685 / 1,397
49章 魔王城最上階の怪談
680. 全員呪われてから始まる
しおりを挟む
着衣中のチラリズムと真っ裸のどちらが、よりいやらしいか。不毛な議論が多少あったが、彼と彼女らの名誉のために内容は伏せさせていただく。
「これを引き当てる時点で、アベルは欲求不満なのね」
アンナが呆れ顔で首を横に振った。早く彼女を作らないと、そのうち痴漢で捕まりそうだ。顔も悪くないし、魔力量だってそれなり……あとはがっついた態度だけ何とかすれば、素敵な女性とお付き合いできそうだが……。
「あの、これ……着けても大丈夫ですか?」
ルーサルカが心配になって、手にしたアンジェリカの指輪を見せる。いきなり部屋の男性達の裸が見えたら目のやり場に困るし、婚約者がいる人もいるので申し訳ない。ちなみに妻がいるアスタロトは義父扱いで含まない彼女は、意外と養父母に馴染んでいた。
「アンジェリカの指輪は……確か、姿が消えるだけです」
「消える」
思わず効果を繰り返し、ルーサルカは真剣に悩む。裸が見るよりマシな気がした。ただ、消える期間が不明なのは怖い。
「外せば戻る程度です。さほど害はありません。もしかしたら消えないかもしれませんし」
ベールは簡単そうに説明を追加した。数千年前に貴族令嬢が身につけた指輪のはずだが、正式名称が不明の状態で呪われたので、持ち主の名がそのまま付けられた。ちなみに呪われた経緯が不明なのだ。つけると見えなくなるため、悪いことに使われないよう回収した指輪だった。
「消えたらどうしましょうか」
人にぶつかってしまう。心配そうに呟くルーサルカへ、ルーシアが提案した。
「服も消えてしまうのかしら? だとしたら、消えた後で紅茶のカップを持ち上げてもらえばいいわ。手に目印のリボンを巻くから」
「そのリボンは消えないか?」
レライエが心配そうに呟くと、内容を聞いていたルシファーが首を横に振った。
「指輪装着時に身につけている物は透明になるが、後から巻いたリボンは対象外だろう」
安心したようにほっと息をついたルーサルカが、消えた後の相談をルーシアと始めた。最終的に両手にリボンを巻き、頭にも髪飾りを乗せる。あとは歩く際にルーシアの後ろをついていく案に決まったらしい。
「私の方はそこまで大ごとじゃない」
レライエはドラウプニルの腕輪を手の上でくるりと回した。この腕輪はわりと有名で、手にした金貨を増やすのだ。腕輪を外すと増えた金貨は消えてしまうため、詐欺に使われて没収した経緯がある。歩くたびに金貨が零れるだけだし、拾われても消えるので問題ない。
「この壷は何の効果があると思う?」
火を使うプロメテウスという貴族の名を冠した壷は、逆さにしても何も入っていない。そもそも装身具ではないので、装着方法がよくわからなかった。
「ルシファー、壷は被るの?」
「中に水を入れると何か起きた……気がする」
それが呪いの発動条件だが、残念ながら何が起きたか覚えてない。ルキフェルも記録に残されなかった呪いの中身までは不明だ。服が透ける黄金の腕輪を身につけたベルゼビュートが、きょとんとした顔で壷を覗き込んだ。
「これ、お酒がでるのよ。水を入れるとお酒が湧いて出て……美味しいワインが飲めたはず」
呪いの壷から出た酒の味と安全性を無視し、彼女が思い出せたなら……壷は森の中で拾われたのだろう。森で起きた出来事に関して、彼女の記憶は信用できる。
「カーバンクルの石は、たしか魔力が抑えられる効果しかありません。リネットの指輪は部分的に姿が消え……ああ、尻尾が消えていますね」
すでに装着したアムドゥスキアスは指摘されて振り返り、自慢の尻尾が見当たらないことに悲鳴を上げた。だがアスタロトが指摘した通り、実害は少ない。腕輪代わりの指輪を外し、尻尾があることに安堵の息をついた。
「あの……こちらの首飾りは……?」
「ん? 婚期が早まるぞ。婚姻の祝福の首飾りだからな」
ハルモニアの首飾りは呪いというより祝福なのだが、曰く付きの分類でしまわれてきた。実はだいぶ昔にルシファーと結婚しようともくろんだ貴族女性が装着して近づき、隣にいたアスタロトと結婚した経緯がある。対象者は選べないが強制力は凄いので、ある意味呪いで当たっているかも知れない。
「私の6番目の妻が所有していました」
にっこり情報を添えたアスタロトに、誰も返事が出来ないまま曖昧に微笑んで誤魔化した。
「呪われても何とかするから、安心して呪われてね」
恐ろしい魔王妃候補の笑顔の確約に、安心できない人達は溜め息をついて装着し始めた。
「これを引き当てる時点で、アベルは欲求不満なのね」
アンナが呆れ顔で首を横に振った。早く彼女を作らないと、そのうち痴漢で捕まりそうだ。顔も悪くないし、魔力量だってそれなり……あとはがっついた態度だけ何とかすれば、素敵な女性とお付き合いできそうだが……。
「あの、これ……着けても大丈夫ですか?」
ルーサルカが心配になって、手にしたアンジェリカの指輪を見せる。いきなり部屋の男性達の裸が見えたら目のやり場に困るし、婚約者がいる人もいるので申し訳ない。ちなみに妻がいるアスタロトは義父扱いで含まない彼女は、意外と養父母に馴染んでいた。
「アンジェリカの指輪は……確か、姿が消えるだけです」
「消える」
思わず効果を繰り返し、ルーサルカは真剣に悩む。裸が見るよりマシな気がした。ただ、消える期間が不明なのは怖い。
「外せば戻る程度です。さほど害はありません。もしかしたら消えないかもしれませんし」
ベールは簡単そうに説明を追加した。数千年前に貴族令嬢が身につけた指輪のはずだが、正式名称が不明の状態で呪われたので、持ち主の名がそのまま付けられた。ちなみに呪われた経緯が不明なのだ。つけると見えなくなるため、悪いことに使われないよう回収した指輪だった。
「消えたらどうしましょうか」
人にぶつかってしまう。心配そうに呟くルーサルカへ、ルーシアが提案した。
「服も消えてしまうのかしら? だとしたら、消えた後で紅茶のカップを持ち上げてもらえばいいわ。手に目印のリボンを巻くから」
「そのリボンは消えないか?」
レライエが心配そうに呟くと、内容を聞いていたルシファーが首を横に振った。
「指輪装着時に身につけている物は透明になるが、後から巻いたリボンは対象外だろう」
安心したようにほっと息をついたルーサルカが、消えた後の相談をルーシアと始めた。最終的に両手にリボンを巻き、頭にも髪飾りを乗せる。あとは歩く際にルーシアの後ろをついていく案に決まったらしい。
「私の方はそこまで大ごとじゃない」
レライエはドラウプニルの腕輪を手の上でくるりと回した。この腕輪はわりと有名で、手にした金貨を増やすのだ。腕輪を外すと増えた金貨は消えてしまうため、詐欺に使われて没収した経緯がある。歩くたびに金貨が零れるだけだし、拾われても消えるので問題ない。
「この壷は何の効果があると思う?」
火を使うプロメテウスという貴族の名を冠した壷は、逆さにしても何も入っていない。そもそも装身具ではないので、装着方法がよくわからなかった。
「ルシファー、壷は被るの?」
「中に水を入れると何か起きた……気がする」
それが呪いの発動条件だが、残念ながら何が起きたか覚えてない。ルキフェルも記録に残されなかった呪いの中身までは不明だ。服が透ける黄金の腕輪を身につけたベルゼビュートが、きょとんとした顔で壷を覗き込んだ。
「これ、お酒がでるのよ。水を入れるとお酒が湧いて出て……美味しいワインが飲めたはず」
呪いの壷から出た酒の味と安全性を無視し、彼女が思い出せたなら……壷は森の中で拾われたのだろう。森で起きた出来事に関して、彼女の記憶は信用できる。
「カーバンクルの石は、たしか魔力が抑えられる効果しかありません。リネットの指輪は部分的に姿が消え……ああ、尻尾が消えていますね」
すでに装着したアムドゥスキアスは指摘されて振り返り、自慢の尻尾が見当たらないことに悲鳴を上げた。だがアスタロトが指摘した通り、実害は少ない。腕輪代わりの指輪を外し、尻尾があることに安堵の息をついた。
「あの……こちらの首飾りは……?」
「ん? 婚期が早まるぞ。婚姻の祝福の首飾りだからな」
ハルモニアの首飾りは呪いというより祝福なのだが、曰く付きの分類でしまわれてきた。実はだいぶ昔にルシファーと結婚しようともくろんだ貴族女性が装着して近づき、隣にいたアスタロトと結婚した経緯がある。対象者は選べないが強制力は凄いので、ある意味呪いで当たっているかも知れない。
「私の6番目の妻が所有していました」
にっこり情報を添えたアスタロトに、誰も返事が出来ないまま曖昧に微笑んで誤魔化した。
「呪われても何とかするから、安心して呪われてね」
恐ろしい魔王妃候補の笑顔の確約に、安心できない人達は溜め息をついて装着し始めた。
20
お気に入りに追加
4,953
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」
「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」
公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。
理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。
王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!
頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/01/30 完結
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです!
12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。
両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪
ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/07/06……完結
2024/06/29……本編完結
2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位
2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位
2024/04/01……連載開始
死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります
みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」
私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。
聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?
私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。
だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。
こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。
私は誰にも愛されていないのだから。
なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。
灰色の魔女の死という、極上の舞台をー
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる