689 / 1,397
50章 即位記念祭前夜
684. 初日から寝坊するなんて
しおりを挟む
早朝、寝室に飛び込んだ側近は青ざめていた。
「ルシファー様!! 起きてください。急いで」
リリスを抱っこして腕枕のルシファーが羽織る上掛けを、勢いよく引っぺがす。暴挙に近いが、躊躇はなかった。ぱっと跳ね上がったシーツの争奪戦が始まり、何とかリリスに布を被せて寝乱れた姿を隠すことに成功したルシファーは、魔王の称号に相応しいおどろおどろしい声で尋ねた。
「何を騒いでいる……まだ明け方」
「もう10時です」
「は?」
「ですから、10時を過ぎたところです」
壁の時計を見ると確かに言われた時間を示しており、貴族の集合時間を過ぎていた。じっくり時計を見てから窓の方へ目を向け、きっちり閉じたカーテンを動かして外を確認する。明るい。
もう一度時計を確認し、慌てて飛び起きた。
「なぜもっと早く知らせなかった!?」
「少なくとも1時間前にベリアルが呼びに来ました!!」
ドアに結界が張られていたため、お姫様の着替え中と判断した。ノックして声をかけて戻ったらしい。中で爆睡していたなど予想外だろう。
10年に一度の大祭も、数千回も開催すれば緊張感は薄れる。直前の騒動や準備の忙しさから解放され、昨夜2人でホットワインを飲んだのが敗因だった。蜂蜜をたっぷり入れて薄めたワインをリリスがお代わりし、ご機嫌で自分もワインを飲んだ……記憶はある。
体温が上がって頬を赤く染めたリリスを抱っこして横になり、次の記憶はアスタロトの襲撃だった。完全に記憶が飛んでいる。本来酒に耐性があるはずのルシファーだが、本人も知らぬ間に溜め込んだ疲労が影響したのかも知れない。
すでに身支度を整えたアスタロトは黒に近い深紅のローブ姿で、金髪も緩やかにまとめてあった。装飾品がきらきらと光を弾く。魅了の魔法を使わなくても、十分すぎるほど魅力的な姿だった。リリスがよく頬張った飴のような大きな赤い宝石が、細い鎖に支えられて胸元で輝きを放つ。
「り、リリリ……リリス!!」
あたふたしながら、シーツの中のリリスを抱っこする。しかしそこで固まった。何をすればいいのか、頭が真っ白なのだ。溜め息をついたアスタロトが横から指示を出す。
「リリス様の準備は少しかかりますので、アデーレに任せましょう。隣の部屋に運んで戻ってきてください」
「あ、ああ。そうだな」
言われるまま大人しくリリスを隣室に届け、用意した衣装やアクセサリーを示して髪形を決める。アデーレはにこにこと指示を聞き、適当なところで「お姫様の支度に殿方がいらしては邪魔ですわ。向こうでお待ちください」と追い返された。
戻ってくるなり、アスタロトがルシファーにテキパキと指示を出す。
「今は3人の大公が時間稼ぎをしています。お急ぎください。最初に着替える!」
子供の頃さながら、一から指示されて頷く。指ぱっちんで簡単に着替えると、濃色の衣装に大量のアクセサリーを装着した。鎧ではないかと思うほど大量に着けていくのは、これが正装だからだ。国宝級の装飾品を装備する魔王は、促されて近くの椅子に腰かけた。
「アクセサリーの間に髪を結いますから、王冠を用意してください」
「わかった」
首飾り、耳飾り、指輪、腕輪もじゃらじゃらと音がするほど飾り立てる間に、アスタロトの手が器用に髪を結い上げる。祭りの間は基本的に翼を見せていることが多いため、肩甲骨の高さより下にならないよう結わなくてはならない。また結い方も細かく作法が決まっていた。
丁寧にしかし迅速に整え、アスタロトが安堵の息をつく。ぎりぎり間に合いそうだ。呪いの王冠をひとつずつ頭に乗せて連結した。最後のひとつを乗せて固定し、大急ぎでルシファーを立たせる。
「さあ、行きましょう」
「ルシファー様!! 起きてください。急いで」
リリスを抱っこして腕枕のルシファーが羽織る上掛けを、勢いよく引っぺがす。暴挙に近いが、躊躇はなかった。ぱっと跳ね上がったシーツの争奪戦が始まり、何とかリリスに布を被せて寝乱れた姿を隠すことに成功したルシファーは、魔王の称号に相応しいおどろおどろしい声で尋ねた。
「何を騒いでいる……まだ明け方」
「もう10時です」
「は?」
「ですから、10時を過ぎたところです」
壁の時計を見ると確かに言われた時間を示しており、貴族の集合時間を過ぎていた。じっくり時計を見てから窓の方へ目を向け、きっちり閉じたカーテンを動かして外を確認する。明るい。
もう一度時計を確認し、慌てて飛び起きた。
「なぜもっと早く知らせなかった!?」
「少なくとも1時間前にベリアルが呼びに来ました!!」
ドアに結界が張られていたため、お姫様の着替え中と判断した。ノックして声をかけて戻ったらしい。中で爆睡していたなど予想外だろう。
10年に一度の大祭も、数千回も開催すれば緊張感は薄れる。直前の騒動や準備の忙しさから解放され、昨夜2人でホットワインを飲んだのが敗因だった。蜂蜜をたっぷり入れて薄めたワインをリリスがお代わりし、ご機嫌で自分もワインを飲んだ……記憶はある。
体温が上がって頬を赤く染めたリリスを抱っこして横になり、次の記憶はアスタロトの襲撃だった。完全に記憶が飛んでいる。本来酒に耐性があるはずのルシファーだが、本人も知らぬ間に溜め込んだ疲労が影響したのかも知れない。
すでに身支度を整えたアスタロトは黒に近い深紅のローブ姿で、金髪も緩やかにまとめてあった。装飾品がきらきらと光を弾く。魅了の魔法を使わなくても、十分すぎるほど魅力的な姿だった。リリスがよく頬張った飴のような大きな赤い宝石が、細い鎖に支えられて胸元で輝きを放つ。
「り、リリリ……リリス!!」
あたふたしながら、シーツの中のリリスを抱っこする。しかしそこで固まった。何をすればいいのか、頭が真っ白なのだ。溜め息をついたアスタロトが横から指示を出す。
「リリス様の準備は少しかかりますので、アデーレに任せましょう。隣の部屋に運んで戻ってきてください」
「あ、ああ。そうだな」
言われるまま大人しくリリスを隣室に届け、用意した衣装やアクセサリーを示して髪形を決める。アデーレはにこにこと指示を聞き、適当なところで「お姫様の支度に殿方がいらしては邪魔ですわ。向こうでお待ちください」と追い返された。
戻ってくるなり、アスタロトがルシファーにテキパキと指示を出す。
「今は3人の大公が時間稼ぎをしています。お急ぎください。最初に着替える!」
子供の頃さながら、一から指示されて頷く。指ぱっちんで簡単に着替えると、濃色の衣装に大量のアクセサリーを装着した。鎧ではないかと思うほど大量に着けていくのは、これが正装だからだ。国宝級の装飾品を装備する魔王は、促されて近くの椅子に腰かけた。
「アクセサリーの間に髪を結いますから、王冠を用意してください」
「わかった」
首飾り、耳飾り、指輪、腕輪もじゃらじゃらと音がするほど飾り立てる間に、アスタロトの手が器用に髪を結い上げる。祭りの間は基本的に翼を見せていることが多いため、肩甲骨の高さより下にならないよう結わなくてはならない。また結い方も細かく作法が決まっていた。
丁寧にしかし迅速に整え、アスタロトが安堵の息をつく。ぎりぎり間に合いそうだ。呪いの王冠をひとつずつ頭に乗せて連結した。最後のひとつを乗せて固定し、大急ぎでルシファーを立たせる。
「さあ、行きましょう」
20
お気に入りに追加
4,953
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」
「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」
公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。
理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。
王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!
頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/01/30 完結
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです!
12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。
両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪
ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/07/06……完結
2024/06/29……本編完結
2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位
2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位
2024/04/01……連載開始
死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります
みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」
私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。
聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?
私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。
だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。
こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。
私は誰にも愛されていないのだから。
なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。
灰色の魔女の死という、極上の舞台をー
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる