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50章 即位記念祭前夜

688. 跪いて靴を履かせるプレイ

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 塔を除く居住スペースは3階が最上階となる。ルシファー達の私室はもちろん、大公や側近達など住み込みの中でも重要な立場の者が住んでいた。その廊下を歩き中央部分の階段を下りて、2階の廊下を歩いて執務室が面する隣の部屋のテラスに出る。さほど複雑な道順ではない。

 問題はその靴をあげた「裸足の子」が、どこから入り込んだか。魔王城の中庭まで解放されて、様々な種族が地位に関係なく入れる。しかし建物は出入り口を限定し、窓はすべて魔法陣で封印された。この状況で、子供が歩いているのはおかしい。

「リリス、どんな子だった?」

「だから、裸足よ」

 端的な答えに、アスタロトが乗り出した。

「質問を変えましょうか。肌や髪の色など特徴を教えてください」

「薄いピンク系の肌で、紫色の髪と瞳だったわ。まだ小さい子よ。5歳くらいかしら」

 質問の内容を具体的にしたら、話が進んだ。むっとしながらルシファーは大人しく引き下がり、リリスはきょとんとした顔で首をかしげる。しゃらんと銀鎖が音を立てた。

「他に何かありませんか? 角、鱗、翼など……」

「うーん。何かあったかしら」

「リリス様、発言をよろしいですか?」

 イポスが律義にお伺いを立てる。お祭りの間はサタナキア公爵令嬢に戻って、自由に過ごしていいと話したのだが、彼女は護衛の任務を取った。本当に真面目な子だ。

「聞かなくていいのよ」

「いいえ、職分です。アスタロト大公閣下、裸足の子供についてご報告申し上げます。子供は女児で5歳前後、ペタペタと足音を立てて歩いておりました。子供の足跡は濡れ、指の間は水かきがあります。翼、角はなく、鱗は判断がつきません。色はリリス様のおっしゃる通りですが、髪がごつごつと硬い素材に見えました」

「ご苦労でした」

 労ったアスタロトが思い浮かべたのは、水辺に棲む一族の特徴だ。角も翼もないのは水辺に棲む一族の大半が当てはまる。除外できたのは2つの種族だけだった。残った20余りの種族から、さらに絞り込んでいく。

 黙ったアスタロトを放置し、ルシファーは収納から複数の靴を選んでいた。淡いオレンジの衣装に合わせ、金色のサンダル、臙脂のヒール、薄紫のサンダル……並べた靴をひとつずつ確認する。長椅子に横になったリリスの片足を恭しく掲げて、靴を履かせては脱がせる作業の繰り返しだった。

 自分の衣装が汚れるのも気にせず床に膝をついた姿は、魔王というより侍従である。

「リリスはどの色がいい?」

「ミント色のサンダルがいいわ」

 出してもらった中にないサンダルを指定したため、すべての靴を収納したルシファーが慌てて引っ張り出す。足首の上まで編み上げるタイプのサンダルは、数日前にリリスが履いたものだった。

 片膝をついて、その膝の上にリリスの足を乗せる。当然のように靴を履かせて、柔らかな紐を編み始めた。踝より上まで編んだら、可愛らしくリボン結びにして下す。呆れ顔のベールは注意を諦め、一番口煩いアスタロトは考え事の最中。

 微笑ましいと見守るベルゼビュートとルキフェル、交代したいが手出しを許されないだろうと予想して待機するアデーレは溜め息をつく。侍女としての仕事を取られたこともだが、折角正装した魔王が膝に女性の白い足を乗せて撫でるように紐を編む姿は、窓の外の民に見せられなかった。

 衝撃的だが、どこか艶めかしい光景に、未婚の少女達は目元をそっと扇や手で隠した。正装の時は手に持つ扇を広げたルーシアだが、横からちらりと覗く。他の少女達も手で隠したり視線をそらしているが、時折様子を窺っていた。

 女性が憧れるシチュエーションとして、後日噂になるのだが……果たして情報を漏らしたのは誰なのか。城の情報セキュリティ担当のベルゼビュートが叱られる未来だけは確定した。
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