618 / 1,397
46章 消えた記憶を取り戻せ
613. 舐められて終われない
しおりを挟む
魔王城の魔法陣は、動力となる魔力すべてを地下に流れる龍脈から得ている。魔王城が半壊したのち、新しく再建する魔法陣はすべてルキフェルが手をかけた。アスタロトに意見を聞き、ベールとセキュリティ内容を検討し、ベルゼビュートが試算した魔法陣だ。積み重なった際の弊害や連鎖発動しないよう制御し、複雑な計算式をくみ上げた最高傑作だった。
そう、今の魔王城で常時発動するすべての魔法陣は――ルキフェルの脳に刻まれている。なのに、初見の配置図が存在するはずはない。しかも持ち込まれた図面の紙は新しかった。
「……僕の仕事に、随分なケチをつけてくれたもんだ」
強く握った拳が震える。魔王城が完成した後で一度、すべての魔法陣は動作確認を行った。それ以降、常時発動するもの以外は触れていない。期間にしてわずか5年前後……長かったのか、短かいのか。
己が担当した魔王城の防衛魔法陣に仕掛けられ、それが原因で大切なものを奪われた。敬愛する主君の記憶が失われ、妹と可愛がるリリス姫が泣いた。こうしたテロ行動を行う者は大層なお題目を掲げるが、どんな理由があれ許せる要素がない。
部屋の地下を見通すように床を睨み、ルキフェルは怒りを吐き出した。
「城内すべての魔法陣の一時停止と、僕の設計図に沿った再構築を行う」
「ならば、ベルゼビュートを呼びますか?」
再構築の複雑な計算に、彼女以上の適任者はいない。魔王への付き添いを交代する必要性を口にしたベールへ、ルキフェルが凶悪な笑みを浮かべた。普段の幼い仕草や子供の振る舞いが嘘のように、残酷な長寿者の一面が噴出する。
「ねえ……アスタロト、僕の代わりに弄った子を見つけてきてよ」
魔法陣をいじくった痕跡は見つける。だから勝手に変更した犯人を捕らえて欲しいと強請る。無邪気に、楽しそうに、昆虫の羽を千切る子供の残酷さで口にした。大公の中で一番若いルキフェルだが、1万5千年を超える長寿だ。彼から見れば、ほとんどの魔族は「子」と表現される若い個体だった。
犯人に繋がる糸の先を見つけた同僚へ、ドラゴンの長はにっこりと笑って見せる。その口元が怒りに引きつっていようと、目が怒りに燃えていようと関係ない。その表情に浮かんだ感情を確かめるように黙っていたアスタロトが頷いた。
「どこか欠けていても文句言わないでくださいね」
「口がきける状態で残ってればいいよ」
殺さなければ手足が欠けるくらいは我慢する。物騒な約束を交わすと、アスタロトはさっさと退室した。2枚の図面を手に、ルキフェルが立ち上がる。
「ベール、少しの間だけリリスをお願い」
「わかりました」
ルキフェルが今回の魔法陣にどれだけ時間をかけていたか、知っている。ルシファーから向けられた信頼に、全力で応えようと試行錯誤を重ねて作った。その作品を壊されただけでなく、悪用して魔王へ害をなした敵に怒っているのは……ルキフェルだけではない。
ルシファーとリリスを一緒にできない以上、戦力の分散になろうと個々に守るしかない。効率が悪いことは理解していた。それでも2人を傷つけるくらいなら、自分達の苦労を選ぶ。
この程度の危機は過去もあった。アスタロトが眠りについた時期に合わせて攻撃され、ルシファーを守る剣がベルゼビュートだけだった場面も、番を喪ったベールが動けなかった時も……大公が全員揃わず不利な状況に置かれることは少なくない。
「僕は大公だからね。この失態は挽回してみせる」
「ええ、ご武運を」
甘やかすだけでは駄目だと見送るベールは、背を向ける水色の髪の青年に祈りの言葉を向けた。
そう、今の魔王城で常時発動するすべての魔法陣は――ルキフェルの脳に刻まれている。なのに、初見の配置図が存在するはずはない。しかも持ち込まれた図面の紙は新しかった。
「……僕の仕事に、随分なケチをつけてくれたもんだ」
強く握った拳が震える。魔王城が完成した後で一度、すべての魔法陣は動作確認を行った。それ以降、常時発動するもの以外は触れていない。期間にしてわずか5年前後……長かったのか、短かいのか。
己が担当した魔王城の防衛魔法陣に仕掛けられ、それが原因で大切なものを奪われた。敬愛する主君の記憶が失われ、妹と可愛がるリリス姫が泣いた。こうしたテロ行動を行う者は大層なお題目を掲げるが、どんな理由があれ許せる要素がない。
部屋の地下を見通すように床を睨み、ルキフェルは怒りを吐き出した。
「城内すべての魔法陣の一時停止と、僕の設計図に沿った再構築を行う」
「ならば、ベルゼビュートを呼びますか?」
再構築の複雑な計算に、彼女以上の適任者はいない。魔王への付き添いを交代する必要性を口にしたベールへ、ルキフェルが凶悪な笑みを浮かべた。普段の幼い仕草や子供の振る舞いが嘘のように、残酷な長寿者の一面が噴出する。
「ねえ……アスタロト、僕の代わりに弄った子を見つけてきてよ」
魔法陣をいじくった痕跡は見つける。だから勝手に変更した犯人を捕らえて欲しいと強請る。無邪気に、楽しそうに、昆虫の羽を千切る子供の残酷さで口にした。大公の中で一番若いルキフェルだが、1万5千年を超える長寿だ。彼から見れば、ほとんどの魔族は「子」と表現される若い個体だった。
犯人に繋がる糸の先を見つけた同僚へ、ドラゴンの長はにっこりと笑って見せる。その口元が怒りに引きつっていようと、目が怒りに燃えていようと関係ない。その表情に浮かんだ感情を確かめるように黙っていたアスタロトが頷いた。
「どこか欠けていても文句言わないでくださいね」
「口がきける状態で残ってればいいよ」
殺さなければ手足が欠けるくらいは我慢する。物騒な約束を交わすと、アスタロトはさっさと退室した。2枚の図面を手に、ルキフェルが立ち上がる。
「ベール、少しの間だけリリスをお願い」
「わかりました」
ルキフェルが今回の魔法陣にどれだけ時間をかけていたか、知っている。ルシファーから向けられた信頼に、全力で応えようと試行錯誤を重ねて作った。その作品を壊されただけでなく、悪用して魔王へ害をなした敵に怒っているのは……ルキフェルだけではない。
ルシファーとリリスを一緒にできない以上、戦力の分散になろうと個々に守るしかない。効率が悪いことは理解していた。それでも2人を傷つけるくらいなら、自分達の苦労を選ぶ。
この程度の危機は過去もあった。アスタロトが眠りについた時期に合わせて攻撃され、ルシファーを守る剣がベルゼビュートだけだった場面も、番を喪ったベールが動けなかった時も……大公が全員揃わず不利な状況に置かれることは少なくない。
「僕は大公だからね。この失態は挽回してみせる」
「ええ、ご武運を」
甘やかすだけでは駄目だと見送るベールは、背を向ける水色の髪の青年に祈りの言葉を向けた。
30
お気に入りに追加
4,969
あなたにおすすめの小説
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました
オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、
【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。
互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、
戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。
そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。
暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、
不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。
凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、内容が異なります。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる