690 / 1,397
50章 即位記念祭前夜
685. 時間稼ぎでセーフ?
しおりを挟む
ルシファーを迎えに行ったアスタロトが戻るまで場を任されたベールが、簡単な注意事項を皆に言い聞かせる。中庭に集合した貴族相手に、毎年恒例のルールから始まり、昨年問題になった行動を例に説明を長々と語った。
長い銀髪を複雑な形に結い上げた男は、瞳と同じ青い宝石を額に飾る。金鎖に宝石を固定した飾りは指輪や耳飾りと同じデザインだった。服は正装である濃紺のローブ姿なので、金の装飾品が映える。
その間に同じような話をベルゼビュートが城門の外の民に説明するのだが、内容はかなり砕けていた。重要な部分が抜けるたび、呆れ顔のルキフェルが修正していく。記憶力抜群のルキフェルが説明すれば二度手間にならないが、彼は人見知りの傾向がある。
子供の頃はベールが守っていたし、なにより彼自身も人と接触することは嫌いじゃなかった。こうなった原因は成長した青年の姿にある。未婚女性にとって、大公の地位にある未婚の若い男性は非常に魅力的だった。
ちなみに外見で「若い」と判断されたルキフェルも、御年1万5642歳になる。妻の座を狙う未婚女性達の数百倍の年を重ねていた。
ルキフェルはベールとお揃いの濃紺だが、ローブは羽織らない。金の刺繍が施された民族衣装は、彼の細身の体を引き立てる。琥珀を連ねた長い首飾りをかけ、耳飾りも琥珀で統一する。薄絹をふわりと羽織り、伸びた水色の髪をきつく結い上げて簪を挿した。
「お酒は飲んでもいいけど飲まれちゃダメよ。暴れたら、地獄のベールか恐怖の大王アスタロトに〆られるから……」
「あなたの首から絞めて差し上げましょうか?」
後ろから聞こえた声に、ベルゼビュートは振り返りもせずに逃げた。全力で風の精霊を操り、城下町まで飛ぶ。しかし着地した途端、アスタロトの影に回収されて消えた。
現場を見た人々の証言によれば「突然足元が黒くなり、ベルゼビュート閣下が黒い手に捕まって、闇に引き摺り込まれた。あれは悪魔の所業だ」ほとんど同じ内容を口々に語った民は、一様に自分の足元を恐ろしげに見つめた。
目撃した魔族にトラウマを植え付けたが、アスタロトはベルゼビュートの回収に成功した。即位記念祭初日の挨拶に、大公が欠けているわけにいかない。たとえ素行不良であろうと、魔王の側近である事実は変わらないのだ。
「大人しくしていてくださいね」
念を押したアスタロトに、震えながらベルゼビュートは頷いた。怯える彼女の様子に、何かを察した側近少女達が顔を見合わせる。
懲りないベルゼビュートだが、きちんと正装していた。胸元や腰のくびれを強調するシンプルなドレスだが、今年は膝の辺りから前にスリットを入れてフリルを飾る。下品にならないよう、透ける柔らかな生地で上着を作らせて羽織った。
ピンクの巻毛は高い位置でひとつに結われ、親指の爪ほどもある紅石が10個以上銀鎖で連なる髪飾りが揺れた。今年の流行を取り入れた形だ。
ブリーシンガルの首飾りを崩した銀鎖を着ける魔王妃の装いは、城下町の情報網を経て魔族女性の新しい髪飾りとして大人気だった。様々な宝石や美しい木の実を飾った鎖を髪と一緒に絡めて揺らす――新しい流行を作ったリリスは、まだお支度中だ。
姿を見せない主人を迎えにいくべきか。少女達は迷うが、アスタロトに「この場で待機」を命じられ、素直に待つことにした。行っても何か手伝えるわけでもない。
「……前回、どんな挨拶したっけ?」
外見も中身も真っ白になった魔王の呟きに、戻ってきたルキフェルが声をかけた。
「前回の挨拶はワイバーンに遮られたから、途中で切れてる。その前の挨拶を復習しておく?」
「頼む」
数千回も挨拶していると、もうテンプレートが出来上がっている。その内容を読み聞かせてもらい、頭の中で最近の話を織り交ぜて組み立てた。
長い銀髪を複雑な形に結い上げた男は、瞳と同じ青い宝石を額に飾る。金鎖に宝石を固定した飾りは指輪や耳飾りと同じデザインだった。服は正装である濃紺のローブ姿なので、金の装飾品が映える。
その間に同じような話をベルゼビュートが城門の外の民に説明するのだが、内容はかなり砕けていた。重要な部分が抜けるたび、呆れ顔のルキフェルが修正していく。記憶力抜群のルキフェルが説明すれば二度手間にならないが、彼は人見知りの傾向がある。
子供の頃はベールが守っていたし、なにより彼自身も人と接触することは嫌いじゃなかった。こうなった原因は成長した青年の姿にある。未婚女性にとって、大公の地位にある未婚の若い男性は非常に魅力的だった。
ちなみに外見で「若い」と判断されたルキフェルも、御年1万5642歳になる。妻の座を狙う未婚女性達の数百倍の年を重ねていた。
ルキフェルはベールとお揃いの濃紺だが、ローブは羽織らない。金の刺繍が施された民族衣装は、彼の細身の体を引き立てる。琥珀を連ねた長い首飾りをかけ、耳飾りも琥珀で統一する。薄絹をふわりと羽織り、伸びた水色の髪をきつく結い上げて簪を挿した。
「お酒は飲んでもいいけど飲まれちゃダメよ。暴れたら、地獄のベールか恐怖の大王アスタロトに〆られるから……」
「あなたの首から絞めて差し上げましょうか?」
後ろから聞こえた声に、ベルゼビュートは振り返りもせずに逃げた。全力で風の精霊を操り、城下町まで飛ぶ。しかし着地した途端、アスタロトの影に回収されて消えた。
現場を見た人々の証言によれば「突然足元が黒くなり、ベルゼビュート閣下が黒い手に捕まって、闇に引き摺り込まれた。あれは悪魔の所業だ」ほとんど同じ内容を口々に語った民は、一様に自分の足元を恐ろしげに見つめた。
目撃した魔族にトラウマを植え付けたが、アスタロトはベルゼビュートの回収に成功した。即位記念祭初日の挨拶に、大公が欠けているわけにいかない。たとえ素行不良であろうと、魔王の側近である事実は変わらないのだ。
「大人しくしていてくださいね」
念を押したアスタロトに、震えながらベルゼビュートは頷いた。怯える彼女の様子に、何かを察した側近少女達が顔を見合わせる。
懲りないベルゼビュートだが、きちんと正装していた。胸元や腰のくびれを強調するシンプルなドレスだが、今年は膝の辺りから前にスリットを入れてフリルを飾る。下品にならないよう、透ける柔らかな生地で上着を作らせて羽織った。
ピンクの巻毛は高い位置でひとつに結われ、親指の爪ほどもある紅石が10個以上銀鎖で連なる髪飾りが揺れた。今年の流行を取り入れた形だ。
ブリーシンガルの首飾りを崩した銀鎖を着ける魔王妃の装いは、城下町の情報網を経て魔族女性の新しい髪飾りとして大人気だった。様々な宝石や美しい木の実を飾った鎖を髪と一緒に絡めて揺らす――新しい流行を作ったリリスは、まだお支度中だ。
姿を見せない主人を迎えにいくべきか。少女達は迷うが、アスタロトに「この場で待機」を命じられ、素直に待つことにした。行っても何か手伝えるわけでもない。
「……前回、どんな挨拶したっけ?」
外見も中身も真っ白になった魔王の呟きに、戻ってきたルキフェルが声をかけた。
「前回の挨拶はワイバーンに遮られたから、途中で切れてる。その前の挨拶を復習しておく?」
「頼む」
数千回も挨拶していると、もうテンプレートが出来上がっている。その内容を読み聞かせてもらい、頭の中で最近の話を織り交ぜて組み立てた。
20
お気に入りに追加
4,927
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~
大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア
8さいの時、急に現れた義母に義姉。
あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。
侯爵家の娘なのに、使用人扱い。
お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。
義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする……
このままじゃ先の人生詰んでる。
私には
前世では25歳まで生きてた記憶がある!
義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから!
義母達にスカッとざまぁしたり
冒険の旅に出たり
主人公が妖精の愛し子だったり。
竜王の番だったり。
色々な無自覚チート能力発揮します。
竜王様との溺愛は後半第二章からになります。
※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。
※後半イチャイチャ多めです♡
※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる