522 / 1,397
38章 弊害が呼ぶ侵略者
519. 正体不明の飛行物体で処理します
しおりを挟む
亀は手足をカットし、甲羅を割って内臓なども取り出したところで、ルキフェルが上から雨を降らせた。血を洗い流すための作業だが、その後手早く鍋に移される。ベールが用意した行事用の大鍋に水を満たし、鳳凰が火をつけた薪でがんがんに沸かし続けた。
煮こぼすことで、アクも減って美味しいスープが出来上がる。周囲は美味しそうな匂いが漂い、誰もが『九分九厘すっぽんだと思われる亀の鍋』に期待が高まっていた。
「……アスタロト」
「なんですか? 暇なら手伝ってください」
亀の内臓をばらして焼く作業に借り出されたアスタロトが、ローブの袖をたすき掛けで頑張っている。きちんと熱気や湯気を結界でシャットアウトする彼は、涼し気な顔でトング片手に焼肉を続けていた。
「ああ、うん。手伝うけど……この亀の正体を探らなくていいのか? 歴史にきちんと残さないとマズイだろう」
襲撃者の出所が『突然空から落ちてきた』だけで構わないのならいいが。そんなルシファーの疑問に、アスタロトはトングを手渡す。反射的に受け取ったルシファーが、促されるままモツ焼きを始めた。
「いえ、もう正体不明の飛行物体で処理します」
アスタロトはばっさり懸念を切り捨てた。ベールやルキフェルが何も言わないところを見ると、これは決定事項らしい。亀の爪を酒に浸けるドワーフと一緒に、ベルゼビュートはもう酒盛りを始めていた。
珍しく下りているリリスは、少女達に囲まれて飴を見せびらかしていた。その後分けてあげることにしたらしく、全部で7本あった薔薇の飴を1本ずつ少女達に渡し始める。すべて同じピンクの薔薇だった。皆で「綺麗だ」と言いながら、腰掛けたベンチで飴を堪能している。
「亀の正体ならば、あの鱗の人々が知ってそうでしたよ。落ちてきた途端に指さして「あー」だか「うー」だか名称らしき唸り声をあげましたから」
「退治して構わなかったのか?」
彼らにとって迎えだったり大切な存在だったりしたら、目の前で解体作業されるのはトラウマになるだろう。気遣うルシファーだが、鳳凰アラエルと鸞鳥ピヨに纏わりつく彼らは元気そうで、トラウマの欠片も感じられない。ちらっと視線を向けたアスタロトが「平気そうです」と切り捨てた。
大公と魔王がトング片手にモツを焼き、肉をひっくり返す。平和そのものの光景に、城内は穏やかな日常を取り戻しつつあった。亀が落ちてきた時の地震で建物の損害はあったものの、人的被害がなかったことも影響している。
「ところで、鱗の連中と話が出来る種族は見つからないのか」
「まだですね。この騒ぎで城下町から獣人系が多く集まってきたので、試してもらいましょう」
亜種や変異種も多い城下町なら、特殊な言語を解する者もいるはずだ。その程度の感覚で話をまとめ、焼き終えた肉や内臓を皿の上に乗せていく。ルシファーが長い袖に眉をひそめ、隣のアスタロトのたすきに気づいた。
「アスタロト、たすきの予備はあるか?」
「申し訳ありません。ないのです」
「しかたない。魔法陣で対処しよう」
リリスの髪留めに使った固定魔法陣を使って、器用に袖を留める。気を付けないと、焼肉の上に触れてしまうのだ。そこへリリスが駆けてきた。後ろには少女達が付き従っている。
「パパ、リリスもじゅーってする!」
「うーん、まあ何事も経験だ」
迷ったものの、自らも魔王なのに下水掃除までこなした経験があるので、ここは興味をもったら経験させる方針で通す。ちなみに下水掃除の切っ掛けが、魔王城の流しに小型の水溶性生物を流してしまったことによる罰と、彼らの回収作業だったのは余談である。
抱き上げて気づいたが、リリスのピンクのひらひらドレスは可愛い。非常に可愛いので二度言うが、可愛い。しかし焼肉には向かない恰好だった。
一度おろして、視線を合わせるために膝をつく。
「リリス、このドレスだと焼肉は出来ない。トングで「じゅー」とやりたいなら着替える。着替えないなら我慢する。どっちがいい?」
「着替える」
「アスタロト、ちょっと場を外す」
「わかりました」
舌打ちした気がした。振り返っても、本心が読めない笑みの側近はもしかして……手伝う猫の手を求めて、魔王を利用したのでは? そんな疑惑を抱えながらも、ルシファーはリリスと手を繋いで着替えるため部屋に向かう。
「お義父様、いい加減に揶揄うのはお止めください。陛下にはバレておりますわ」
ルーサルカが苦言を呈するが、吸血鬼王はさらりとかわした。
「何のお話か、皆目見当もつきません」
親子の殺伐としたやり取りをよそに、焼き終えた料理は美少女達により配布されていく。まだ煮える前の鍋に並んでいた人々も焼肉とモツ焼きに移動し、笑顔で手渡してくれる少女達のおかげで場は大いに賑わった。
煮こぼすことで、アクも減って美味しいスープが出来上がる。周囲は美味しそうな匂いが漂い、誰もが『九分九厘すっぽんだと思われる亀の鍋』に期待が高まっていた。
「……アスタロト」
「なんですか? 暇なら手伝ってください」
亀の内臓をばらして焼く作業に借り出されたアスタロトが、ローブの袖をたすき掛けで頑張っている。きちんと熱気や湯気を結界でシャットアウトする彼は、涼し気な顔でトング片手に焼肉を続けていた。
「ああ、うん。手伝うけど……この亀の正体を探らなくていいのか? 歴史にきちんと残さないとマズイだろう」
襲撃者の出所が『突然空から落ちてきた』だけで構わないのならいいが。そんなルシファーの疑問に、アスタロトはトングを手渡す。反射的に受け取ったルシファーが、促されるままモツ焼きを始めた。
「いえ、もう正体不明の飛行物体で処理します」
アスタロトはばっさり懸念を切り捨てた。ベールやルキフェルが何も言わないところを見ると、これは決定事項らしい。亀の爪を酒に浸けるドワーフと一緒に、ベルゼビュートはもう酒盛りを始めていた。
珍しく下りているリリスは、少女達に囲まれて飴を見せびらかしていた。その後分けてあげることにしたらしく、全部で7本あった薔薇の飴を1本ずつ少女達に渡し始める。すべて同じピンクの薔薇だった。皆で「綺麗だ」と言いながら、腰掛けたベンチで飴を堪能している。
「亀の正体ならば、あの鱗の人々が知ってそうでしたよ。落ちてきた途端に指さして「あー」だか「うー」だか名称らしき唸り声をあげましたから」
「退治して構わなかったのか?」
彼らにとって迎えだったり大切な存在だったりしたら、目の前で解体作業されるのはトラウマになるだろう。気遣うルシファーだが、鳳凰アラエルと鸞鳥ピヨに纏わりつく彼らは元気そうで、トラウマの欠片も感じられない。ちらっと視線を向けたアスタロトが「平気そうです」と切り捨てた。
大公と魔王がトング片手にモツを焼き、肉をひっくり返す。平和そのものの光景に、城内は穏やかな日常を取り戻しつつあった。亀が落ちてきた時の地震で建物の損害はあったものの、人的被害がなかったことも影響している。
「ところで、鱗の連中と話が出来る種族は見つからないのか」
「まだですね。この騒ぎで城下町から獣人系が多く集まってきたので、試してもらいましょう」
亜種や変異種も多い城下町なら、特殊な言語を解する者もいるはずだ。その程度の感覚で話をまとめ、焼き終えた肉や内臓を皿の上に乗せていく。ルシファーが長い袖に眉をひそめ、隣のアスタロトのたすきに気づいた。
「アスタロト、たすきの予備はあるか?」
「申し訳ありません。ないのです」
「しかたない。魔法陣で対処しよう」
リリスの髪留めに使った固定魔法陣を使って、器用に袖を留める。気を付けないと、焼肉の上に触れてしまうのだ。そこへリリスが駆けてきた。後ろには少女達が付き従っている。
「パパ、リリスもじゅーってする!」
「うーん、まあ何事も経験だ」
迷ったものの、自らも魔王なのに下水掃除までこなした経験があるので、ここは興味をもったら経験させる方針で通す。ちなみに下水掃除の切っ掛けが、魔王城の流しに小型の水溶性生物を流してしまったことによる罰と、彼らの回収作業だったのは余談である。
抱き上げて気づいたが、リリスのピンクのひらひらドレスは可愛い。非常に可愛いので二度言うが、可愛い。しかし焼肉には向かない恰好だった。
一度おろして、視線を合わせるために膝をつく。
「リリス、このドレスだと焼肉は出来ない。トングで「じゅー」とやりたいなら着替える。着替えないなら我慢する。どっちがいい?」
「着替える」
「アスタロト、ちょっと場を外す」
「わかりました」
舌打ちした気がした。振り返っても、本心が読めない笑みの側近はもしかして……手伝う猫の手を求めて、魔王を利用したのでは? そんな疑惑を抱えながらも、ルシファーはリリスと手を繋いで着替えるため部屋に向かう。
「お義父様、いい加減に揶揄うのはお止めください。陛下にはバレておりますわ」
ルーサルカが苦言を呈するが、吸血鬼王はさらりとかわした。
「何のお話か、皆目見当もつきません」
親子の殺伐としたやり取りをよそに、焼き終えた料理は美少女達により配布されていく。まだ煮える前の鍋に並んでいた人々も焼肉とモツ焼きに移動し、笑顔で手渡してくれる少女達のおかげで場は大いに賑わった。
24
お気に入りに追加
4,953
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」
「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」
公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。
理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。
王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!
頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/01/30 完結
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです!
12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。
両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪
ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/07/06……完結
2024/06/29……本編完結
2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位
2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位
2024/04/01……連載開始
死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります
みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」
私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。
聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?
私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。
だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。
こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。
私は誰にも愛されていないのだから。
なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。
灰色の魔女の死という、極上の舞台をー
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる