758 / 1,397
54章 世界の終わりにも似て
753. まだ解決ではない
しおりを挟む
「陛下っ! 魔の森が戻ってますわ!!」
転移したベルゼビュートが、凄い剣幕で駆け寄る。転移の着地点は障害物を避けた彼女だが、かなり焦っていた。そのため途中でモレクにぶつかり、彼を押し倒す形で倒れ込む。
「聞いておられます? 魔の森の魔力が……っ」
「あ、ああ……すでに報告があったが……その、ひとまず立った方がいいのではないか?」
困惑顔のルシファーに指摘され、抵抗せず押し倒されたモレクの腰に跨って座った自分の姿に気づく。左側に大きく入ったスリットのお陰で、ドレスが破れることはないが……夫婦の夜の営みを覗き見てしまったような光景が広がっていた。
がばっと開いた白い脚は付け根付近まで木漏れ日に晒され、老体とはいえ下敷きにした男を跨いでいる。スカートが絶妙に隠したせいで余計にまずい状況に見えた。
「あ、あら。ごめんなさい。モレクも悪かったわ」
「いやいや、後頭部を打った価値があったというもの。なかなかの眼福でしたわい」
役得だったと笑って流す姿は、神龍の長老よりエロ爺である。風の魔法で身を浮かせ、すぐに降りたベルゼビュートに照れはなかった。それもそのはず、モレクが卵の頃から知っているのだ。近所の子供と戯れた程度の感覚しか持たなかった。
ついでに言うなら、ベルゼビュート自身は羞恥心が薄い。裸で城下町を歩いて注目されても気にしないくらい、性に関してオープンだった。
「こちらでも報告があり、確認しているところだ。ベルゼの領地でも魔力が戻ったんだな?」
最終確認をするルシファーに大きく頷いたベルゼビュートは、見てきた光景を語り出した。
「木々が魔力を帯びて、それは美しい緑色に輝いておりました。完全に元通り、もしかしたらそれ以上ですわ」
以前より魔力量が増えた気がした。そう明言する精霊女王の森に対する知覚は鋭く、本能と同じ深い部分で感じ取る。疑う理由はなかった。
理由は現時点で不明だが、魔の森は復活しようとしている。失った魔力が戻れば、魔物も魔族も以前と同じ領地に戻れるだろう。
ほっとして肩の力を抜いたルシファーが、ふらりとよろめいて、膝から崩れ落ちた。咄嗟に支えたのは、エドモンドだ。魔王軍の精鋭達が用意したテントへ運び込み、青ざめたルシファーの様子に眉をひそめた。
「悪い、少し気を抜いた」
苦笑いして身を起こそうとしたルシファーへ、腕を組んで唇を尖らせたベルゼビュートが立ちはだかった。
「少し休んでくださいませ」
「だが」
「結界も解いてくださいね。急激に魔力を消耗してますわ」
まだ解決した訳ではない。
突然魔力が流出したのだから、原因をしっかり探っておかなくてはならないのだ。また同じことが起きた際、迅速に対応できるように。同じ悲劇を起こさないために。今回は幸いにして民が集中していたため、救出も救護も間に合ったが、平常時にこのようなトラブルが発生したら、気づくまでに被害者が出る。
魔王として、民を守る役目があるのだから。そう主張しようとしたルシファーへ、ベルゼビュートが怒った顔で言い放った。
「もうっ! 言うことを聞いてくださらないなら、アスタロトを呼びますわよ!!」
「わ、わかった」
それは怖い。今の状況を彼に見られたら、絶対に叱られると青ざめたルシファーが頷いた。ルシファーもベルゼビュートも失念している。精霊女王ほどの者が感情に任せて名を呼べば、それは召喚と同じだった。
「陛下、なんという……また無茶をなさったのですね」
「アスタロト」
来てしまった。どうしてくれるんだと睨むが、ベルゼビュートはそっと目を逸らした。呼ぶつもりはなかったが、現実問題として呼んでしまった事実は否定できない。彼女の失礼な態度をスルーした側近は、テントに横になった主人の脇に膝をついた。
「説教はあらためて行いますが、ひとまず結界を解きましょう」
背に広げた6枚の翼が薄くなっている。このまま使い続ければ、以前のように不自由を強いられるだろう。そう考えて口にした言葉に、ルシファーは厳しい顔で首を横に振った。
転移したベルゼビュートが、凄い剣幕で駆け寄る。転移の着地点は障害物を避けた彼女だが、かなり焦っていた。そのため途中でモレクにぶつかり、彼を押し倒す形で倒れ込む。
「聞いておられます? 魔の森の魔力が……っ」
「あ、ああ……すでに報告があったが……その、ひとまず立った方がいいのではないか?」
困惑顔のルシファーに指摘され、抵抗せず押し倒されたモレクの腰に跨って座った自分の姿に気づく。左側に大きく入ったスリットのお陰で、ドレスが破れることはないが……夫婦の夜の営みを覗き見てしまったような光景が広がっていた。
がばっと開いた白い脚は付け根付近まで木漏れ日に晒され、老体とはいえ下敷きにした男を跨いでいる。スカートが絶妙に隠したせいで余計にまずい状況に見えた。
「あ、あら。ごめんなさい。モレクも悪かったわ」
「いやいや、後頭部を打った価値があったというもの。なかなかの眼福でしたわい」
役得だったと笑って流す姿は、神龍の長老よりエロ爺である。風の魔法で身を浮かせ、すぐに降りたベルゼビュートに照れはなかった。それもそのはず、モレクが卵の頃から知っているのだ。近所の子供と戯れた程度の感覚しか持たなかった。
ついでに言うなら、ベルゼビュート自身は羞恥心が薄い。裸で城下町を歩いて注目されても気にしないくらい、性に関してオープンだった。
「こちらでも報告があり、確認しているところだ。ベルゼの領地でも魔力が戻ったんだな?」
最終確認をするルシファーに大きく頷いたベルゼビュートは、見てきた光景を語り出した。
「木々が魔力を帯びて、それは美しい緑色に輝いておりました。完全に元通り、もしかしたらそれ以上ですわ」
以前より魔力量が増えた気がした。そう明言する精霊女王の森に対する知覚は鋭く、本能と同じ深い部分で感じ取る。疑う理由はなかった。
理由は現時点で不明だが、魔の森は復活しようとしている。失った魔力が戻れば、魔物も魔族も以前と同じ領地に戻れるだろう。
ほっとして肩の力を抜いたルシファーが、ふらりとよろめいて、膝から崩れ落ちた。咄嗟に支えたのは、エドモンドだ。魔王軍の精鋭達が用意したテントへ運び込み、青ざめたルシファーの様子に眉をひそめた。
「悪い、少し気を抜いた」
苦笑いして身を起こそうとしたルシファーへ、腕を組んで唇を尖らせたベルゼビュートが立ちはだかった。
「少し休んでくださいませ」
「だが」
「結界も解いてくださいね。急激に魔力を消耗してますわ」
まだ解決した訳ではない。
突然魔力が流出したのだから、原因をしっかり探っておかなくてはならないのだ。また同じことが起きた際、迅速に対応できるように。同じ悲劇を起こさないために。今回は幸いにして民が集中していたため、救出も救護も間に合ったが、平常時にこのようなトラブルが発生したら、気づくまでに被害者が出る。
魔王として、民を守る役目があるのだから。そう主張しようとしたルシファーへ、ベルゼビュートが怒った顔で言い放った。
「もうっ! 言うことを聞いてくださらないなら、アスタロトを呼びますわよ!!」
「わ、わかった」
それは怖い。今の状況を彼に見られたら、絶対に叱られると青ざめたルシファーが頷いた。ルシファーもベルゼビュートも失念している。精霊女王ほどの者が感情に任せて名を呼べば、それは召喚と同じだった。
「陛下、なんという……また無茶をなさったのですね」
「アスタロト」
来てしまった。どうしてくれるんだと睨むが、ベルゼビュートはそっと目を逸らした。呼ぶつもりはなかったが、現実問題として呼んでしまった事実は否定できない。彼女の失礼な態度をスルーした側近は、テントに横になった主人の脇に膝をついた。
「説教はあらためて行いますが、ひとまず結界を解きましょう」
背に広げた6枚の翼が薄くなっている。このまま使い続ければ、以前のように不自由を強いられるだろう。そう考えて口にした言葉に、ルシファーは厳しい顔で首を横に振った。
20
お気に入りに追加
4,953
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」
「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」
公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。
理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。
王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!
頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/01/30 完結
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです!
12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。
両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪
ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/07/06……完結
2024/06/29……本編完結
2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位
2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位
2024/04/01……連載開始
死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります
みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」
私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。
聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?
私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。
だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。
こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。
私は誰にも愛されていないのだから。
なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。
灰色の魔女の死という、極上の舞台をー
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる