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38章 弊害が呼ぶ侵略者

521. 言葉が通じなくても仲良しです

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 亀の焼肉を召喚者達に手渡す。3皿が消えたので、残った1皿を右手に移動させた。リリスの花柄のお皿は少し深く作られている。そこに亀肉を移し替えながら、互いに食べさせ合った。

「ルシファー様」

「はん?」

 口に頬張った直後の声掛けに振り返り、慌てて肉を飲み込む。亀肉は鳥のササミに似た柔らかさだが、さすがに噛まずに飲むのは無理があった。咳き込んでしまい、大急ぎで近くの侍従から受け取った杯を飲み干す。

「びっくりした……で、どうした?」

 待っていたアスタロトが無言で指さす先で、アベルが酒を飲まされていた。ドワーフの猛攻を防ぎきれず、潰されかけたベルゼビュートが手前で座り込む。彼女の上で酒瓶が傾けられ、アベルの持つコップに注がれた。髪の上に零れた酒は、ベルゼビュートが拭って舐めているので放置する。

「飲酒なら止めればいいだろう」

 なぜオレに尋ねるのか。これは魔王の職分じゃないと言いかけたところで、アスタロトの指さすものが、さらにその先だと気づいた。城門前で毛繕いをする鳳凰アラエルの足元にいる鱗の人々に、アンナが話しかけたのだ。少し会話らしきものをしたあとで、後ろのイザヤもぽつりと言葉をかけた。

「会話、出来てるのか?」

「おそらく」

 不思議そうに首をかしげるアスタロトに促され、アラエルの近くに移動する。食べ終えたこともあり、リリスが「ピヨ!」と呼びかけると、青いヒナが顔を覗かせた。アラエルの首の後ろあたりを毛繕いするピヨが飛び降り、リリスと遊び始める。

 近くにいるよう言い聞かせて下したところ、追いかけっこを始めた。駆け寄ってきた少女達が一緒に遊ぶので、イポスも含めて守護を任せる。

「アンナ嬢、その者達と会話が出来るのか?」

「えっと……はい」

 頷いたアンナは、話していた彼らと視線を合わせるために地面に座っている。よく見ればどこかで調達したシートの上にいるが、病み上がりの身体が冷えてしまうだろう。収納空間から取り出したクッションを渡し、礼を言った彼女がその上に座った。

「彼らがどこから来たか、どんな目的があるのか。聞いてもらえると助かります」

 穏やかな物腰でアスタロトが頼むと、アンナは少し考えてから聞き慣れない言葉を発した。すると向こうも唸り声ではなく、同様に話しかけてくる。内容は理解できないが、確かに言語による会話とおぼしき状況が見て取れた。

「互いに片言なので、正確じゃないかも知れませんが……」

 前置きしたアンナの説明によると、彼らは異世界の住人らしい。この世界から流れ込む魔力の影響を受けて、彼らの生態系は異常をきたした。しかし魔力の流入を止める方法がわからず、異常をきたした者を集めて魔力が漏れ出る穴に捨てたという。

 つまり彼らは異世界からこの世界へ捨てられた。以前にこの世界に召喚された者による魔法陣の被害者なのだ。この世界から流れ出た魔力が到着した先は、ほぼ魔力がない世界だったらしい。魔法も存在しないため、肌に鱗が生えた者は悪魔の洗礼を受けた者として排除対象となった。

 運悪く捨てられたが、あの世界にいても殺される。見も知らぬ森の中に落ちた彼らは、突然遭遇した魔王達に鱗がなかったことで、自分達が襲われると思い込んで先制攻撃を仕掛けたようだ。以前の世界でよほどひどい目に遭ったのだろう。

「また過去の召喚者絡みか」

 もれた呟きにに呆れが滲む。どこまで騒動を大きくしたら気が済むのか。彼だか彼女だか知らないが、その者が不遇の立場に置かれたことはわかる。なんとか前の世界に戻ろうと足掻いたのも当然だった。しかし長年にわたり、あちこちの世界に迷惑をかけまくる状況を作った事実はいただけない。

「とりあえず会話が出来るなら、後で通訳の仕事をお願いします」

 にっこり笑って約束を取り付けるアスタロトに、アンナはしっかり頷いた。仕事として役に立てる特技があってよかったと微笑む。ずっと面倒を見てもらうだけでは申し訳ないと考えていたので、ちょうどよかったと兄妹は顔を見合わせた。

「パパ、この子も一緒に遊んでいい?」

 駆け寄ったリリスは、鱗がある少年の手を掴んでいる。繋いだ手を振りながらコミュニケーションをとるリリスは、言葉が通じなくても気にしなかった。

「……子供が最強でしたね」

 言葉が通じなくても仲良くなれる――魔族最強の称号を掲げる魔王を負かす幼女は、満面の笑みを浮かべて走り出した。
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