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42章 魔王妃殿下のお勉強

567. 朝になっても収まりませんでした

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 朝の眩しい日差しに、遠い目をするルシファーは溜め息をついた。寝着の胸元にしがみついた可愛いリリスが、頬をすり寄せてくる。これは幼い頃からの癖で、覚醒する少し前になるとぐずって頬をすり寄せたり、握った寝着を引っ張るのだ。

 普段なら「可愛い」と呟きながら頬ずりして終わる場面だが、昨夜の魔王様暴発未遂事件(非公式)があった翌朝となれば、いろいろと複雑な気持ちが過るのも仕方ない。可愛いのだが、その一言で済ませてやれそうになかった。

「……ん、ルシ……ファ」

 呼ぶ声は懐かしい響きだ。あの頃、12歳まで成長した彼女を性的な対象として認識しなかった。ただ可愛くて、愛しくて、ひたすらに甘やかしたのに。

 何の偶然か、昨夜は反応してしまった。裸だったとはいえ、鎮める前に気づかれたのは失策だった。

 まずいぞ、またあの状態になったら……こうやって並んで眠り、挨拶代わりに接吻け、膝に乗せて座ることが出来なくなる。黒髪を撫でたり、一緒に入浴するたびにが起きてしまったら……。

 唸りたい気分で困惑の眼差しをリリスの旋毛に向ける。ここにキスを落としたいが、もし反応したらと思うと怖い。触れる方法が断たれたら、水を忘れた花のように枯れるだろう。対策がわからず、うっかり抱き締めたリリスの背から両手が動かせなかった。

 やや膨らんだ胸を押し付けてぴたりと全身を添わせたリリスは、お嫁さんとなるのだから手を出してもいいんじゃないか? いや12歳の身体は未成熟だからダメだろう。

 怖がらせて「二度と顔も見たくない」と言われたら、魔族巻き込んで自滅してやる。迷惑な覚悟を決めながら、ルシファーは朝のすがすがしい空気に似合わぬ溜め息を吐いた。

「……アスタロトに相談するか」

 18人も嫁を貰ったんだ。的確なアドバイスがもらえるかも知れない。リリスと似たような思考で側近に頼る魔王は、そう決まると気が楽になってリリスの黒髪に手を伸ばした。背中に沿わせていた手で、黒髪を数回撫でてみる。

 意外と平気そうだ。

「お、はよ……ルシファー、早いのね」

「ああ、おはよう」

 黒髪を撫でても大丈夫だったことで、少しだけ余裕が出来る。なんだ、思ってたより平気じゃないか。オレの自制心も大したもの……そこで身を起こしたリリスの白い首に目が釘付けになる。視線をそらそうと下を向いたら、今度は柔らかそうな胸元が飛び込んだ。

 やばい。なぜ自分の身体の一部なのに暴走する? 焦って、深呼吸を繰り返し宥めた。3回目くらいで鼓動が落ち着いてくる。

「具合悪いの? アシュタ呼ぶ?」

 具合は悪くないので首を横に振った直後、アスタロトを呼んで欲しいので頷く。振り回した頭がくらくらするが、心配そうなリリスが寝起きで温かい手を頬に当てた。

「待っててね。すぐ呼ぶね――アシュタ!! ルシファーが死んじゃう!!」

 いきなり叫んだリリスだが、その声は魔力を乗せて遠くまで運ばれた。指定されたアスタロトは朝食中だったが、突然頭を割るような大音響で叫ばれてカトラリーを取り落とす。

「……っ、加減を……知らない人ですね」

 非常識だと文句を言いながら、今送り込まれた声の内容を反芻して……慌てて立ち上がった。魔王が死に直面したという恐ろしい内容に、部屋の外へ飛び降りる。執務室の隣にある私室は2階だが、何ら問題ない。着地して早足で中庭に向かいながら、ベールへ本日の予定変更を連絡した。

 到着した中庭で、ヤンが日向ぼっこをしている。

「ヤン、陛下の元へ行きますがついて来ますか?」

「お供しますぞ!」

 大喜びで起き上がった小山サイズのフェンリルは、あっという間に小型化した。魔法陣に駆け寄った小型犬サイズの狼は、アスタロトの足元でお座りする。ルシファーの魔力を目印に、アスタロトは転移した。行き先が、蜜月状態の2人の寝室だと知らぬまま――。
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