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41章 溺愛の弊害

560. 崩壊していく絆

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※流血表現があります。
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 身の内に凶器となる封印を持つアスタロトは、主君の手で果てることを希望した。精霊女王として寿命を持たないベルゼビュートの望みも、主の剣として共に殉じること。そして……番を喪った私を救った魔王へ口にした願いは、次こそ残されたくないというもの。あれほどの喪失感に、2度は耐えられない。

 身勝手な各人の望みに、あの日のルシファーは苦笑いした。封印のための短剣を、赤い涙を流す主君の首筋に向けて突きたてる。

「嫌だって言っただろ!! ……くっ」

 両手を重ねて突きだしたルキフェルの手に刺さった短剣が止まる。ルシファーへ向けられた剣先を掴んだルキフェルの叫びが響いた。

 風の魔力を使って加速したベールの眼前に転移した青年は、痛みに顔をしかめながら短剣を握り込む。抜かせないつもりだろう。再びルシファーを狙おうとするベールの行動を妨げながら、ルキフェルが魔力を込めて手のひらに魔法陣を描く。

 ずるりと奇妙な手ごたえに短剣を引くが、遅かった。ルキフェルの乱入に動揺したベールの隙をついて、短剣を別の場所へ転移させたのだ。とどめを刺す武器を奪われ、ベールの青い瞳が細められた。

「ルキフェルっ!」

 叱りつける響きに、青年は悔しそうに顔を歪めた。自分だけ知らされなかった、自分だけ蚊帳の外だった。同じ大公でありながら、彼らと一緒に逝くことを望まれなかったのだ。

「うるさい! 僕だって、大公なんだぞ! なのに……こんな」

 ルシファーを止める方法がないから、彼を封印しようとした。殺す気はないとわかるが、このままでは全員失われて、残った僕1人で魔族を支えなければならなくなる。魔王不在の魔族は荒れるだろう。その苦行を押し付けるなら、事前に一言あってしかるべきだ。言葉で告げられたら絶対に拒絶するが。






 瓦礫の山で血塗れの魔王と大公達の姿に、ルーサルカとルーシアは震えが止まらなかった。今までにない強大な魔力の爆発を感じた途端、彼女らが待機していた都の外側へ獣人達が転送される。本人達も驚いている様子から、何か起きたと判断して遡って飛んだ。魔法陣の解析を得意とするルーシアが一緒に飛んだのは、ルーサルカだ。

 シトリーとレライエは、魔の森で感じた別の魔力を調べに離れた。しばらく戻らないだろう。

 転移した先は大聖堂があった、現在は瓦礫の山となった広場。花壇は押しつぶされ、美しかったステンドグラスも、ゴミと化している。

「……ねえ、どうしてこんな騒ぎになってるの?」

「わからないわ」

 天井が抜けた大聖堂の上から、手足の震えが止まらなくなるほどの魔力を感じる。ぽたぽたと降って来た雨を辿るように見上げ、頬に垂れた雨粒を指で拭った。鉄錆た独特の臭いに顔をしかめる。

「え、血……なの?」

 意味がわからず顔を見合わせた2人は、次の瞬間、頭を抱えて蹲った。雷が大聖堂の十字架に落ちる。かろうじて残っていた壁面の金属製の十字架は、雷の軌道を呼び寄せたらしい。ばちばちと光を纏った後、転がるように落ちて来た。

「びっくり、した」

 ルーサルカの言葉に重なるタイミングで、今度は人が落ちてくる。咄嗟に魔法で受け止めたのは、その人の髪色や服に見覚えがあったから。

「シア! 手伝って!!」

「もちろん!」

 瓦礫を魔法で変形させて巨大な器を作り出す。下に砕いた砂を溜めたルーサルカの意図を汲んで、ルーシアが水を大量に流し込む。連携で作ったプールの水が盛り上がり、落ちてくる人影を包んで受け止めた。大量の水が散る。

 水の精霊族ウンディーネの作り出した透明な水が、赤く濁った。慌ててルーサルカが中へ飛び込み、予想通りの人物に息を飲む。

「ベルゼビュート、さま?」

 大きなプールが赤く染まるほどの出血があったのなら、すぐに治癒を施さないと。焦りで滑る手で彼女を縁まで運んだ。土の擁壁を壊して水を捨て、横たえたベルゼビュートの胸には剣が刺さっている。いつも彼女が敵に振るってきた銀の刃は、持ち主の身体を深く貫いていた。

「あ、あれ……、うそっ」

 ベルゼビュートの胸の剣を抜こうとしたルーサルカの耳に、震えるルーシアの声が届く。誘われるように顔を向けた先、魔王を囲んで血塗れの3人がくず折れる形で落ちた。
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