される。東に魔王の居室がある居住棟へ繋がる通路があり、玉座は5段の階段上だった。
爵位を名乗り受付をして入るが、人型の種族ばかりに見える。その理由のひとつが、魔族特有の並び順にあった。背の低い種族から前に詰められていく。背丈の大きい者が前に出ると、後ろの者が見えなくなるため決められた法だが、実はもうひとつ理由があった。
ドラゴンやグリフォン、幻獣系の大きな種族が力を誇示しようと大型のまま入室すると、謁見の間に貴族が入りきれないのだ。そもそも魔族にとっての貴族とは、村のまとめ役程度の認識しかない。魔王への謁見等の権利は与えられるが、義務も同時に課せられるため、名誉職の意味合いが強かった。
強いから貴族、大きいから貴族というルールは存在しない。様々な種族から意見を吸い上げるため、精霊や植物に近い種族であっても爵位を持っていた。
手前に植木鉢がいくつか並べられる。アルラウネのアルシア子爵だ。ここ数年は顔を見せることが減ったが、代替わりが近い時期であり、即位記念祭に城下町へ来ていた。いわゆる「マンドラゴラ」と呼ばれる薬草姿なので、植木鉢に入ってエルフに運搬を依頼したという。
彼女らの隣に小さなスプリガンやケットシー、精霊が並んだ。小型魔獣や小さく変化できる種族も顔をのぞかせる。後ろに行くほど身長の高い種族が増えて、まるで巨大な階段のようだった。
壇上の赤い絨毯の両脇に、大公3人が並ぶ。両側に分かれて立つ彼と彼女らは、それぞれに書類を読み込んでいた。側近のアスタロトはルシファーと入室してから檀下におりるため、空席である。
一段下がってリリスの側近4人の少女が立った。仕事用として自分たちで選んだドレスは、淡い緑色のシンプルなものだ。主人より目立ちすぎず、しかし風景に沈まない色を選んだらしい。
ざわりと室内の空気が変わり、集まった人々が期待の眼差しを向ける。玉座の横から姿を見せたルシファーは、正装と行かないまでも着飾っていた。遅れてきた原因の半分はこの衣装に着替えることへの抵抗、残り半分は着替えにかかった時間である。
衣装は黒に限りなく近い紫色。柔らかなシルエットのローブ姿で、王冠を含めた飾りが大量に絡みついていた。盛装では、純白の髪やお飾りが目立つよう暗色を纏う。腕を絡めて隣に並ぶリリスは檸檬色の肩だしドレスだった。ブリーシンガルの髪飾り以外にも、指輪や耳飾りが光を弾く。艶姿の彼女はラベンダーのショールを羽織っていた。
2人で1つしかない玉座の前で止まると、貴族が一斉に頭を下げる。訓練したわけでもないのに、一様に敬意を示す姿は壮観だった。
「ご苦労だった。楽にしてくれ」
先に声をかけるのもいつものこと。顔を上げた貴族達から、感嘆の息が漏れた。即位記念祭で一緒に登城した家族連れの貴族が多く、妻や子供を連れての参加が許された事情がある。ぎちぎちに詰め込まれた状況に文句がない貴族達は、魔王と魔王妃の盛装姿に喜んだ。
魔の森の脅威が一時的に止まったこともあり、楽観的な雰囲気が広がっているのだ。アスタロトが玉座脇の定位置に立つと、まずルシファーが腰を下ろした。当然のように両手を伸ばし、リリスの細い腰を掴む。素直に身を任せるリリスを膝の上に座らせた。
横向きに座ったお姫様は、玉座のひじ掛けに膝を乗せて魔王の首に手を回す。斜め後ろでいつもの溜め息が漏れるが、ルシファーはいつものことと無視した。そう、いつものことなのだから。
爵位を名乗り受付をして入るが、人型の種族ばかりに見える。その理由のひとつが、魔族特有の並び順にあった。背の低い種族から前に詰められていく。背丈の大きい者が前に出ると、後ろの者が見えなくなるため決められた法だが、実はもうひとつ理由があった。
ドラゴンやグリフォン、幻獣系の大きな種族が力を誇示しようと大型のまま入室すると、謁見の間に貴族が入りきれないのだ。そもそも魔族にとっての貴族とは、村のまとめ役程度の認識しかない。魔王への謁見等の権利は与えられるが、義務も同時に課せられるため、名誉職の意味合いが強かった。
強いから貴族、大きいから貴族というルールは存在しない。様々な種族から意見を吸い上げるため、精霊や植物に近い種族であっても爵位を持っていた。
手前に植木鉢がいくつか並べられる。アルラウネのアルシア子爵だ。ここ数年は顔を見せることが減ったが、代替わりが近い時期であり、即位記念祭に城下町へ来ていた。いわゆる「マンドラゴラ」と呼ばれる薬草姿なので、植木鉢に入ってエルフに運搬を依頼したという。
彼女らの隣に小さなスプリガンやケットシー、精霊が並んだ。小型魔獣や小さく変化できる種族も顔をのぞかせる。後ろに行くほど身長の高い種族が増えて、まるで巨大な階段のようだった。
壇上の赤い絨毯の両脇に、大公3人が並ぶ。両側に分かれて立つ彼と彼女らは、それぞれに書類を読み込んでいた。側近のアスタロトはルシファーと入室してから檀下におりるため、空席である。
一段下がってリリスの側近4人の少女が立った。仕事用として自分たちで選んだドレスは、淡い緑色のシンプルなものだ。主人より目立ちすぎず、しかし風景に沈まない色を選んだらしい。
ざわりと室内の空気が変わり、集まった人々が期待の眼差しを向ける。玉座の横から姿を見せたルシファーは、正装と行かないまでも着飾っていた。遅れてきた原因の半分はこの衣装に着替えることへの抵抗、残り半分は着替えにかかった時間である。
衣装は黒に限りなく近い紫色。柔らかなシルエットのローブ姿で、王冠を含めた飾りが大量に絡みついていた。盛装では、純白の髪やお飾りが目立つよう暗色を纏う。腕を絡めて隣に並ぶリリスは檸檬色の肩だしドレスだった。ブリーシンガルの髪飾り以外にも、指輪や耳飾りが光を弾く。艶姿の彼女はラベンダーのショールを羽織っていた。
2人で1つしかない玉座の前で止まると、貴族が一斉に頭を下げる。訓練したわけでもないのに、一様に敬意を示す姿は壮観だった。
「ご苦労だった。楽にしてくれ」
先に声をかけるのもいつものこと。顔を上げた貴族達から、感嘆の息が漏れた。即位記念祭で一緒に登城した家族連れの貴族が多く、妻や子供を連れての参加が許された事情がある。ぎちぎちに詰め込まれた状況に文句がない貴族達は、魔王と魔王妃の盛装姿に喜んだ。
魔の森の脅威が一時的に止まったこともあり、楽観的な雰囲気が広がっているのだ。アスタロトが玉座脇の定位置に立つと、まずルシファーが腰を下ろした。当然のように両手を伸ばし、リリスの細い腰を掴む。素直に身を任せるリリスを膝の上に座らせた。
横向きに座ったお姫様は、玉座のひじ掛けに膝を乗せて魔王の首に手を回す。斜め後ろでいつもの溜め息が漏れるが、ルシファーはいつものことと無視した。そう、いつものことなのだから。
20
お気に入りに追加
4,953
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」
「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」
公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。
理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。
王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!
頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/01/30 完結
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです!
12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。
両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪
ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/07/06……完結
2024/06/29……本編完結
2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位
2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位
2024/04/01……連載開始
死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります
みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」
私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。
聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?
私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。
だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。
こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。
私は誰にも愛されていないのだから。
なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。
灰色の魔女の死という、極上の舞台をー
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる