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38章 弊害が呼ぶ侵略者
508. 大人のお付き合いとは
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「捕まえたわ!!」
これまた見えている肌に鱗がついた少年を連れたベルゼビュートが戻ってきた。蔓草で縛り上げた少年を、アスタロトの足元に転がす。それから金のスパンコールドレスの女性に首をかしげた。
「あら、これはどこで見つけたの? あたくしの獲物と似てるわ」
「こちらも雷を落とした犯人の一人です」
「ふーん。実はね、あたくしが捕らえたのは15人ほどいるのよ。そのうちで一番軽いのを運んだの」
気を失った少年を指さしたベルゼビュートの説明に、リリスが「指さしちゃメッなのよ!」と注意する。いつも自分がされる注意を、そっくりそのまま返した幼女に、ベルゼビュートが苦笑いした。
「そうね、姫様の言う通りだわ」
得意げにぺたんこの胸を反らしたリリスだが、すぐに足元の女性と少年に目を向ける。鱗へ手を伸ばすが、ルシファーが慌てて遮った。指先を掴まれたリリスは不満そうに唇を尖らせる。
「意識がないだろう? 許可を得てないのに身体に触るのは失礼だ」
もっともらしい言い方でリリスを説得するが、本音は別の場所にあった。種族が判明しない。あきらかに人族と違う外見的特徴をもち、雷を操る能力があるにもかかわらず、アスタロトやルシファーが判別できなかった。それは魔族であっても届け出前の新種族か、別の地域から来た種族の可能性もある。
肌や鱗に毒があるかも知れず、リリスを近づけることは出来なかった。魔王の結界が常に発動していても、影響を受けない保証はない。用心するルシファーに頷き、アスタロトが簡単そうにベルゼビュートを嗾けた。
「さすがはベルゼビュートですね。ではこの2人と15人を一緒に城門へ送りましょうか。ああ、でもあなたは疲れたでしょうから」
「全然平気よ! すぐに連れていくわね」
おだてられた女王は木に登る――そんな造語が少女達の脳裏を横切った。操られたことに気づかず、褒められたと前向きに受け止めるベルゼビュートは、鼻歌まじりに近くの大木に手を触れる。木を通じて蔓を呼び寄せ、自分では手を触れずに2人を運び始めた。
なるほど……こうやって人を働かせるのですね。勉強になったと感心しきりのルーサルカとルーシアが顔を見合わせて頷く。いずれ操られる側に回りそうなレライエとシトリーは、足元の小型犬ヤンとミニチュアドラゴンを抱き上げた。
「よし、移動だ」
ルシファーの号令で、ぞろぞろと着飾った集団が歩いていく。アムドゥスキアスはレライエの腕の中で尻尾を大きく揺らし、ヤンはシトリーに撫でられて幸せそうだった。ルーシアと手を繋いだルーサルカは森の歩き方に慣れており、獣人系特有の身のこなしで精霊族の少女を導く。
先頭を歩くベルゼビュートの操る蔓が、しゅるりと音を立てて森の奥へ入っていった。後を追うルシファーの目に、十数人が縛り付けられた木々が見える。
「あれか?」
「ええ。いきなり攻撃されましたから、全員縛り上げて意識を奪いましたの」
平然と怖ろしい実力差を語った美女は、連れてきた2人を近くの木に縛る。8本の木に蔓で拘束された男女はすべて意識がなかった。
「まだ殺してないわ」
「ならば結構です」
無言で尋ねたアスタロトへ首を横に振って、殺害疑惑を否定したベルゼビュートがにっこり笑う。
「だって、楽しませてくれるのでしょ?」
「しっかり歓待させていただきますとも」
大人の会話の真っ黒な本音を知らず、リリスはぱちくりと目を瞬いた。ぎゅっとルシファーの髪を掴み、引っ張って耳に口を近づける。それからひそひそ話を始めた。
「ベルゼ姉さんとアシュタは、何するの?」
「大人のお付き合いだよ」
これまた笑顔で誤魔化す魔王へ、幼女は「お付き合い? 奥さんいるのに、だめなの。アデーレが泣いちゃう」と声を上げた。ひそひそ話ですらなかった声量なので、この場の全員に聞こえている。
顔を赤らめて「不倫?」と噂話を始める少女達、眉をひそめたヤンは「最低ですな」と酷評する。アムドゥスキアスは心の古傷が痛むのか、鼻息荒く「なんてこと」と憤慨した。
「ふーりん、って何? パパ」
「……リリスが知らなくていい言葉だ」
「風鈴でしたら、風の妖精達が作っていますから献上させます」
アスタロトが話をすげかえてぶった切った。全員がぴたりと口を噤む。直後に聞こえた呻き声に、目覚めかけた青年に視線が集中した。
これまた見えている肌に鱗がついた少年を連れたベルゼビュートが戻ってきた。蔓草で縛り上げた少年を、アスタロトの足元に転がす。それから金のスパンコールドレスの女性に首をかしげた。
「あら、これはどこで見つけたの? あたくしの獲物と似てるわ」
「こちらも雷を落とした犯人の一人です」
「ふーん。実はね、あたくしが捕らえたのは15人ほどいるのよ。そのうちで一番軽いのを運んだの」
気を失った少年を指さしたベルゼビュートの説明に、リリスが「指さしちゃメッなのよ!」と注意する。いつも自分がされる注意を、そっくりそのまま返した幼女に、ベルゼビュートが苦笑いした。
「そうね、姫様の言う通りだわ」
得意げにぺたんこの胸を反らしたリリスだが、すぐに足元の女性と少年に目を向ける。鱗へ手を伸ばすが、ルシファーが慌てて遮った。指先を掴まれたリリスは不満そうに唇を尖らせる。
「意識がないだろう? 許可を得てないのに身体に触るのは失礼だ」
もっともらしい言い方でリリスを説得するが、本音は別の場所にあった。種族が判明しない。あきらかに人族と違う外見的特徴をもち、雷を操る能力があるにもかかわらず、アスタロトやルシファーが判別できなかった。それは魔族であっても届け出前の新種族か、別の地域から来た種族の可能性もある。
肌や鱗に毒があるかも知れず、リリスを近づけることは出来なかった。魔王の結界が常に発動していても、影響を受けない保証はない。用心するルシファーに頷き、アスタロトが簡単そうにベルゼビュートを嗾けた。
「さすがはベルゼビュートですね。ではこの2人と15人を一緒に城門へ送りましょうか。ああ、でもあなたは疲れたでしょうから」
「全然平気よ! すぐに連れていくわね」
おだてられた女王は木に登る――そんな造語が少女達の脳裏を横切った。操られたことに気づかず、褒められたと前向きに受け止めるベルゼビュートは、鼻歌まじりに近くの大木に手を触れる。木を通じて蔓を呼び寄せ、自分では手を触れずに2人を運び始めた。
なるほど……こうやって人を働かせるのですね。勉強になったと感心しきりのルーサルカとルーシアが顔を見合わせて頷く。いずれ操られる側に回りそうなレライエとシトリーは、足元の小型犬ヤンとミニチュアドラゴンを抱き上げた。
「よし、移動だ」
ルシファーの号令で、ぞろぞろと着飾った集団が歩いていく。アムドゥスキアスはレライエの腕の中で尻尾を大きく揺らし、ヤンはシトリーに撫でられて幸せそうだった。ルーシアと手を繋いだルーサルカは森の歩き方に慣れており、獣人系特有の身のこなしで精霊族の少女を導く。
先頭を歩くベルゼビュートの操る蔓が、しゅるりと音を立てて森の奥へ入っていった。後を追うルシファーの目に、十数人が縛り付けられた木々が見える。
「あれか?」
「ええ。いきなり攻撃されましたから、全員縛り上げて意識を奪いましたの」
平然と怖ろしい実力差を語った美女は、連れてきた2人を近くの木に縛る。8本の木に蔓で拘束された男女はすべて意識がなかった。
「まだ殺してないわ」
「ならば結構です」
無言で尋ねたアスタロトへ首を横に振って、殺害疑惑を否定したベルゼビュートがにっこり笑う。
「だって、楽しませてくれるのでしょ?」
「しっかり歓待させていただきますとも」
大人の会話の真っ黒な本音を知らず、リリスはぱちくりと目を瞬いた。ぎゅっとルシファーの髪を掴み、引っ張って耳に口を近づける。それからひそひそ話を始めた。
「ベルゼ姉さんとアシュタは、何するの?」
「大人のお付き合いだよ」
これまた笑顔で誤魔化す魔王へ、幼女は「お付き合い? 奥さんいるのに、だめなの。アデーレが泣いちゃう」と声を上げた。ひそひそ話ですらなかった声量なので、この場の全員に聞こえている。
顔を赤らめて「不倫?」と噂話を始める少女達、眉をひそめたヤンは「最低ですな」と酷評する。アムドゥスキアスは心の古傷が痛むのか、鼻息荒く「なんてこと」と憤慨した。
「ふーりん、って何? パパ」
「……リリスが知らなくていい言葉だ」
「風鈴でしたら、風の妖精達が作っていますから献上させます」
アスタロトが話をすげかえてぶった切った。全員がぴたりと口を噤む。直後に聞こえた呻き声に、目覚めかけた青年に視線が集中した。
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