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42章 魔王妃殿下のお勉強

572. 弊害と効果

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 アンナは覚悟を決めた。きっちり与えられた役目を果たした。その後のことは自分の責任ではない。ルーシアが男性の顔を見られなくなり、ルーサルカが父であるアスタロトに蔑む眼差しを向けても、シトリーが知恵熱を出したって、断じて悪くないはずだ。

 ちなみに、レライエはすんなり受け止めた。

「ルシファー、知らなかったからごめんね。こないだの痛かったでしょう?」

 リリスは男性のアレの扱いを説明されて以降、大変申し訳ないことをしたと反省しきりだった。知らないとはいえ力任せに握ったし、腫れてると思い込んで撫でたりした。よく暴発しなかったものだとアンナが呆れかえったので、余計に悪いことをした意識が強くなる。

「いや、仕方ない。誰でも最初は知らないものだ」

 にっこり笑ってリリスを膝に乗せようとするが、赤面したリリスに拒まれて固まる。性教育の弊害だが、ルシファーにとって許されざる大事件であった。

「リリス? もうお膝に乗ってくれないのか?」

「……ダメです。重いもの」

 体重が重いから、デリケートな部分を潰したらマズい。リリスの気遣いを否定できず、でも膝に乗せたいルシファーが必死に頼み込む。

「気を付ければ平気だし、リリスは重くないぞ。だからお膝に横向きで座って欲しい」

「ダメ」

 一言で遮断され、ショックに顔色が青くなる。後ろで見ていたアスタロトが眉を寄せて、溜め息をついた。可能性は想定していたが、思ったよりがっちり性教育されたらしい。いずれは必要な知識だが、今のルシファーはメンタルが硝子細工である。これ以上砕けたら修復できなくなりそうだった。

「リリス姫、ルシファー様の……」

「お義父様は口出ししないで」

 ルーサルカの厳しい言葉に邪魔される。なぜでしょう、性教育を受けた後の義娘から毛虫を見るような眼差しを向けられるのは……あれですか? 父親に対して性的な感情を持たないよう働く本能がありましたね。それにしても手厳しいです。

 困惑顔のアスタロトに対し、影の方でイザヤに後ろから抱っこされて座るアンナは申し訳なさそうに手を合わせた。義父と義娘と彼らの関係を知らないので「一夫一妻、次々とパートナーを次々と変えるのはふしだらな行為」と教えてしまった。18人目の奥様がいるアスタロトの事情など、アンナが知るはずなく……自分がいた世界の常識で言い切ったのだ。

 お陰で、ルーサルカの中で『お義父様はふしだら』と決めつけられてしまった。この誤解は、話を聞き出したアデーレが、ルーサルカに「あの人の奥さんは18人いるけれど、付き合うのは常に1人ずつよ。寿命が長いから死別した元奥さんがたくさんいるの」と説明するまで、数日間続いたという。

「もうお嫁さんになってくれないのか?」

 しょんぼりしたルシファーの呟きに、リリスは困惑しながら首を横に振る。しかしルシファーは俯いて見ていなかった。視線を合わせるために、リリスがルシファーの膝に乗り上げる。

「ルシファーのお嫁さんになるよ」

 純白の髪を撫でて抱きつくと、ルシファーに強く抱き締められ、あれよあれよと膝に座らされた。しがみ付いて離れないルシファーの頭を撫でながら、リリスは学んだ。

 『男の人は大きな子供だと思いなさい』というアンナの言葉の真意を。この状態を示していたのだ。仕方ないと好きにさせながら、リリスはルシファーの頬に口付けた。

 夜にお風呂や同じベッドで寝ることを嫌がるかと心配されたリリスだが、まったく抵抗なくルシファーと戯れあっていた。しかし魔王陛下の魔王様に気を使うので、時々赤面して見つめ合い固まるという恋愛効果が出る。それも含め、今回の一番の被害者は――アスタロトであった。
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