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52章 不夜城のお祭り騒ぎ
713. 本気を引き出すなら
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突然飛んできた矢を、首を傾けて避ける。斜め後ろに刺さった矢から蔓が出て、ルシファーの足に絡みついた。拘束系の魔法だろう。魔法陣を使わないため、返しにくい。
他の挑戦者と違い、声をかけないのは奇襲だからだ。獲物を狙う狩人が、大声を出すことはない。それは卑怯ではなく、作戦の一つだった。
「なるほど、考えたな」
口元を緩めたルシファーは魔力を解放するため、背に翼を2枚広げた。本来は必要ないが、この身に触れた褒美だ。肌に絡む蔓が身をよじるように千切れ、痕跡も残さず消滅した。炎も氷も使わず、風で切り裂く必要もない。
ただ純然たる魔力の応酬だった。
「見事だ、誇るがいい、オレリア。強いて言うなら、複数の矢を操れるようになれ」
同じ効果を持たせた複数の矢を使用すれば、四方八方から縛ることができる。エルフの新たな武器になるだろう。魔力量も必要だが、獲物を狩る際に複数のハイエルフで囲い込むことが可能だった。
「ありがとうございました」
結婚する彼女は最後のチャンスと定め、全力で挑んだ。魔力量が足りなかったが、それ以外は特に問題はない。敵に使うなら薔薇のように棘の鋭い植物を使うのも手だった。彼女もそこは気付いているだろう。
ルシファーの腕にリリスがいると気づき、直前で棘のない蔓植物に変更したのだから。
くすくす笑うリリスは、ずっと包まれたままだ。黒いローブから顔を覗かせたお姫様は、ルシファーの嬉しそうな顔を指先でつついた。
「戦いの指南?」
「これはイベントだ。最後は派手になるぞ」
オレリアが礼をして下がると、リリスが下りると言い出した。仕方なくサンダルを渡して立たせると、彼女は少し大きな声を出す。
「ヤン!」
「姫、お呼びですか」
近くの魔獣の群れに紛れていたヤンは、本来の大きさに戻って伏せた。その毛皮に登って首の後ろに跨がる。白い脹脛が見えて、焦ったルシファーが手を伸ばした。
「私は少し離れたところで見学するから、ルシファーはきちんと相手をしてあげて」
10年に1回しかチャンスはない。勝ち抜き戦で油断して負ければ、挑戦権は失われて魔王に届かなくなる。前回覇者でも途中で消えるかもしれない、本気の戦いだった。
魔族にとって大切なイベントなのだ。邪魔をしたくないと言われれば、渋々ながら引くしかなかった。
万が一にも弾いた攻撃や剣が彼女を傷つけないよう、ヤンごと結界で包む。
「いいか、絶対に下りちゃダメだぞ。あと、足を横にして座りなさい。まっすぐに乗ると膝上まで見えそうだ。それと……」
小言のように注意事項を告げるルシファーに従い、リリスは横向きに座り直す。両足を揃えて、足首より先がローブから見えない形にした。まだ注意があるのかと尋ねようとしたリリスの視界に、レライエが過ぎる。
「レライエ、一緒に見学しない?」
「あ、いいですね。ぜひご一緒させてください」
腕に抱かれた翡翠竜が先に返事をする。レライエも笑顔で頷いた。結界を一度解いてもらい、ヤンの背中に登るのを待って結界を張り直す。
ルーシアは婚約者のジンと、湖で月見の約束をしたと聞いた。カルンとルーサルカは、アデーレと食事をして早めに休むらしい。今日は疲れたのだろう。シトリーも兄と一緒に、城下町へ遊びに出る予定を口にしていた。
翡翠竜に『魔王チャレンジ』の存在を教えてもらったレライエは、密かに楽しみにしていたのだ。好戦的な婚約者の機嫌を取るアムドゥスキアスは、ゆらりと尻尾を揺らす。
「さて、今年は頑張りましょう」
他の挑戦者と違い、声をかけないのは奇襲だからだ。獲物を狙う狩人が、大声を出すことはない。それは卑怯ではなく、作戦の一つだった。
「なるほど、考えたな」
口元を緩めたルシファーは魔力を解放するため、背に翼を2枚広げた。本来は必要ないが、この身に触れた褒美だ。肌に絡む蔓が身をよじるように千切れ、痕跡も残さず消滅した。炎も氷も使わず、風で切り裂く必要もない。
ただ純然たる魔力の応酬だった。
「見事だ、誇るがいい、オレリア。強いて言うなら、複数の矢を操れるようになれ」
同じ効果を持たせた複数の矢を使用すれば、四方八方から縛ることができる。エルフの新たな武器になるだろう。魔力量も必要だが、獲物を狩る際に複数のハイエルフで囲い込むことが可能だった。
「ありがとうございました」
結婚する彼女は最後のチャンスと定め、全力で挑んだ。魔力量が足りなかったが、それ以外は特に問題はない。敵に使うなら薔薇のように棘の鋭い植物を使うのも手だった。彼女もそこは気付いているだろう。
ルシファーの腕にリリスがいると気づき、直前で棘のない蔓植物に変更したのだから。
くすくす笑うリリスは、ずっと包まれたままだ。黒いローブから顔を覗かせたお姫様は、ルシファーの嬉しそうな顔を指先でつついた。
「戦いの指南?」
「これはイベントだ。最後は派手になるぞ」
オレリアが礼をして下がると、リリスが下りると言い出した。仕方なくサンダルを渡して立たせると、彼女は少し大きな声を出す。
「ヤン!」
「姫、お呼びですか」
近くの魔獣の群れに紛れていたヤンは、本来の大きさに戻って伏せた。その毛皮に登って首の後ろに跨がる。白い脹脛が見えて、焦ったルシファーが手を伸ばした。
「私は少し離れたところで見学するから、ルシファーはきちんと相手をしてあげて」
10年に1回しかチャンスはない。勝ち抜き戦で油断して負ければ、挑戦権は失われて魔王に届かなくなる。前回覇者でも途中で消えるかもしれない、本気の戦いだった。
魔族にとって大切なイベントなのだ。邪魔をしたくないと言われれば、渋々ながら引くしかなかった。
万が一にも弾いた攻撃や剣が彼女を傷つけないよう、ヤンごと結界で包む。
「いいか、絶対に下りちゃダメだぞ。あと、足を横にして座りなさい。まっすぐに乗ると膝上まで見えそうだ。それと……」
小言のように注意事項を告げるルシファーに従い、リリスは横向きに座り直す。両足を揃えて、足首より先がローブから見えない形にした。まだ注意があるのかと尋ねようとしたリリスの視界に、レライエが過ぎる。
「レライエ、一緒に見学しない?」
「あ、いいですね。ぜひご一緒させてください」
腕に抱かれた翡翠竜が先に返事をする。レライエも笑顔で頷いた。結界を一度解いてもらい、ヤンの背中に登るのを待って結界を張り直す。
ルーシアは婚約者のジンと、湖で月見の約束をしたと聞いた。カルンとルーサルカは、アデーレと食事をして早めに休むらしい。今日は疲れたのだろう。シトリーも兄と一緒に、城下町へ遊びに出る予定を口にしていた。
翡翠竜に『魔王チャレンジ』の存在を教えてもらったレライエは、密かに楽しみにしていたのだ。好戦的な婚約者の機嫌を取るアムドゥスキアスは、ゆらりと尻尾を揺らす。
「さて、今年は頑張りましょう」
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