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40章 長期休暇を取得してました
537. 最優先はお昼寝です
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解せぬ……なぜまた攻撃された?
オレリアの集落は、上級妖精族の里だ。当然ながら魔王に攻撃する理由はないのだが、目の前で押さえつけられた少年が必死に叫んでいた。
「オレリア姉様を妾にするなんて! 絶対に許さないからな!!」
「ふむ……側室を求めた記憶はないが」
首をかしげるものの、怒りはわかない。アスタロトが同行していなくて良かったと思う程度だ。笑顔を浮かべて敵を弄るタイプの男だから、それはそれは残酷な方法で少年の心は折られただろう。折る程度ならいいが、粉砕される可能性もあった。
誤解の原因は不明だが、命がけの抗議を無視する気はない。子供の意見であっても、大切な民の声ならば聞き届けるのが執政者の役目だとルシファーは考えていた。
地面に伏した両親が寛恕を求める。ハイエルフの村は騒然としていた。入り込んだ人族を排除しに行った同族はまだ戻らず、転移で現れた魔王に子供が短剣を振りかざした。風の魔法が付与された短剣は鋭く、しかし魔王の結界に阻まれて折れる。
状況を把握した長老が駆け寄り、許しを請うために跪き深く頭を下げた。
「申し訳ございません。我らの一族から造反者を出すなど……魔王陛下に逆らった子供には罰を与えますゆえ、どうか命ばかりはお許しください」
「誤解があるらしい。余は厳しい罰を望まぬぞ」
「……お、おお。何という慈悲深いお言葉……」
感涙する長老には悪いが、とりあえず状況を整理して話を聞きたい。どう声掛けしたものかとルシファーが困惑の顔で溜め息をついた。リリスはうとうと眠りかけており、大きな声で騒ぐのも正直遠慮してもらいたい。
詫びも話も説明も小声にしてもらおう。ルシファーが口を開く直前、風に乗ったオレリアが舞い降りた。追いかけてきた同族も次々とルシファーの前に現れ、大急ぎで伏せて頭を擦りつける。同族からの念話を受けて全速力で戻ったらしい。
「陛下、私のせいです。お詫びはいたしますゆえ! どうか……、この子の命は!!」
絞り出した声で助命嘆願され、大きな声にびくりと肩を揺らしたリリスが「ふえっ」としゃくり上げた。子供は眠りかけと寝起きが一番厄介だ。機嫌が悪いことも多く、眠り掛けの心地よさを破られたリリスも例外ではなかった。
「うぁあああ! パパのばかぁ!!」
「えええ?! オレが悪いのか?」
慌てて腕の幼女を揺すって落ち着かせようとするが、赤子の時より手ごわい。両手をばたばたさせてルシファーの顔を遠慮なく殴り、足を突っ張って仰け反る。落ちそうになったリリスを抱きとめると、今度は全力で殴られた。
暴れるリリスをぎゅっと抱きしめて、何とか密着に成功する。これで手足をばたつかせる攻撃の大半は防ぐことが出来るし、背中を叩いて落ち着かせることもできそうだ。とんとんとリズムよく背を叩いて子守唄を聞かせる。
「うっ、パパのばか」
「ごめんな。リリス……いい子だ」
状況を察したオレリアが子守唄を引き継いでくれた。ハイエルフの親たちが子供を遠ざけ、里の中心である広場の物音が消えていく。静かな森の葉擦れの音に、オレリアの子守唄が重なる。徐々にリリスの瞼が落ちてきて、文句を言う可愛い赤い唇から寝息が漏れた。
ほっとしたルシファーが縦抱きのリリスの背を叩く手を止めた時、足元に押さえつけられていた子供が叫ぶ。
「子持ちに、姉様はわたさなっ!」
パチンと乾いた音がして、涙目のオレリアが少年の頬を平手で叩いていた。すっと大きく息を吸った彼女が怒りの声を上げる。
「なんでわからないの! 陛下は関係ないと言ったでしょうっ!!」
「オレリア、大声は」
控えろと告げるはずの注意は遅かった。眠ったはずのリリスが大きく仰け反り、黒髪を振り乱して首を横に振る。落ちかけたリリスを抱き締めるが、また起こされたリリスの機嫌は地を這っていた。
「うわぁあああああ! やぁ! パパのばかぁ」
「またか……」
「も、申し訳ございません」
慌てたオレリアがおろおろと立ち上がり、また子守唄を歌ってくれる。しかしリリスはもう眠る気が失せたらしく、泣きながら指を咥えて愚図りだした。いつもなら昼寝の時間なのだから、眠くなるのは当然だ。
外見に釣られて内面も幼いリリスにとって、昼寝の邪魔をする者は悪そのものだった。涙を零しながら抗議するリリスの拳を受けながら、溜め息を吐く。そういえば、10年ほど前もリリスが寝なくて苦労したな……現実逃避ぎみにそんなことを思い出した。
「しかたない。最後の手段だ」
結界で音を完全遮断して、魔法陣を浮かべた右手でリリスの目元を覆う。手のひら全体でリリスの視界を奪い、強制的に意識を眠りに落とした。
最初からこうすればよかったのだが、魔法陣による眠りは深い。無理やり眠らせる方法に副作用がないとは言え、あまり好ましく思わないルシファーは滅多に使わなかった。
「ひとまず、誤解を解くところから始めよう」
宣言したルシファーは、腕の中の愛し子の眦に残る涙を拭いながら付け足した。
「だが、リリスの昼寝が終わるまで待て」
オレリアの集落は、上級妖精族の里だ。当然ながら魔王に攻撃する理由はないのだが、目の前で押さえつけられた少年が必死に叫んでいた。
「オレリア姉様を妾にするなんて! 絶対に許さないからな!!」
「ふむ……側室を求めた記憶はないが」
首をかしげるものの、怒りはわかない。アスタロトが同行していなくて良かったと思う程度だ。笑顔を浮かべて敵を弄るタイプの男だから、それはそれは残酷な方法で少年の心は折られただろう。折る程度ならいいが、粉砕される可能性もあった。
誤解の原因は不明だが、命がけの抗議を無視する気はない。子供の意見であっても、大切な民の声ならば聞き届けるのが執政者の役目だとルシファーは考えていた。
地面に伏した両親が寛恕を求める。ハイエルフの村は騒然としていた。入り込んだ人族を排除しに行った同族はまだ戻らず、転移で現れた魔王に子供が短剣を振りかざした。風の魔法が付与された短剣は鋭く、しかし魔王の結界に阻まれて折れる。
状況を把握した長老が駆け寄り、許しを請うために跪き深く頭を下げた。
「申し訳ございません。我らの一族から造反者を出すなど……魔王陛下に逆らった子供には罰を与えますゆえ、どうか命ばかりはお許しください」
「誤解があるらしい。余は厳しい罰を望まぬぞ」
「……お、おお。何という慈悲深いお言葉……」
感涙する長老には悪いが、とりあえず状況を整理して話を聞きたい。どう声掛けしたものかとルシファーが困惑の顔で溜め息をついた。リリスはうとうと眠りかけており、大きな声で騒ぐのも正直遠慮してもらいたい。
詫びも話も説明も小声にしてもらおう。ルシファーが口を開く直前、風に乗ったオレリアが舞い降りた。追いかけてきた同族も次々とルシファーの前に現れ、大急ぎで伏せて頭を擦りつける。同族からの念話を受けて全速力で戻ったらしい。
「陛下、私のせいです。お詫びはいたしますゆえ! どうか……、この子の命は!!」
絞り出した声で助命嘆願され、大きな声にびくりと肩を揺らしたリリスが「ふえっ」としゃくり上げた。子供は眠りかけと寝起きが一番厄介だ。機嫌が悪いことも多く、眠り掛けの心地よさを破られたリリスも例外ではなかった。
「うぁあああ! パパのばかぁ!!」
「えええ?! オレが悪いのか?」
慌てて腕の幼女を揺すって落ち着かせようとするが、赤子の時より手ごわい。両手をばたばたさせてルシファーの顔を遠慮なく殴り、足を突っ張って仰け反る。落ちそうになったリリスを抱きとめると、今度は全力で殴られた。
暴れるリリスをぎゅっと抱きしめて、何とか密着に成功する。これで手足をばたつかせる攻撃の大半は防ぐことが出来るし、背中を叩いて落ち着かせることもできそうだ。とんとんとリズムよく背を叩いて子守唄を聞かせる。
「うっ、パパのばか」
「ごめんな。リリス……いい子だ」
状況を察したオレリアが子守唄を引き継いでくれた。ハイエルフの親たちが子供を遠ざけ、里の中心である広場の物音が消えていく。静かな森の葉擦れの音に、オレリアの子守唄が重なる。徐々にリリスの瞼が落ちてきて、文句を言う可愛い赤い唇から寝息が漏れた。
ほっとしたルシファーが縦抱きのリリスの背を叩く手を止めた時、足元に押さえつけられていた子供が叫ぶ。
「子持ちに、姉様はわたさなっ!」
パチンと乾いた音がして、涙目のオレリアが少年の頬を平手で叩いていた。すっと大きく息を吸った彼女が怒りの声を上げる。
「なんでわからないの! 陛下は関係ないと言ったでしょうっ!!」
「オレリア、大声は」
控えろと告げるはずの注意は遅かった。眠ったはずのリリスが大きく仰け反り、黒髪を振り乱して首を横に振る。落ちかけたリリスを抱き締めるが、また起こされたリリスの機嫌は地を這っていた。
「うわぁあああああ! やぁ! パパのばかぁ」
「またか……」
「も、申し訳ございません」
慌てたオレリアがおろおろと立ち上がり、また子守唄を歌ってくれる。しかしリリスはもう眠る気が失せたらしく、泣きながら指を咥えて愚図りだした。いつもなら昼寝の時間なのだから、眠くなるのは当然だ。
外見に釣られて内面も幼いリリスにとって、昼寝の邪魔をする者は悪そのものだった。涙を零しながら抗議するリリスの拳を受けながら、溜め息を吐く。そういえば、10年ほど前もリリスが寝なくて苦労したな……現実逃避ぎみにそんなことを思い出した。
「しかたない。最後の手段だ」
結界で音を完全遮断して、魔法陣を浮かべた右手でリリスの目元を覆う。手のひら全体でリリスの視界を奪い、強制的に意識を眠りに落とした。
最初からこうすればよかったのだが、魔法陣による眠りは深い。無理やり眠らせる方法に副作用がないとは言え、あまり好ましく思わないルシファーは滅多に使わなかった。
「ひとまず、誤解を解くところから始めよう」
宣言したルシファーは、腕の中の愛し子の眦に残る涙を拭いながら付け足した。
「だが、リリスの昼寝が終わるまで待て」
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