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42章 魔王妃殿下のお勉強

569. 到着した教育係は意外な人で

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 伝言を受けたルキフェルに何があったのか。

 たまたま城に用があり立ち寄ったドラゴニア家当主エドモンドは、頼まれた届け物を運んできた。魔王に会えたことに感激しきりの彼に、疲れを癒すために温泉を勧める。ルシファーの勧めに恐縮しながらも、言われるまま温泉へ向かったエドモンドを見送った。

 午前中である今は誰も風呂を使っていないので、ちょうどいいだろう。リリスを膝の上から下さないルシファーが、腰掛けた椅子がぎしりと音を立てる。ルキフェルに頼んだのは側近となる少女達4人、それから性教育係だった。

 頭を抱えるアスタロトは、並んだ7人と2匹に溜め息をつく。どうやって選んだら、このメンバーになったのか。ルーシア、ルーサルカ、シトリー、レライエ――ここまでは伝言通りだ。アラエルはピヨにも性教育をお願いしたいと申し出て、保護者枠で参加していた。これはまあ、ついでなので問題ない。

 イザヤ、アンナ、アベル――異世界人である彼らは、アラエルが運んできた。世界が違っても性教育は同じで構わないのか。それ以前に彼らが参加を希望した理由もよくわからない。

「……どうなったら、7人と2匹になったんですか」

「あ、手紙を預かりました」

 アベルが慌ててバッグから手紙を取り出す。宿泊セットらしき着替えが詰め込まれたバッグの中を漁り、底の方にしまっていた封筒を手渡された。裏の封印代わりの署名はベールの筆跡だ。見慣れた同僚の筆跡を千切るようにして封を開き、1枚だけの手紙を広げた。

 さっと目を通し、ようやく理由が分かったアスタロトが頷く。

「ルシファー様、彼らが教師役を引き受けてくれるそうです」

 異世界の性教育知識は豊富で、女性同士で話をした方がいいと締め括られていた。ある意味、非常に難しい教育なのだ。異性にデリケートな話題を説明されるより、同性同士のお茶会での噂話のような軽い雰囲気の方が話しやすいだろう。この教育が変なトラウマになっても困ると気を使った結果らしい。

「……アベルやイザヤが説明するのか?」

 それはダメだと匂わせるルシファーへ、アスタロトが苦笑いして追加した。

「いえ、アンナ嬢に引き受けていただきます」

「だったら、彼らは何しにきた?」

 単純な疑問に、当事者から返答があった。

「答えていいですか?」

「構わん」

 礼儀作法や貴族の序列といった複雑なルールを覚えた彼らは、この世界に馴染む努力を続けていた。魔王に直接答える前に、一度クッションを置いて尋ねるのもひとつだ。ルシファー自身は気にしないが、周囲の貴族に睨まれる原因になりかねない。

 ルシファーの許可を得たアベルが話し出す。寡黙なイザヤよりコミュニケーション能力は高かった。

「杏奈ちゃんは教育係、イザヤ先輩はその付き添いです。僕は温泉があると聞いたので、ぜひと頼みました」

 ルシファー達は知らなかったが、異世界人……とりわけ日本人は風呂が好きだ。温泉と聞いたら入りたいと思う。そんな事情を知らないベールだが、イザヤが行くのならばアベルが増えても変わらないだろうと許可を出していた。

「温泉、入らせてください!」

「エドモンドが入ってるが、好きにしてよい」

 いつでも構わないと頷けば、大喜びしながら場所を確認してタオル片手にスキップして行った。そんなアベルを見送り、イザヤが苦笑して頭を下げる。

「子供ですまない」

 ある程度学んでも、生来の性格はそう簡単に変わらない。真面目なイザヤにしてみれば、アベルの自由さは子供っぽく見えた。魔族は多種多様な種族がおり、年の取り方も違うくらいなのであまり気にしない。そう説明され、イザヤはほっとした顔で礼を言った。

 以前にアベルが無礼を働いた際に、見捨てようとした自分を恥じた発言をした。彼が無礼や失礼を働いたら、フォローするつもりのようだ。

 異世界人のリーダーとして、イザヤの方が「周囲との軋轢を生みにくい」と冷静に判断するアスタロトにより、近々種族の代表に指名されるのは数日後だった。
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