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47章 お祭り前の大掃除

627. 獲物は多いほどいい

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 めでたし、めでたし――幼少時にリリスへ読み聞かせた絵本なら、主人公とヒロインが仲直りのキスをして終わりだ。しかし現実はそう簡単ではなかった。

 呼ばれたらすぐ駆け付けられる距離、という条件を満たす向かい側の客間内は騒がしい。人口密度が高い部屋は、魔獣、召喚者、大公や幻獣に至るまで雑多な種族が入り混じる混乱状態だった。

 ヤンは悪戯好きなピヨを咥えて躾の真っ最中、軽く牙を立てて脅す。しょんぼりしたピヨが素直に謝った。隣でレライエに叱られる傷だらけの翡翠竜は、なぜか嬉しそうに頬を赤く染める。投げ飛ばされて戻ってきたようだが、これではただの変態だった。

 イザヤと両思いになったアンナは「素敵ね」と今回の騒動を、美しい恋愛小説のようにうっとり語る。アベルは肩を竦めてソファに身を沈め「いつもイケメンばっか得をする」と愚痴った。

 レライエを除く少女3人は顔を突き合わせて、壊れたリリスの私室のデザイン画を描き散らしている。素人作なので、きっとドワーフから盛大にダメ出しが入るだろう。しかし多少の意見は取り入れてもらえるかもしれない。

 ベルゼビュートは気疲れしたのか転寝中、ベールへ新しい魔法陣の熱意を語るルキフェルは興奮気味だ。今回の事態をうけて、書物への記録だけで足りないと考えた。今後は記憶を複写して保管する必要性があると熱く語る。その際の実験台に数人の実験体を募る必要があると、ルキフェルは締め括った。

 ちなみに後日募集を行ったところ、ホムンクルスを含めた数人が立候補したらしい。

「アスタロト――僕の魔法陣には見つかった?」

 思い出して尋ねるルキフェルへ、アスタロトは黒い笑みで頷いた。

「ええ、見つけましたよ。まだ捕らえておりませんが……」

 捕らえに行く前に、あれこれと騒がしくなったので戻ってきた彼は、肩に触れる金髪の先を指で弄りながら口元を緩めた。

 あ……これ、犯人がバラバラになるやつだ。察した大公達が身を乗り出す。転寝していたベルゼビュートも地獄耳で察知して飛び起きた。

「あたくしにも壊させて!」

「ちょっと! ベルゼビュートは下がってなよ。今回の一番手は僕だよ」

 魔法陣を弄られて被害を受けたんだから、僕の獲物だとルキフェルがけん制する。しかしベルゼビュートも被害を被っているので引く気はない。

「なによ! 記憶がない陛下の相手をしてた褒美をくれてもいいじゃない」

「落ち着きなさい、手足を千切るのは犯人を特定した私ですよ」

 苦労して敵を見つけたのは自分なのだから、一番目に悲鳴を上げさせる役は譲れない。アスタロトの言い分に、ベールが溜め息をついた。誰もが自由気まま過ぎるが、本来の魔族のスタンスはこんなものだ。まとまりがなく自分勝手で、己の欲望に忠実な種族ばかりだった。

 ルシファーが頂点に立ったことで、ひとつの象徴に皆が従い我慢することを覚えたのだが……その要である魔王が不在となれば、あっという間にケンカが始まる。大公ですら獲物の取り合いを始めるのだから、もしルシファーの記憶や資質が大きく損なわれる事態になれば、魔族の結束は一瞬で崩壊するだろう。

「ルキフェルは落ち着いて、ベルゼビュートも座りなさい。アスタロトは2人を煽らない」

 淡々と3人に言い聞かせ、ソファに寄り掛かるベールが提案した。

「犯人が構わないのではありませんか?」

 召喚者や少女達は別のことに気を取られていて気付かない。その間に、大公4人は自分達に都合のいい相談を進めた。彼らが求めるのは――ターゲットに出来る獲物だ。そして獲物は多ければ多いほどいい。

「なるほど、確かに一理あります」

「僕は心当たりがあるよ」

「あら、あたくしも」

 それぞれに見つけていた『魔王や現体制に不満を持つ魔族』を口にする。テーブルの上で地図を並べて、堂々と作戦会議を行った大公4人は役割分担を確認して頷きあった。

「では作戦通りに」

「抜け駆け禁止よ」

 アスタロトの締めくくりに、先日出し抜かれて14人の獲物を奪われた不満を口にするベルゼビュート。吸血鬼王は「今回は集めた獲物を平等に、きちんと分けますよ」と確約した。裏を返せば「先日は承知の上で多く取りました」と白状されたも同じなのだが、数字に強くても駆け引きに弱い精霊女王は満足そうに頷いた。

 この単純でバカなところが、愛される所以なのだが……本人は知らず。ピンクの巻き毛を指先で弄りながら部屋を出て行った。
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