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49章 魔王城最上階の怪談
671. 何かいる……たぶん
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騒ぎの大きさに、ゴーレム達が侍従と荷物を運び出していた。どうやら建物が崩れる心配をしたらしい。彼らに声をかけて作業を止め、足早に階段を進む。
「アベル、ここで何を?」
階段の途中で、大量の書類を抱えたアベルとすれ違う。思わず尋ねたアスタロトへ、書類の上に顎を乗せて押さえるアベルが怒鳴り返した。
「火災です。早くしないと書類が燃えちまう!!」
「火?」
幻獣霊王であるベールが上にいるのに、火事はあり得ない。炎を操る鳳凰の能力を持つベールなら、一瞬で消火するはずだった。なのに上で火災が起きているなら、それはベール自身が放った火である可能性が高い。
「アベル、聖剣は持っていますか?」
「聖剣? あれは収納に入ってますよ」
焦るアベルの両手に抱えられた書類をながめ、今の言葉の違和感に気づいた。収納があるなら、なぜ手で書類を運んでいるのか。
「……書類を収納に入れない理由をお伺いしても?」
「あ! そうだ、中に仕舞えばよかったのか」
慌て過ぎて忘れたと、手にした書類を収納に放り込む。まだ上に書類があるから取りに戻る、そう口にしたアベルに同行した。踊り場を回ると、途端に熱くなる。
絨毯が自然発火するほどではないが、手前に防御用の魔法陣を飛ばした。結界を張るアスタロトの隣で、汗だくの額を拭うアベルにも結界で熱を遮る。
「少しお手伝いをお願いします」
「書類なら右側の……」
「そちらは結界を張りますから、後回しです」
魔法を使わない世界から来たアベルは、勇者という称号があっても魔力に慣れていない。そのため気づかなかった。
アスタロトが眉をひそめるほどの炎は、まるで蛇のように踊る。しかし絨毯や家具を燃やすことなく、天井を黒く焦がしてもいなかった。明らかに操られた魔力による炎だ。
足を進めるアスタロトの後ろを、アベルが恐る恐るついて行く。さきほど尋ねられた聖剣を引っ張りだした。聖水を掛けた剣は名前こそ聖剣だが、実際には効力がない。それでも武器を持たないよりマシだった。
突き当たりの少し手前、補修された廊下を舐める炎が吹き出すドアに手を掛ける。焼け落ちているはずの扉は形を止め、半分ほど開いた隙間から見える景色は炎のみ。まだ修復中で家具も置かれていない部屋に、アスタロトは足を踏み入れた。
「ベール?」
部屋の中央で、一点を睨み付けるベールの頭に角が出ている。背に羽もあることから、戦闘に際して魔力を大きく解放したのだろう。しかし敵の姿は見当たらなかった。すでに倒したのであれば、炎を収めている筈だ。
「アスタロト……陛下と姫の避難をお願いします」
左手に新たな炎を生み出し、床についたシミに投げつける。核となる物がないのに燃え続けるのは、魔力を糧に燃やすからだった。焦げ臭さもない炎がゆらりと不自然な揺らぎを見せる。
「早く!」
自分が食い止める間に、そんなニュアンスを感じ取り、アスタロトは後ろのアベルを振り返った。
「あなたを強制的に飛ばしますから、陛下とリリス姫に逃げるよう伝えてください」
「え?」
突然の指示に混乱するアベルを、割れた窓の外へ吹き飛ばした。ほぼ真下の部屋にいる彼らに伝言を頼むなら、階段よりこちらの方が早い。強風に運ばれた勇者は、半開きのガラス戸を割るようにして転がり込んだ。
「アベル?」
「どうしたの」
きょとんとした顔をした純白の魔王へ、アベルは頼まれた伝言を大声で叫んだ。
「全員にげて! 上に何かいる!! アスタロト閣下の伝言だから、早く」
「アベル、ここで何を?」
階段の途中で、大量の書類を抱えたアベルとすれ違う。思わず尋ねたアスタロトへ、書類の上に顎を乗せて押さえるアベルが怒鳴り返した。
「火災です。早くしないと書類が燃えちまう!!」
「火?」
幻獣霊王であるベールが上にいるのに、火事はあり得ない。炎を操る鳳凰の能力を持つベールなら、一瞬で消火するはずだった。なのに上で火災が起きているなら、それはベール自身が放った火である可能性が高い。
「アベル、聖剣は持っていますか?」
「聖剣? あれは収納に入ってますよ」
焦るアベルの両手に抱えられた書類をながめ、今の言葉の違和感に気づいた。収納があるなら、なぜ手で書類を運んでいるのか。
「……書類を収納に入れない理由をお伺いしても?」
「あ! そうだ、中に仕舞えばよかったのか」
慌て過ぎて忘れたと、手にした書類を収納に放り込む。まだ上に書類があるから取りに戻る、そう口にしたアベルに同行した。踊り場を回ると、途端に熱くなる。
絨毯が自然発火するほどではないが、手前に防御用の魔法陣を飛ばした。結界を張るアスタロトの隣で、汗だくの額を拭うアベルにも結界で熱を遮る。
「少しお手伝いをお願いします」
「書類なら右側の……」
「そちらは結界を張りますから、後回しです」
魔法を使わない世界から来たアベルは、勇者という称号があっても魔力に慣れていない。そのため気づかなかった。
アスタロトが眉をひそめるほどの炎は、まるで蛇のように踊る。しかし絨毯や家具を燃やすことなく、天井を黒く焦がしてもいなかった。明らかに操られた魔力による炎だ。
足を進めるアスタロトの後ろを、アベルが恐る恐るついて行く。さきほど尋ねられた聖剣を引っ張りだした。聖水を掛けた剣は名前こそ聖剣だが、実際には効力がない。それでも武器を持たないよりマシだった。
突き当たりの少し手前、補修された廊下を舐める炎が吹き出すドアに手を掛ける。焼け落ちているはずの扉は形を止め、半分ほど開いた隙間から見える景色は炎のみ。まだ修復中で家具も置かれていない部屋に、アスタロトは足を踏み入れた。
「ベール?」
部屋の中央で、一点を睨み付けるベールの頭に角が出ている。背に羽もあることから、戦闘に際して魔力を大きく解放したのだろう。しかし敵の姿は見当たらなかった。すでに倒したのであれば、炎を収めている筈だ。
「アスタロト……陛下と姫の避難をお願いします」
左手に新たな炎を生み出し、床についたシミに投げつける。核となる物がないのに燃え続けるのは、魔力を糧に燃やすからだった。焦げ臭さもない炎がゆらりと不自然な揺らぎを見せる。
「早く!」
自分が食い止める間に、そんなニュアンスを感じ取り、アスタロトは後ろのアベルを振り返った。
「あなたを強制的に飛ばしますから、陛下とリリス姫に逃げるよう伝えてください」
「え?」
突然の指示に混乱するアベルを、割れた窓の外へ吹き飛ばした。ほぼ真下の部屋にいる彼らに伝言を頼むなら、階段よりこちらの方が早い。強風に運ばれた勇者は、半開きのガラス戸を割るようにして転がり込んだ。
「アベル?」
「どうしたの」
きょとんとした顔をした純白の魔王へ、アベルは頼まれた伝言を大声で叫んだ。
「全員にげて! 上に何かいる!! アスタロト閣下の伝言だから、早く」
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