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42章 魔王妃殿下のお勉強

578. オルトロスの処遇

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 ヘルハウンドと意思疎通が出来たので、魔族として認められ、獣はオルトロスと名づけられた。知らない場所で目が覚めたら、周囲を囲まれて怖くなり、威嚇していたらしい。そこに魔力量の多い面々が集まり、炎による攻撃があった。パニックになりビームを放ったのだ。

 背中の蛇はまだ好きになれないルシファーだが、オルトロスの小心で真面目そうなところは気に入った。

「悪かったな」
 
 詫びに生活環境を整えてやろうと思ったが、この頃新種の魔族が増えたため、分け当たる土地が思い浮かばない。唸りながら地図を睨みつけるルシファーへ、アスタロトが提案した。

「新しい種族でも単独の者は、大公の領地内預かりで構わないと思いますよ。ホムンクルスをルキフェルが預かったのですから、私の領地にオルトロスを受け入れましょう」

「それがいいか。あまり分割すると、管理の手間ばかり増える」

 一定数の同族がいれば繁殖地や住処も広さがいるが、単独種族の場合は広さはさほど必要ない。しかし狭ければ隣人とトラブルになるし、餌場の確保などの問題も発生するだろう。アスタロトの提案は、現実的な解決策として欠点が少ない。

 大公は広い領地をもつが、ほとんど領地に帰らないので管理を任せる種族を選んできた。その中に彼も混ぜてもらえばいい。いずれ家族ができてから、新しい土地を用意しても間に合うだろう。

「オルトロス。場所が気に入らなければ、移動もできるからな」

 双頭の犬の頭をそれぞれに撫でてやると、彼らは嬉しそうに尻尾を振った。頭は2つだが、尻尾は太い蛇一本しかない。左右どちらが優先と決まりはあるだろうか。奇妙な疑問が浮かぶが、後回しだった。

「屋敷の片付けはドワーフに依頼しますが、その前にベルゼビュートに試算させましょう」

 修理費用については、数字に細かい彼女に頼む。手配したアスタロトに任せ、ルシファーはリリスと屋敷の奥へ入った。普段使わない奥は、まだ使えそうな部屋が残っている。

 手を繋いだリリスが腕も絡めた。嬉しそうな鼻歌は音痴だが、ルシファーも気分が上向いていく。放置された部屋の一つに踏み込むと、後ろを振り返った。

 人族の召喚者3人、魔族の少女4人と魔獣5匹の大所帯だ。転移したベルゼビュートと呼び出したアスタロトはまだ庭にいた。そのため、宴会場のような広い部屋で休む。

 厨房はあるが使っていない。魔王城から転送で送られてくる食事を受け取り、ルーサルカがそれぞれに分けていった。朝食が終わる頃、ピヨが近くの火山で遊ぶとゴネ始める。やれやれと苦笑いしつつも、アラエルがピヨを連れて火口へ向かった。

 見送るヤンが不満そうに鼻を鳴らす。ヘルハウンドとオルトロスは顔を見合わせ、4つの頭は同じ結論を出した。機嫌を損ねたフェンリルに飛びつくと、遊んでくれと強請る。面倒だと跳ね除けたヤンも、絆されて庭へ駆け出していった。

「ヤンは犬みたいね」

「リリス様、思っていても口に出してはいけませんわ」

 ルーシアがお茶の用意をしながら嗜め、ぺろっと舌を出して失敗を誤魔化したリリスに、アベルが今更なことに気づいた。

「フェンリルは犬じゃないのか?!」

 驚きを含んだその言葉はヤンの耳に届き、しばらくアベルを見ると鼻に皺をよせて威嚇するようになった。
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