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49章 魔王城最上階の怪談

680. 全員呪われてから始まる

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 着衣中のチラリズムと真っ裸のどちらが、よりか。不毛な議論が多少あったが、彼と彼女らの名誉のために内容は伏せさせていただく。

「これを引き当てる時点で、アベルは欲求不満なのね」

 アンナが呆れ顔で首を横に振った。早く彼女を作らないと、そのうち痴漢で捕まりそうだ。顔も悪くないし、魔力量だってそれなり……あとはがっついた態度だけ何とかすれば、素敵な女性とお付き合いできそうだが……。

「あの、これ……着けても大丈夫ですか?」

 ルーサルカが心配になって、手にしたアンジェリカの指輪を見せる。いきなり部屋の男性達の裸が見えたら目のやり場に困るし、婚約者がいる人もいるので申し訳ない。ちなみに妻がいるアスタロトは義父扱いで含まない彼女は、意外と養父母に馴染んでいた。

「アンジェリカの指輪は……確か、姿が消えるだけです」

「消える」

 思わず効果を繰り返し、ルーサルカは真剣に悩む。裸が見るよりマシな気がした。ただ、消える期間が不明なのは怖い。

「外せば戻る程度です。さほど害はありません。もしかしたら消えないかもしれませんし」

 ベールは簡単そうに説明を追加した。数千年前に貴族令嬢が身につけた指輪のはずだが、正式名称が不明の状態で呪われたので、持ち主の名がそのまま付けられた。ちなみに呪われた経緯が不明なのだ。つけると見えなくなるため、悪いことに使われないよう回収した指輪だった。

「消えたらどうしましょうか」

 人にぶつかってしまう。心配そうに呟くルーサルカへ、ルーシアが提案した。

「服も消えてしまうのかしら? だとしたら、消えた後で紅茶のカップを持ち上げてもらえばいいわ。手に目印のリボンを巻くから」

「そのリボンは消えないか?」

 レライエが心配そうに呟くと、内容を聞いていたルシファーが首を横に振った。

「指輪装着時に身につけている物は透明になるが、後から巻いたリボンは対象外だろう」

 安心したようにほっと息をついたルーサルカが、消えた後の相談をルーシアと始めた。最終的に両手にリボンを巻き、頭にも髪飾りを乗せる。あとは歩く際にルーシアの後ろをついていく案に決まったらしい。

「私の方はそこまで大ごとじゃない」

 レライエはドラウプニルの腕輪を手の上でくるりと回した。この腕輪はわりと有名で、手にした金貨を増やすのだ。腕輪を外すと増えた金貨は消えてしまうため、詐欺に使われて没収した経緯がある。歩くたびに金貨が零れるだけだし、拾われても消えるので問題ない。

「この壷は何の効果があると思う?」

 火を使うプロメテウスという貴族の名を冠した壷は、逆さにしても何も入っていない。そもそも装身具ではないので、装着方法がよくわからなかった。

「ルシファー、壷は被るの?」

「中に水を入れると何か起きた……気がする」

 それが呪いの発動条件だが、残念ながら何が起きたか覚えてない。ルキフェルも記録に残されなかった呪いの中身までは不明だ。服が透ける黄金の腕輪を身につけたベルゼビュートが、きょとんとした顔で壷を覗き込んだ。

「これ、お酒がでるのよ。水を入れるとお酒が湧いて出て……美味しいワインが飲めたはず」

 呪いの壷から出た酒の味と安全性を無視し、彼女が思い出せたなら……壷は森の中で拾われたのだろう。森で起きた出来事に関して、彼女の記憶は信用できる。

「カーバンクルの石は、たしか魔力が抑えられる効果しかありません。リネットの指輪は部分的に姿が消え……ああ、尻尾が消えていますね」

 すでに装着したアムドゥスキアスは指摘されて振り返り、自慢の尻尾が見当たらないことに悲鳴を上げた。だがアスタロトが指摘した通り、実害は少ない。腕輪代わりの指輪を外し、尻尾があることに安堵の息をついた。

「あの……こちらの首飾りは……?」

「ん? 婚期が早まるぞ。婚姻の祝福の首飾りだからな」

 ハルモニアの首飾りは呪いというより祝福なのだが、曰く付きの分類でしまわれてきた。実はだいぶ昔にルシファーと結婚しようともくろんだ貴族女性が装着して近づき、隣にいたアスタロトと結婚した経緯がある。対象者は選べないが強制力は凄いので、ある意味呪いで当たっているかも知れない。

「私の6番目の妻が所有していました」

 にっこり情報を添えたアスタロトに、誰も返事が出来ないまま曖昧に微笑んで誤魔化した。

「呪われても何とかするから、安心して呪われてね」

 恐ろしい魔王妃候補の笑顔の確約に、安心できない人達は溜め息をついて装着し始めた。
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