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53章 お祭りは襲撃される運命
732. 幼い言動がもたらす疑惑
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「アミーが起きたら、少しだけ抱っこさせてもらえないかしら」
魔王妃という高い地位にいる魔族が、なぜ自分たちにお伺いを立てるのか。命令すればいいのにと思いながら、ゲーデは頷いた。自分を見下す連中か優しい妻という両極端な事例しか知らないゲーデにとって、リリスは分類できない魔族だった。
白い肌をしているのに、真黒な髪。赤い瞳は大きく、愛らしい顔をしていた。寒気がするほどの魔力を持つ上位魔族であり、街で見かけた子供の様にあどけなく笑う。不思議な存在に、ゲーデは対応に困っていた。威嚇しても効果がなさそうだ。
「リリス、おいで」
白い髪を結い終えたルシファーが呼ぶ。素直に近づいたリリスは、ルシファーの前に立って婚約者の姿を上から下まで確認して微笑んだ。
「素敵ね、ルシファー。カッコいいし、すごく綺麗だわ」
「綺麗は複雑だが……オレよりリリスの方が綺麗だよ」
純白の髪をゆるく結い、首筋にかかる程度まで長さが調整されている。王冠代わりの呪い付き髪飾りを7つ飾り、ゆったりした薄青いローブで正装した魔王は穏やかに言葉を返した。首飾りと耳飾りをいくつか付けたルシファーに薄化粧を施しながら、アスタロトが思い出したように指輪を手渡す。
「こちらをお持ちください」
「ああ、忘れてた」
宝石類が一切ない、地味な指輪は細い。文字に似た模様が刻まれた指輪を右手に嵌めた。そこへアデーレが戻り、リリスへ声をかける。
「お待たせしました、リリス様。今日はクリーム色のドレスですわ」
肩を出したドレスを着せたトルソーを用意するアデーレに、不機嫌になったリリスが嫌々と首を横に振った。
「いやよ、青いのがいいわ」
「変更なさいますか?」
今朝自ら決めたドレスを断るリリスに、アデーレは珍しいこともあるものだと内心で首をかしげながら別のドレスを取り出す。言われた通り青いドレスを見せるが、これも首を横に振って否定した。
「だめ、違う」
リリスは最近は使わなくなった幼女の頃の口調で否定し、唇を尖らせた。少女の姿に戻ってから、彼女がこんな振る舞いをしたことはない。甘やかされて育ったため我が侭は口にするが、こんな所作は記憶になかった。
「アスタロト、どう思う?」
アデーレとのやり取りに、嫌な予感が膨らむ。気のせいだと流せない違和感に、アスタロトもじっと観察しながら首を横に振った。
「リリス様らしくないですね」
「考えてみると、今朝から少しおかしかった」
「食べさせあう給餌行為なら、今までもございましたが……?」
さんざん目の前で披露したでしょう。嫌味交じりに切り替えされ、「ぐっ」と声を飲み込んだルシファーは説明を始めた。
「テラスでの食事を望んだのは、オレじゃなくリリスだ。屋台で買い占めようとしたり、知らない魔族に断りなしに触れて抱っこした。ゲーデが攻撃した際も無防備に動かず、ヤンが庇ったが……」
「それはおかしいですね」
リリスは好戦的な性格だが、お嬢様育ちのおっとりさが先に立つ。そのため幼女の頃のようにいきなり攻撃を仕掛けたり、他者に触れることは減っていた。それらを礼儀に置き換えて教えたアデーレや大公達の努力の結果だが、何もかも忘れたように振舞う。
今のドレス選びにしても、リリスならば選んだドレスを変更するなら詫びを一言添えることが多かったのに、今の会話は我が侭を振りかざすだけ。明らかに言動が幼くなった印象を与えた。
「何が……」
「ルシファー様っ! 一大事ですわ!!」
自慢のピンクの巻き毛が乱れるのも気にせず、ベルゼビュートは勢いよく飛び込む。この一声が、本当に大きな騒動になるとは誰も予想しなかった。
魔王妃という高い地位にいる魔族が、なぜ自分たちにお伺いを立てるのか。命令すればいいのにと思いながら、ゲーデは頷いた。自分を見下す連中か優しい妻という両極端な事例しか知らないゲーデにとって、リリスは分類できない魔族だった。
白い肌をしているのに、真黒な髪。赤い瞳は大きく、愛らしい顔をしていた。寒気がするほどの魔力を持つ上位魔族であり、街で見かけた子供の様にあどけなく笑う。不思議な存在に、ゲーデは対応に困っていた。威嚇しても効果がなさそうだ。
「リリス、おいで」
白い髪を結い終えたルシファーが呼ぶ。素直に近づいたリリスは、ルシファーの前に立って婚約者の姿を上から下まで確認して微笑んだ。
「素敵ね、ルシファー。カッコいいし、すごく綺麗だわ」
「綺麗は複雑だが……オレよりリリスの方が綺麗だよ」
純白の髪をゆるく結い、首筋にかかる程度まで長さが調整されている。王冠代わりの呪い付き髪飾りを7つ飾り、ゆったりした薄青いローブで正装した魔王は穏やかに言葉を返した。首飾りと耳飾りをいくつか付けたルシファーに薄化粧を施しながら、アスタロトが思い出したように指輪を手渡す。
「こちらをお持ちください」
「ああ、忘れてた」
宝石類が一切ない、地味な指輪は細い。文字に似た模様が刻まれた指輪を右手に嵌めた。そこへアデーレが戻り、リリスへ声をかける。
「お待たせしました、リリス様。今日はクリーム色のドレスですわ」
肩を出したドレスを着せたトルソーを用意するアデーレに、不機嫌になったリリスが嫌々と首を横に振った。
「いやよ、青いのがいいわ」
「変更なさいますか?」
今朝自ら決めたドレスを断るリリスに、アデーレは珍しいこともあるものだと内心で首をかしげながら別のドレスを取り出す。言われた通り青いドレスを見せるが、これも首を横に振って否定した。
「だめ、違う」
リリスは最近は使わなくなった幼女の頃の口調で否定し、唇を尖らせた。少女の姿に戻ってから、彼女がこんな振る舞いをしたことはない。甘やかされて育ったため我が侭は口にするが、こんな所作は記憶になかった。
「アスタロト、どう思う?」
アデーレとのやり取りに、嫌な予感が膨らむ。気のせいだと流せない違和感に、アスタロトもじっと観察しながら首を横に振った。
「リリス様らしくないですね」
「考えてみると、今朝から少しおかしかった」
「食べさせあう給餌行為なら、今までもございましたが……?」
さんざん目の前で披露したでしょう。嫌味交じりに切り替えされ、「ぐっ」と声を飲み込んだルシファーは説明を始めた。
「テラスでの食事を望んだのは、オレじゃなくリリスだ。屋台で買い占めようとしたり、知らない魔族に断りなしに触れて抱っこした。ゲーデが攻撃した際も無防備に動かず、ヤンが庇ったが……」
「それはおかしいですね」
リリスは好戦的な性格だが、お嬢様育ちのおっとりさが先に立つ。そのため幼女の頃のようにいきなり攻撃を仕掛けたり、他者に触れることは減っていた。それらを礼儀に置き換えて教えたアデーレや大公達の努力の結果だが、何もかも忘れたように振舞う。
今のドレス選びにしても、リリスならば選んだドレスを変更するなら詫びを一言添えることが多かったのに、今の会話は我が侭を振りかざすだけ。明らかに言動が幼くなった印象を与えた。
「何が……」
「ルシファー様っ! 一大事ですわ!!」
自慢のピンクの巻き毛が乱れるのも気にせず、ベルゼビュートは勢いよく飛び込む。この一声が、本当に大きな騒動になるとは誰も予想しなかった。
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