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49章 魔王城最上階の怪談
664. なんでも準備は大変です
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即位記念祭が近づき、魔王城は大騒ぎだった。衣装を納入に来たアラクネが、ジュエリーを持ち込んだスプリガンと調整する。ケットシーが用意したサンダルは今年も新作で、また新たな流行の先駆けになりそうだった。
「色は桜色。そのマントは……うーん、色が少し濃すぎる」
指示を出しながら、ルシファーは手元の書類に目を通した。この時期はうっかりサボると、とんでもない書類の山が積まれるため必死に片づける。予算の内容を確認し、食材の納入記録を纏めたレポートに印を押す。時折気になる数字や文章があれば、書き込みをして横へ避けた。
その忙しい合間を縫ってリリスや自分の衣装の確認を行うので、執務室を解放している。いつもはリリスが側近達と勉強する右側を、衣装やアクセサリーが埋め尽くした。
「魔王陛下、リリス様の衣装に縫い留める宝石ですが」
「この中から選べ」
収納空間へ手を入れ、宝石箱をひとつ取り出す。隣に控えるベリアル経由で渡す箱の中身は、こぶし大の立派な宝石が無造作に詰め込まれていた。宝石同士が擦れて傷になっているが、持ち主は頓着しない性格のため、中身を確認したスプリガンが悲鳴を上げた。
ここまで大粒の宝石がごろごろ出てきただけでも驚愕だが、傷だらけになった石の価値は落ちる。それを気にしない魔王の豪胆さもさることながら、彼らの脳裏を過ったのは「もったいない」の一言だった。続いて「この人に管理を任せてはいけない」という奇妙な使命感が芽生える。
この騒動がひと段落着いたら、宝石類をすべて確認させてもらおうと話し合う。彼らにとって宝石や貴金属は命と並ぶ大切な存在である。管理を委託してもらうか、扱い方法を変更してもらえるよう進言する書類を作り始めた。
重要度が低いため、この書類がルシファーの目に留まるのは即位記念祭の数週間後となる。
「姫の杖ですが」
「この辺に……世界樹の枝があったはず」
右手で書類にサインをしながら、左手を空中に突っ込む。収納から見つけた枝を引きずり出すが、途中で引っ掛かってしまった。しかたなくペンを置いて、両手で引っ張る。ベリアル達も手伝った結果、杖どころか剣や槍が出来そうな枝が出てきた。
「世界樹……ですか?」
エルフが目を瞬かせる。リリスの魔法発動に杖は不要だった。あくまでも過去の貴族の形式美を踏襲する上で手に持つ方が好ましい……装身具のひとつだ。にも拘らず最上級の材料を提供され、慌てて受け取った。
「あの……残った枝は」
「残りはやるから、好きに使え」
「かしこまりました」
エルフ達の目が輝く。妖精族にとって、魔の森の奥深くにある世界樹は、信仰に近い感情を寄せる心の故郷だった。その枝の欠片でも手に出来るなら、作業に力も入る。枝の形や性質を良く調べ、中央の芯を使った杖を作る算段を始めた。
小さな枝を払い、大人の腕程の太さの枝を計測して杖のデザインを作り始める。
「ルシファー、皆もお茶にして」
少女達とイポスを連れたリリスが入り口で声をかけた。彼女自身は採寸が終われば時間があく。そのため側近達と菓子を焼き、お茶を用意して顔を見せたのだ。
「リリス! こっち」
手招きする満面の笑みのルシファーは、執務机から手を伸ばす。素直に近づいたリリスが膝に座ると、満足そうに黒髪に顔を埋めた。見慣れた光景に、側近達や侍従は見ないフリをする。普段登城しないアラクネ達は茫然と眺めた後、照れて視線をそらした。
「ルシファー様、リリス様も……お茶にしますよ」
呆れ顔のアスタロトが声をかけるまで、ルシファーは愛しい少女を抱いて離さなかった。
「色は桜色。そのマントは……うーん、色が少し濃すぎる」
指示を出しながら、ルシファーは手元の書類に目を通した。この時期はうっかりサボると、とんでもない書類の山が積まれるため必死に片づける。予算の内容を確認し、食材の納入記録を纏めたレポートに印を押す。時折気になる数字や文章があれば、書き込みをして横へ避けた。
その忙しい合間を縫ってリリスや自分の衣装の確認を行うので、執務室を解放している。いつもはリリスが側近達と勉強する右側を、衣装やアクセサリーが埋め尽くした。
「魔王陛下、リリス様の衣装に縫い留める宝石ですが」
「この中から選べ」
収納空間へ手を入れ、宝石箱をひとつ取り出す。隣に控えるベリアル経由で渡す箱の中身は、こぶし大の立派な宝石が無造作に詰め込まれていた。宝石同士が擦れて傷になっているが、持ち主は頓着しない性格のため、中身を確認したスプリガンが悲鳴を上げた。
ここまで大粒の宝石がごろごろ出てきただけでも驚愕だが、傷だらけになった石の価値は落ちる。それを気にしない魔王の豪胆さもさることながら、彼らの脳裏を過ったのは「もったいない」の一言だった。続いて「この人に管理を任せてはいけない」という奇妙な使命感が芽生える。
この騒動がひと段落着いたら、宝石類をすべて確認させてもらおうと話し合う。彼らにとって宝石や貴金属は命と並ぶ大切な存在である。管理を委託してもらうか、扱い方法を変更してもらえるよう進言する書類を作り始めた。
重要度が低いため、この書類がルシファーの目に留まるのは即位記念祭の数週間後となる。
「姫の杖ですが」
「この辺に……世界樹の枝があったはず」
右手で書類にサインをしながら、左手を空中に突っ込む。収納から見つけた枝を引きずり出すが、途中で引っ掛かってしまった。しかたなくペンを置いて、両手で引っ張る。ベリアル達も手伝った結果、杖どころか剣や槍が出来そうな枝が出てきた。
「世界樹……ですか?」
エルフが目を瞬かせる。リリスの魔法発動に杖は不要だった。あくまでも過去の貴族の形式美を踏襲する上で手に持つ方が好ましい……装身具のひとつだ。にも拘らず最上級の材料を提供され、慌てて受け取った。
「あの……残った枝は」
「残りはやるから、好きに使え」
「かしこまりました」
エルフ達の目が輝く。妖精族にとって、魔の森の奥深くにある世界樹は、信仰に近い感情を寄せる心の故郷だった。その枝の欠片でも手に出来るなら、作業に力も入る。枝の形や性質を良く調べ、中央の芯を使った杖を作る算段を始めた。
小さな枝を払い、大人の腕程の太さの枝を計測して杖のデザインを作り始める。
「ルシファー、皆もお茶にして」
少女達とイポスを連れたリリスが入り口で声をかけた。彼女自身は採寸が終われば時間があく。そのため側近達と菓子を焼き、お茶を用意して顔を見せたのだ。
「リリス! こっち」
手招きする満面の笑みのルシファーは、執務机から手を伸ばす。素直に近づいたリリスが膝に座ると、満足そうに黒髪に顔を埋めた。見慣れた光景に、側近達や侍従は見ないフリをする。普段登城しないアラクネ達は茫然と眺めた後、照れて視線をそらした。
「ルシファー様、リリス様も……お茶にしますよ」
呆れ顔のアスタロトが声をかけるまで、ルシファーは愛しい少女を抱いて離さなかった。
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