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51章 海からの使者
703. カルンがいない?!
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狩りに出た者が戻り、プレゼントされた獲物を集めて城門前に積み上げる。雷で痺れさせたルシファーが大量に持ち帰ったため、前回の倍近い成果だった。
「よし、全員で解体作業だ」
獲物を捕まえた後は、食肉加工が待っている。早朝から狩りを行い、午前中に一部の獲物を肉の形に解体し、お昼ご飯とするのが慣しだった。人気の魔王様参加の焼肉と聞き、多くの民が集まる。貴族も城仕えも関係なく、全員で獲物を解体し始めた。
「ルシファー様、そちらでお待ち下さい」
「リリス様のお手が汚れますわ」
手伝おうとしたのだが、なぜか手出しさせてもらえない2人は、少し離れた場所でかまどを作り始めた。
「このくらい大きいのがいいわ」
「鉄板を持ってるのは誰だ? 大きさを確認しないと……後で調整するか」
鉄板の大きさがわからないため、ルシファーが首をかしげる。しかし問題ないと適当に土からかまどを作り上げた。大きければ小さくする方法はいくらでもある。
「陛下! 大変ですわ」
悲鳴に近い叫び声に顔を上げると、ルーサルカが駆けてくる。綺麗に結い上げた髪が乱れるのも気にせず、全力で走ってきた。もし彼女に獣化のスキルがあったら、四つ足で全力疾走しそうな勢いだ。
「何かしら」
リリスも驚いて、魔法を使う手を止めた。魔法陣を使わないリリスの魔法は、巨大鍋を受け止める土台が作りかけ状態だ。
「あの子……カルンがいません!」
「は?」
「え?」
ルシファーとリリスが同時に声をあげ、顔を見合わせた。魔力が薄いカルンは、魔力感知で探すことが難しい。事実、城の警備をすり抜けた程度の魔力しか見せなかった。
白に近い色は豊富な魔力量の証だが、薄いピンク系の肌を持つカルンは、なんらかの理由で魔力が微量だった。魔族のルールから外れる子供は、見失ったら発見が困難だ。
「昨夜はルカの部屋で寝たのよね?」
レライエとルーシアは狩りに顔をだしたが、シトリーとルーサルカは参加しなかった。その理由は、明日の演劇に参加するシトリーは準備があるため。ルーサルカはカルンの面倒を見ていたからだ。
「あの……実は昨夜言い争いをしたのです」
申し訳なさそうに項垂れるルーサルカから聞き出した話は、意外なものだった。カルンはやはり温かいお湯が嫌いらしく、水浴びを提案すると大喜びして風呂場に向かう。その際に服を脱がせたカルンは、雌雄同体だった。
「雌雄同体は珍しいが、それが言い争う原因か?」
なぜ言い争いになったのか。疑問を呈したルシファーへ、ルーサルカは真っ赤な顔でぼそぼそと答えた。
「カルンが私をお嫁さんにすると言いだしたんです。だから……っ、その……無理だと」
「どうして無理なの。年の差なら……」
魔族なら100年単位の年齢差での婚姻も普通だ。見た目の問題も数十年で解決する程度のことだった。そう尋ねるリリスへ、顔どころか首や耳まで真っ赤になったルーサルカが唇を噛む。
「リリス、問い詰めたらダメだ。ルーサルカだって年頃のご令嬢なのだから、いろいろ」
他に好きな人がいるのかもしれないし。そんなニュアンスでルシファーが口を挟む。
「違いますっ! えっと、あ、その……だって」
興奮した口調で否定した後、何も言えなくなって倒れそうなルーサルカに、駆け寄ったのはルーシアだった。
「失礼しますわ。ルカ、一度休みましょう」
「でも、カルン、が……」
「落ち着いて。カルンを探すだけなら理由は後でもいいの。だから捜索のお願いだけしたら、こちらで休むのよ」
「そうだな。話は後で落ち着いてからでいい。カルンを探すのはオレが責任を持って引き受けよう」
ルシファーの確約と、頷くリリスの穏やかな表情に促され、ルーシアに肩を抱かれたルーサルカは離れた芝の上に座った。顔を両手で覆った姿は、反省しているようにも、照れている姿にも見える。
「珍しいわね、ルカは落ち着いてる子なのに」
大人びた口調で不思議と語るリリスへ、ルシファーは物知り顔で肩を竦めた。
「恋でもしたか。女の子は昨日と今日で別人のように変わるらしいぞ」
「私は変わらないわ」
「いや? 腕の中でいきなり成長したし、赤子になっただろ」
くすくす笑って揶揄うルシファーに、頬を膨らませたリリスが「もう!」と拳を作って叩く。それを受けとめ、ルシファーはばさりと4枚の翼を背に出した。
「探すから、リリスも手伝ってくれ」
「ええ、もちろんよ」
リリスの背に1対2枚の白い羽と、頭上に光る輪が浮かぶ。護衛のヤンが慌てて駆け寄った。大型化したヤンの陰で、手を繋いだ2人はカルンの微かな魔力を辿るために目を閉じた。
「よし、全員で解体作業だ」
獲物を捕まえた後は、食肉加工が待っている。早朝から狩りを行い、午前中に一部の獲物を肉の形に解体し、お昼ご飯とするのが慣しだった。人気の魔王様参加の焼肉と聞き、多くの民が集まる。貴族も城仕えも関係なく、全員で獲物を解体し始めた。
「ルシファー様、そちらでお待ち下さい」
「リリス様のお手が汚れますわ」
手伝おうとしたのだが、なぜか手出しさせてもらえない2人は、少し離れた場所でかまどを作り始めた。
「このくらい大きいのがいいわ」
「鉄板を持ってるのは誰だ? 大きさを確認しないと……後で調整するか」
鉄板の大きさがわからないため、ルシファーが首をかしげる。しかし問題ないと適当に土からかまどを作り上げた。大きければ小さくする方法はいくらでもある。
「陛下! 大変ですわ」
悲鳴に近い叫び声に顔を上げると、ルーサルカが駆けてくる。綺麗に結い上げた髪が乱れるのも気にせず、全力で走ってきた。もし彼女に獣化のスキルがあったら、四つ足で全力疾走しそうな勢いだ。
「何かしら」
リリスも驚いて、魔法を使う手を止めた。魔法陣を使わないリリスの魔法は、巨大鍋を受け止める土台が作りかけ状態だ。
「あの子……カルンがいません!」
「は?」
「え?」
ルシファーとリリスが同時に声をあげ、顔を見合わせた。魔力が薄いカルンは、魔力感知で探すことが難しい。事実、城の警備をすり抜けた程度の魔力しか見せなかった。
白に近い色は豊富な魔力量の証だが、薄いピンク系の肌を持つカルンは、なんらかの理由で魔力が微量だった。魔族のルールから外れる子供は、見失ったら発見が困難だ。
「昨夜はルカの部屋で寝たのよね?」
レライエとルーシアは狩りに顔をだしたが、シトリーとルーサルカは参加しなかった。その理由は、明日の演劇に参加するシトリーは準備があるため。ルーサルカはカルンの面倒を見ていたからだ。
「あの……実は昨夜言い争いをしたのです」
申し訳なさそうに項垂れるルーサルカから聞き出した話は、意外なものだった。カルンはやはり温かいお湯が嫌いらしく、水浴びを提案すると大喜びして風呂場に向かう。その際に服を脱がせたカルンは、雌雄同体だった。
「雌雄同体は珍しいが、それが言い争う原因か?」
なぜ言い争いになったのか。疑問を呈したルシファーへ、ルーサルカは真っ赤な顔でぼそぼそと答えた。
「カルンが私をお嫁さんにすると言いだしたんです。だから……っ、その……無理だと」
「どうして無理なの。年の差なら……」
魔族なら100年単位の年齢差での婚姻も普通だ。見た目の問題も数十年で解決する程度のことだった。そう尋ねるリリスへ、顔どころか首や耳まで真っ赤になったルーサルカが唇を噛む。
「リリス、問い詰めたらダメだ。ルーサルカだって年頃のご令嬢なのだから、いろいろ」
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「違いますっ! えっと、あ、その……だって」
興奮した口調で否定した後、何も言えなくなって倒れそうなルーサルカに、駆け寄ったのはルーシアだった。
「失礼しますわ。ルカ、一度休みましょう」
「でも、カルン、が……」
「落ち着いて。カルンを探すだけなら理由は後でもいいの。だから捜索のお願いだけしたら、こちらで休むのよ」
「そうだな。話は後で落ち着いてからでいい。カルンを探すのはオレが責任を持って引き受けよう」
ルシファーの確約と、頷くリリスの穏やかな表情に促され、ルーシアに肩を抱かれたルーサルカは離れた芝の上に座った。顔を両手で覆った姿は、反省しているようにも、照れている姿にも見える。
「珍しいわね、ルカは落ち着いてる子なのに」
大人びた口調で不思議と語るリリスへ、ルシファーは物知り顔で肩を竦めた。
「恋でもしたか。女の子は昨日と今日で別人のように変わるらしいぞ」
「私は変わらないわ」
「いや? 腕の中でいきなり成長したし、赤子になっただろ」
くすくす笑って揶揄うルシファーに、頬を膨らませたリリスが「もう!」と拳を作って叩く。それを受けとめ、ルシファーはばさりと4枚の翼を背に出した。
「探すから、リリスも手伝ってくれ」
「ええ、もちろんよ」
リリスの背に1対2枚の白い羽と、頭上に光る輪が浮かぶ。護衛のヤンが慌てて駆け寄った。大型化したヤンの陰で、手を繋いだ2人はカルンの微かな魔力を辿るために目を閉じた。
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