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47章 お祭り前の大掃除

640. 藪をつつく愚か者

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 彼女らの前で口に出来ない何かがあると悟り、ルキフェルとベルゼビュートに場を預けて外へ出た。衛兵が少ない城門前の芝へ足を進める。ベールがくるりと2人を結界で包んで音を遮断した。彼がここまで用心するほど、重大な話があるのだろう。

「先ほどの彼女らは……元です」

「獣人ではなく?」

「はい。生まれた時は人族で、何らかの魔物と融合させられています」

 汚れた暗い牢の壁や床に刻まれた模様は、異種族融合のキマイラ製造に使われる魔法陣の一部だった。あの場にいた5組の親子は、キマイラである女性とその子供……子供達自身もキマイラなのか、キマイラが産んだだけか。現時点での判断がつかなかった。

 あの場にいたドラゴンを含む軍人達は、『獣人女性が人族に産まされた子』と認識している。その理由の最たるものは、彼女らの体内に存在する魔力だ。人族では考えられないほど多かった。融合させられたのは、魔物か魔族か。ただの動物である可能性は低い。融合した相手の魔力を彼女らは吸収していた。

 魔法陣に詳しいルキフェルやルシファーに知らせるのははばかられる。そこまで説明し、ベールは溜め息を吐いた。厄介なものを見つけた自覚はある。いっそ領地内に所有する洞窟の古城へ転移させ、そこで生活させようと考えたほどだった。しかし魔王軍と魔獣の目撃者が多すぎる。

 迷った末、大公預かりとしたのは「城門へ転移」した捕虜は、魔王へ報告がいくためだ。人族の領域で見つけた彼女らが元人族と判明すれば、その時点で捕虜となる。勇者ではない彼女らをどう処理しても、ルシファーは気に病むだろう。

 彼女らの素性を尋ねた際に使われた「人族の砦の捕虜」という遠回しな表現の理由は、ここにあった。人族の砦に囚われた魔族の捕虜ではなく、人族の砦にいた元人族を捕虜にしたという意味だ。

「保護とは少し違いますが……あの人なら受け入れそうです」

 以前にホムンクルスを受け入れたように、異世界から逃げてきたガギエルを保護したように……幼子を抱えた彼女らが元人族であろうと、今の外見が魔族であり安心して子育てできる環境を望むなら。ルシファーは己の危険や魔族の非難を気に留めず、彼女らを庇護する。

「融合を戻すことは?」

 人族の部分と混ぜられた異種族を分離できないか。難しいことを承知で提案すれば、「ルキフェル達ならあるいは」とベールが唸る。ルキフェルに真実を知らせたくないが、教えなければ分離ができない。教えて挑戦させても、無理な可能性もあった。

 水色の澄んだ瞳の青年に、出来るだけ醜いものを見せたくない。過保護なのは承知の上で、ベールは複雑な感情を噛みしめた。アスタロトもルシファーを嘆かせると知りながら、こんな情報を口にする役は御免被りたい。

 互いに口を噤もうと考える彼らの結界に、こつんと拳を当てる音がする。ノックに似た軽い音に振り向いた彼らは、慌てて結界を解除して頭を下げた。

「お前ら……オレに隠し事か?」

 愛らしいお姫様と腕を組んだ魔王の降臨だ。朝までどんちゃん騒ぎした痕跡を、収納空間へ放り込むことで証拠隠滅したルシファーは、銀の瞳を瞬いて答えを待つ。

 リリスは手に持った飴細工に夢中だった。レライエが作った大きな飴飾りは皆で分解して持ち帰ったが、その飾りの花と蝶々部分をリリスが確保していた。甘い飴は色ごとに果汁が変えてあり、味の面でも最上級のお菓子だ。今は蝶々の羽を少しずつ溶かしていた。

 今回はお茶会による騒動がバレていない。城下町まで巻き込んだお祭りを口止めしたことで、ルシファーは安心しきっていた。だからアスタロト達に対して強気に出る。何を隠しているのか? と。それが藪を突く行為とも知らず。
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