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52章 不夜城のお祭り騒ぎ

721. 鬩ぎ合う緊迫の3戦目

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 手に馴染んだ柄をくるりと回転させ、石突で攻撃する。弾いたルシファーの鎌は武器としては優れている。優美な弧を描く刃の攻撃範囲は広く、形状の特性上、敵の攻撃をいなすことにも長けていた。

 それゆえの欠点も存在する。柄が長く攻撃範囲が広いということは、懐に入り込まれると無力だ。振りかぶった刃を槍の穂先にある装飾部分で弾き、絡めて時間を稼いだベールは一気に飛び込んだ。

 咄嗟に足を引いて後ろに下がろうとしたルシファーだが、間に合わない。穂先を突きつけたベールは、横に感じた危険に攻撃を諦めて防御した。縦にした槍の上部に刃が当たる。

 チリチリと肌を焼く危機感に、ベールの表情が一変した。あのまま防御しなければ、槍の先はルシファーに届いた。同時に自分の胴体が2つに切られただろう。

 槍を軸に身体をよじり、棒高跳びのように三日月の刃から上空へ逃れる。ひらりと舞い降りたベールの軍服の勲章がしゃらんと音を立てた。

「ダメか」

 勝ったと思ったが……ぼやくルシファーは、わざと隙を見せて誘った作戦を嘆く。ベールが槍の中央を掴んだ時点で、接近戦を仕掛けられると踏んだ。だから大きく振りかぶれば、誘えると隙を見せたのに避けられたと肩を落とす。

「振り回す動きに無駄があります」

「それは前にも指摘されたな」

 くすくす笑うルシファーが、デスサイズの握り方を変える。今までより少しだけ下へ手をずらした。攻撃のパターンを変えるつもりの主人に、ベールは興奮に乾いた唇を舐める。

 実戦なら魔法や別の武器も使う。結界も強いものを張るため、ルシファーは直せない癖をそのまま放置してきた。指摘されるのは何度目か。大公達は己を磨くことに妥協を許さない。

 ルシファーは守られる立場であり、同時に民を守る立場だった。大公のように一方的に守る立場の者は、己を犠牲にしても民や主人を守ろうとする。

「守られる側にも、努力は必要だ。守られるための……」

 意味深な呟きの意味を察して、ベールが溜め息を吐いた。

「我々が守りすぎるのですか」

 守られる立場が完璧ならば、部下はさらに上を求められる。だから隙を残してやった。そんなニュアンスの発言を平然とするルシファーは、どこまで意味を理解しているのか。

「では御指南いただきたく」

 次の攻撃にすべてを賭ける。真ん中より前寄りへ手を滑らせ、握らずに右手を添えた。重心を低くする姿勢で足を踏ん張るベールに、観客が静まり返る。

「……なるほど、居合に近い構えだ」

 穂先を後ろにし、石突を前に構えた。持ち替えた勢いで振るのだろう。イザヤがぼそりと呟けば、周囲の魔族がひそひそと小声で尋ねてきた。

「何をするのか、あんたはわかるのか?」

「喉を突く」

 一言で答えたイザヤの声に、ヒュオゥと風を切る音が重なった。観戦する魔族はごくりと息をのむ。

 持ち替える仕草で振り抜かれた槍は半回転して穂先を魔王へ向ける。その間にデスサイズの曲線の刃を大地に突き立て、防御の体制を整えたルシファーが応じる。半円を描く刃の外側を甲高い音で、槍の装飾が走った。

「ちっ」

 舌打ちしたのはルシファーだった。穂先を刃の背で捉えるはずが、装飾を引っ掛けられた。穂先は刃の内側にあり、己に向いている。

「きゃあああ! ルシファー!!」

 華麗な足捌きで踏み込んだベールの低い姿勢からの突きが、穂先をまっすぐに純白の魔王を襲う。思わず叫んだリリスの声を聞きながら、ルシファーは軽やかなステップで左へかわした。

 背の翼を広げて下がろうとしたルシファーの首横を穂先が滑る。あのまま後ろへ下がったら、喉元に突きつけられただろう。しかし横へずれたことで、穂先は標的を捉えることなく流れた。

 じゃらりと重い音がして、ルシファーの首飾りが足元に落ちる。

「……まさか、避けられるとは……降参いたします」

 結界で守られた首を落とせるわけがない。しかし槍の穂先を結界で砕けば、ルシファーの負け。今年は大逆転があってもいいかと考えたが、避けられるとは思わなかった。

 苦笑いしたベールが一礼し、リリスの悲鳴で静まりかえった魔族は大喝采を送った。拍手と歓声がわっと夜闇を切り裂く。動物や魔物が騒ぎに驚いて、城近くの森がざわめいた。
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