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53章 お祭りは襲撃される運命
728. 無罪放免が却下されました
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ほぼ悲鳴だった。返せと告げた泣き出しそうな響きに驚いたリリスの目に、飛び掛かる狼の姿が映る。人狼と呼べばいいのか、四つ足の狼がそのまま立ち上がった姿をしていた。獣人は人族に似た姿の一部が獣として残るため、獣人とは明らかに違う。
全身を毛に覆われた2本脚の獣……その表現が正しいか別として、大きく牙を剥いて攻撃する人狼は必死だった。ルシファーとリリスに襲い掛かる姿に、唸ったヤンが弾き飛ばす。本来の大きさに戻るスペースはないが、大型犬から牛くらいまで戻した体重で人狼を押さえた。
前足で人狼の胸を押したヤンの巨体が、しっかり抑え込む。フェンリルの鋭い牙が人狼の首にかけられ、いつでも食い殺せる状態で止まった。
「ヤン、そこまでだ」
ぽたりと落ちる唾液が、人狼の毛皮に垂れた。鼻を寄せて威嚇の唸りをやめないヤンの頭をぽんと撫で、ルシファーが身をかがめる。
「人狼、か。一度滅びたが……」
種の限界で滅びたはずの種族だ。いつ復活したのか。この種族を覚えているのは数万年を生きた大公クラスだろう。久しぶりの人狼に懐かしさを覚えたルシファーの腕の中で、抱いた狼の子が「きゅーん」と鼻を鳴らした。じたばた暴れながら、人狼へ近づこうとする。子狼に恐怖心は見られなかった。
試しに近づけると、子狼は人狼の毛皮をぺろぺろと舐める。親愛の情を示す子狼に対し、急所を取られたままの人狼も鼻を鳴らした。どうやら顔見知りのようだ。
「ヤン、離してやれ」
「はっ……ですが」
彼らが知り合い同士だとしても、魔王妃や魔王に危害を加えようとした罪人だった。ましてや危険が去ったと断言できない状況なのだ。命令に従うべきだが、危険が迫るなら背いても阻止する。迷いを滲ませたヤンの声に、ルシファーは子狼を人狼の上に置いて肩を竦めた。
「この程度の襲撃でやられるなら、魔王は務まらんさ。離してやってくれないか」
同じ命令をお願いの形で柔らかに言い直した主人に、フェンリルは牙を収めた。まだ唸っているが、数歩後ろに下がる。いつでも飛び掛かれるよう身を低くしたヤンは、リリスを庇う位置に立った。
赤い大きな瞳を瞬いたリリスがふわりと微笑む。
「親子なのね?」
唸り声で会話する子狼と人狼が鼻を突き合わせ、互いの顔をべろべろと舐める。悲鳴を上げて騒いだ獣人や屋台の店主たちが戻ってきた。牛サイズのフェンリルがまだ唸る中、彼らは魔王と魔王妃の無事を確かめて胸を撫でおろす。
「皆も騒がせた。こちらで対処するゆえ、祭りを楽しんでくれ」
ルシファーの言葉で、子供達が再び走り回る。店主は声を張り上げて客を呼び込み、周囲は祭りの喧騒を取り戻した。この辺の切り替えの早さは魔族ならではだ。魔王が安全を宣言し、対処を約束したならそれを信じる土壌ができていた。
「それじゃ無罪放免で」
実害もないし、これで終わりにしよう。幕引きを宣言しようとしたルシファーだが、後ろに浮かんだ魔法陣から口煩い参謀が現れた。
「陛下? 隠そうとしてもバレております」
民に紛れた魔王軍の巡回から連絡が入り、ルキフェルともども飛び込んだベールの厳しい言葉に首を竦める。祭りの間は基本的に正装や礼服ばかりの大公だが、ベールは軍服を纏っていた。魔王軍の公開演習があったのを思い出す。
普段見られない演習を披露するイベントは、一部にマニアなファンがいることで有名だった。今回も魔法をぶっぱなし、剣を振り回し、ドラゴンの取っ組み合いを公開したのだろう。その指揮官であるベールが軍服なのはわかるが……。
「なぜルキフェルが軍服を?」
首をかしげるルシファーの疑問に、ルキフェルは「似合う?」と回って見せた。リリスは素直に手を叩いて褒めているが、そもそもルキフェルは研究職で軍属ではない。
「それは後にしましょう。この人狼を無罪はありません」
話を元に戻すベールは、ぴしゃりと厳しく言い放った。
全身を毛に覆われた2本脚の獣……その表現が正しいか別として、大きく牙を剥いて攻撃する人狼は必死だった。ルシファーとリリスに襲い掛かる姿に、唸ったヤンが弾き飛ばす。本来の大きさに戻るスペースはないが、大型犬から牛くらいまで戻した体重で人狼を押さえた。
前足で人狼の胸を押したヤンの巨体が、しっかり抑え込む。フェンリルの鋭い牙が人狼の首にかけられ、いつでも食い殺せる状態で止まった。
「ヤン、そこまでだ」
ぽたりと落ちる唾液が、人狼の毛皮に垂れた。鼻を寄せて威嚇の唸りをやめないヤンの頭をぽんと撫で、ルシファーが身をかがめる。
「人狼、か。一度滅びたが……」
種の限界で滅びたはずの種族だ。いつ復活したのか。この種族を覚えているのは数万年を生きた大公クラスだろう。久しぶりの人狼に懐かしさを覚えたルシファーの腕の中で、抱いた狼の子が「きゅーん」と鼻を鳴らした。じたばた暴れながら、人狼へ近づこうとする。子狼に恐怖心は見られなかった。
試しに近づけると、子狼は人狼の毛皮をぺろぺろと舐める。親愛の情を示す子狼に対し、急所を取られたままの人狼も鼻を鳴らした。どうやら顔見知りのようだ。
「ヤン、離してやれ」
「はっ……ですが」
彼らが知り合い同士だとしても、魔王妃や魔王に危害を加えようとした罪人だった。ましてや危険が去ったと断言できない状況なのだ。命令に従うべきだが、危険が迫るなら背いても阻止する。迷いを滲ませたヤンの声に、ルシファーは子狼を人狼の上に置いて肩を竦めた。
「この程度の襲撃でやられるなら、魔王は務まらんさ。離してやってくれないか」
同じ命令をお願いの形で柔らかに言い直した主人に、フェンリルは牙を収めた。まだ唸っているが、数歩後ろに下がる。いつでも飛び掛かれるよう身を低くしたヤンは、リリスを庇う位置に立った。
赤い大きな瞳を瞬いたリリスがふわりと微笑む。
「親子なのね?」
唸り声で会話する子狼と人狼が鼻を突き合わせ、互いの顔をべろべろと舐める。悲鳴を上げて騒いだ獣人や屋台の店主たちが戻ってきた。牛サイズのフェンリルがまだ唸る中、彼らは魔王と魔王妃の無事を確かめて胸を撫でおろす。
「皆も騒がせた。こちらで対処するゆえ、祭りを楽しんでくれ」
ルシファーの言葉で、子供達が再び走り回る。店主は声を張り上げて客を呼び込み、周囲は祭りの喧騒を取り戻した。この辺の切り替えの早さは魔族ならではだ。魔王が安全を宣言し、対処を約束したならそれを信じる土壌ができていた。
「それじゃ無罪放免で」
実害もないし、これで終わりにしよう。幕引きを宣言しようとしたルシファーだが、後ろに浮かんだ魔法陣から口煩い参謀が現れた。
「陛下? 隠そうとしてもバレております」
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