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53章 お祭りは襲撃される運命
731. 掠めた違和感
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人狼に関しては、祭りが終わるまで調査に協力してもらう名目で客間を与えた。魔の森の奥に棲むという彼の話をよく聞いた結果、すでに妻は死別したことが判明する。亡くなった妻はグリフォンだったという。滅多に人前に出ない種族であるため、結婚を届け出なかったらしい。
他の兄弟や両親から疎まれた人狼は、森の奥に1人隠れ住んでいた。その際に出会ったのがグリフォンの妻であり、子を産んですぐに亡くなったという。魔族の生死を記録した『魔族生死届出書』の巻物を確認したが、人狼の親である狐獣人とエルフの間に、人狼が生まれた届け出はなかった。
他種族の子供でも育てるのは魔族の特色だが、故意か過失か。人狼は無登録状態だったのである。そのため彼の結婚が届けられずとも、誰も気づかなかった。調査を進めると、妻のグリフォンは死亡の届け出がないものの、生まれ年の届けは発見された。大急ぎでルキフェルが家系の確認をしている。
生まれる子供は人狼か、グリフォン。親の片方の属性しか受け継がない。しかし人狼が突然変異なら父親の種族を受け継がない子供が生まれる可能性があった。しかし魔族の特性から判断すれば、人狼が受け継がれないならグリフォンの割合が高まる。
稀に父方や母方の祖父母の属性で生まれることもあった。現在の聞き取り状況では、魔狼にしか見えない子狼が生まれる可能性は皆無だ。将来的に人狼となれば、種族復活の承認を議会に諮る必要があった。
「この子が、人狼……?」
膝の上で丸くなって眠る子狼を撫でながら、人狼は不思議そうに呟いた。説明役を引き受けたルキフェルが「可能性の段階だけどね」と肩を竦める。
痺れが取れたルシファーは夕方からのイベントに備え、ベリアルとアスタロトに飾り付けられている最中だ。髪を結うため動かないよう言い聞かされたルシファーは、大人しく紅茶を飲みながら椅子に腰かけていた。
「あなたとその子のお名前は?」
無邪気なリリスは、アデーレの手が空くまで順番待ちだ。今は側近の少女達の着付けに駆り出されている侍女長は、忙しく手を動かしている頃だろう。
「おれはゲーデ、この子はアミーだ」
他者と触れ合ってこなかった人狼の言葉はぶっきらぼうだ。リリスは気にする様子もなく、微笑んで自己紹介した。
「私はリリス。ルシファーとアシュタよ」
「アスタロトです」
ルシファーの髪を結いながら、きっぱり訂正する。ゲーデの態度を無礼だと咎める気はないが、リリスの紹介した名は別だった。聞き流したらゲーデの中で「アシュタ」として記憶されかねない。
「はぁ……」
仲がいいのか剣呑なのか。判断に困ったゲーデが曖昧な声を上げる。リリスの中では、愛称の方が親しみが湧く程度の感覚だろうが、アスタロトは譲れない一線だった。気づいたものの、先ほど余計な発言をしてベールに叱られたルシファーは口を噤む。
「お願いがあるの」
首をかしげてリリスは少し時間を置いた。じっと待って目が合うと嬉しそうに笑う。
その様子に違和感を覚えたのは、ルシファーだけではなかった。いつものリリスなら、アスタロトが示した不快感へ詫びるなどの反応がある。なのに気づいていないのか、上の空の対応を見せたのだ。アスタロトも眉をひそめ、手を止めた。
何かがおかしい。明確な答えのない奇妙な感覚に、アスタロトは再び手を動かしながら考え込んだ。後でアミーを抱っこさせて欲しいと語るリリスの様子を観察しながら、ルシファーは銀の瞳を細めて溜め息をつく。
祭りの忙しさに振り回され、疲れているだけだろう。違和感が告げる警告を無視したその判断を、彼らはすぐに悔やむことになった。
他の兄弟や両親から疎まれた人狼は、森の奥に1人隠れ住んでいた。その際に出会ったのがグリフォンの妻であり、子を産んですぐに亡くなったという。魔族の生死を記録した『魔族生死届出書』の巻物を確認したが、人狼の親である狐獣人とエルフの間に、人狼が生まれた届け出はなかった。
他種族の子供でも育てるのは魔族の特色だが、故意か過失か。人狼は無登録状態だったのである。そのため彼の結婚が届けられずとも、誰も気づかなかった。調査を進めると、妻のグリフォンは死亡の届け出がないものの、生まれ年の届けは発見された。大急ぎでルキフェルが家系の確認をしている。
生まれる子供は人狼か、グリフォン。親の片方の属性しか受け継がない。しかし人狼が突然変異なら父親の種族を受け継がない子供が生まれる可能性があった。しかし魔族の特性から判断すれば、人狼が受け継がれないならグリフォンの割合が高まる。
稀に父方や母方の祖父母の属性で生まれることもあった。現在の聞き取り状況では、魔狼にしか見えない子狼が生まれる可能性は皆無だ。将来的に人狼となれば、種族復活の承認を議会に諮る必要があった。
「この子が、人狼……?」
膝の上で丸くなって眠る子狼を撫でながら、人狼は不思議そうに呟いた。説明役を引き受けたルキフェルが「可能性の段階だけどね」と肩を竦める。
痺れが取れたルシファーは夕方からのイベントに備え、ベリアルとアスタロトに飾り付けられている最中だ。髪を結うため動かないよう言い聞かされたルシファーは、大人しく紅茶を飲みながら椅子に腰かけていた。
「あなたとその子のお名前は?」
無邪気なリリスは、アデーレの手が空くまで順番待ちだ。今は側近の少女達の着付けに駆り出されている侍女長は、忙しく手を動かしている頃だろう。
「おれはゲーデ、この子はアミーだ」
他者と触れ合ってこなかった人狼の言葉はぶっきらぼうだ。リリスは気にする様子もなく、微笑んで自己紹介した。
「私はリリス。ルシファーとアシュタよ」
「アスタロトです」
ルシファーの髪を結いながら、きっぱり訂正する。ゲーデの態度を無礼だと咎める気はないが、リリスの紹介した名は別だった。聞き流したらゲーデの中で「アシュタ」として記憶されかねない。
「はぁ……」
仲がいいのか剣呑なのか。判断に困ったゲーデが曖昧な声を上げる。リリスの中では、愛称の方が親しみが湧く程度の感覚だろうが、アスタロトは譲れない一線だった。気づいたものの、先ほど余計な発言をしてベールに叱られたルシファーは口を噤む。
「お願いがあるの」
首をかしげてリリスは少し時間を置いた。じっと待って目が合うと嬉しそうに笑う。
その様子に違和感を覚えたのは、ルシファーだけではなかった。いつものリリスなら、アスタロトが示した不快感へ詫びるなどの反応がある。なのに気づいていないのか、上の空の対応を見せたのだ。アスタロトも眉をひそめ、手を止めた。
何かがおかしい。明確な答えのない奇妙な感覚に、アスタロトは再び手を動かしながら考え込んだ。後でアミーを抱っこさせて欲しいと語るリリスの様子を観察しながら、ルシファーは銀の瞳を細めて溜め息をつく。
祭りの忙しさに振り回され、疲れているだけだろう。違和感が告げる警告を無視したその判断を、彼らはすぐに悔やむことになった。
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