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33章 人族の勢力バランスなんて知らん
452. 全員目を逸らせ! お姫様の危機一髪
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謁見の間に入ると、見慣れた面々と明らかに首をかしげる者達が混じっていた。赤い絨毯が敷かれた壇上の椅子に腰かける。きりっと姿勢を正していた貴族達が、ほっとした様子で強張りを解いた。ここまでは今まで通りだ。
問題は後方に展開するドラゴンや魔獣達だった。天井を大きく作ってよかったと見当違いの感想を抱きながら、ルシファーは大公達の説明を待つ。公式の場で最上位の魔王が言葉を発するには、それなりの手順が必要なのだ。
「魔王陛下の下命に従い、近隣の公爵、侯爵、伯爵を招集いたしました」
「ご苦労だった」
伯爵位以上のすべてを招集したわけではないので、近隣の貴族だけで構わない。しかし、まるっと無視された後ろの羽が生えた奴や毛皮の者は、どうしたものか。助けを求めるルシファーの視線に、肩を竦めたアスタロトが擁護する発言をした。
「戦闘に貢献した彼らの同席をお許しください」
ああ、つまりは見学か。魔獣達は滅多に魔王城に滞在しない。周辺で生活しているが、謁見の間は初めての者も多いだろう。納得して頷けば、何もなかったようにベールが議題を切り出した。
「異世界より召喚された者の処遇に関し、魔王陛下の恩情で魔王城への滞在が予定されています。異議のある方は挙手で示してください」
「よろしいですかな?」
発言を求めるドラゴニア侯爵家エドモンドに、ベールが頷く。一礼してから、彼は勇者たちを指さした。
「彼らは魔王陛下のお命を狙った輩です。城に置くのは危険ではありませぬか」
「……余は魔王、力を貴ぶ魔族の王ぞ」
穏やかな笑みを浮かべ、着替えたリリスの裾を直しながら答えを示す。
「魔王として強者の頂点にたつ余が、己の命を惜しんで助けを求める弱者を切り捨てるのは愚の骨頂。不意打ちに倒れる程度の魔王など不要だ」
「恐れ入りましてございます。若輩者のたわ言にございました」
感極まった様子のエドモンドに、ルシファーは銀の瞳を向けた。ドラゴンの中では重鎮と呼ばれる年長者だが、長く生きる魔王からみれば赤子同然だ。遜ってみせるエドモンドを柔らかく労った。
「いや、そなたの懸念はもっともだ。余の心配をしたのであろう? 礼を言う」
「有難き幸せ」
どこぞの時代劇のようだと思いながら、アベルは魔族の観察に勤しんでいた。耳が猫だったり狐だったり、大きな尻尾があったり、ファンタジーな光景が広がる広間は、アニメ好きな彼にとってコスプレ広場と同じ。目を輝かせて豊富な魔族の特色を眺める。
「他に意見は?」
ベールが淡々と議事進行を行う中、イザヤは妹アンナを抱き寄せていた。怯えている様子はないが、まだ体調が悪いアンナが倒れないか心配なのだ。出来れば座らせたいが、魔王以外は立っているのが慣習と言われると反論も出来ない。男の自分の方が体力があるだろうと、妹を支える役を買って出た。
「ならば異議なしとして承認します」
終わりを告げるベールの声が聞こえ、リリスがぽんと膝の上から飛び降りた。さきほど着替えたので、今はピンク色のワンピースを着ている。走っていく彼女の後姿に、ルシファーが慌てて立ち上がった。
スカートの後ろが下着に巻き込まれおり、真っ白なパンツが丸見えだ。抱っこしていた時はスカートを巻き込んでいたのに気づかなかった。お姫様の下着が衆目晒されてしまう。
「まて、リリス」
「なぁに? パパ」
次の瞬間、声をかけたことを後悔する。ルシファーの呼びかけにリリスが振り返ったのだ。お尻を貴族の方へ向けたため、ルシファーの厳しい声が響く。
「全員目を逸らせ! 見た奴の目を抉る」
ドラゴンは羽で顔を覆い、魔獣達もゴメン寝状態で目を両手で覆った。貴族達はさりげなく視線を逸らしたり、足元を凝視する。ほっとしながら近づいて、リリスのスカートを手早く直した。
危ない。やっぱりリリスを下ろすのは危険だ。
一番危険な自分の思考を棚上げし、ルシファーはこれからも抱っこ生活を続けさせようと決意した。危険だった自覚がないリリスは首をかしげ、「もう行っていいの?」と尋ねる。黒髪を撫でれば、大きな赤い瞳がぱちりと瞬きした。
「一緒に行こうか」
「うん」
ルシファーの手を引っ張ったリリスが向かうのは、大きな1匹の魔狼の前だった。
問題は後方に展開するドラゴンや魔獣達だった。天井を大きく作ってよかったと見当違いの感想を抱きながら、ルシファーは大公達の説明を待つ。公式の場で最上位の魔王が言葉を発するには、それなりの手順が必要なのだ。
「魔王陛下の下命に従い、近隣の公爵、侯爵、伯爵を招集いたしました」
「ご苦労だった」
伯爵位以上のすべてを招集したわけではないので、近隣の貴族だけで構わない。しかし、まるっと無視された後ろの羽が生えた奴や毛皮の者は、どうしたものか。助けを求めるルシファーの視線に、肩を竦めたアスタロトが擁護する発言をした。
「戦闘に貢献した彼らの同席をお許しください」
ああ、つまりは見学か。魔獣達は滅多に魔王城に滞在しない。周辺で生活しているが、謁見の間は初めての者も多いだろう。納得して頷けば、何もなかったようにベールが議題を切り出した。
「異世界より召喚された者の処遇に関し、魔王陛下の恩情で魔王城への滞在が予定されています。異議のある方は挙手で示してください」
「よろしいですかな?」
発言を求めるドラゴニア侯爵家エドモンドに、ベールが頷く。一礼してから、彼は勇者たちを指さした。
「彼らは魔王陛下のお命を狙った輩です。城に置くのは危険ではありませぬか」
「……余は魔王、力を貴ぶ魔族の王ぞ」
穏やかな笑みを浮かべ、着替えたリリスの裾を直しながら答えを示す。
「魔王として強者の頂点にたつ余が、己の命を惜しんで助けを求める弱者を切り捨てるのは愚の骨頂。不意打ちに倒れる程度の魔王など不要だ」
「恐れ入りましてございます。若輩者のたわ言にございました」
感極まった様子のエドモンドに、ルシファーは銀の瞳を向けた。ドラゴンの中では重鎮と呼ばれる年長者だが、長く生きる魔王からみれば赤子同然だ。遜ってみせるエドモンドを柔らかく労った。
「いや、そなたの懸念はもっともだ。余の心配をしたのであろう? 礼を言う」
「有難き幸せ」
どこぞの時代劇のようだと思いながら、アベルは魔族の観察に勤しんでいた。耳が猫だったり狐だったり、大きな尻尾があったり、ファンタジーな光景が広がる広間は、アニメ好きな彼にとってコスプレ広場と同じ。目を輝かせて豊富な魔族の特色を眺める。
「他に意見は?」
ベールが淡々と議事進行を行う中、イザヤは妹アンナを抱き寄せていた。怯えている様子はないが、まだ体調が悪いアンナが倒れないか心配なのだ。出来れば座らせたいが、魔王以外は立っているのが慣習と言われると反論も出来ない。男の自分の方が体力があるだろうと、妹を支える役を買って出た。
「ならば異議なしとして承認します」
終わりを告げるベールの声が聞こえ、リリスがぽんと膝の上から飛び降りた。さきほど着替えたので、今はピンク色のワンピースを着ている。走っていく彼女の後姿に、ルシファーが慌てて立ち上がった。
スカートの後ろが下着に巻き込まれおり、真っ白なパンツが丸見えだ。抱っこしていた時はスカートを巻き込んでいたのに気づかなかった。お姫様の下着が衆目晒されてしまう。
「まて、リリス」
「なぁに? パパ」
次の瞬間、声をかけたことを後悔する。ルシファーの呼びかけにリリスが振り返ったのだ。お尻を貴族の方へ向けたため、ルシファーの厳しい声が響く。
「全員目を逸らせ! 見た奴の目を抉る」
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危ない。やっぱりリリスを下ろすのは危険だ。
一番危険な自分の思考を棚上げし、ルシファーはこれからも抱っこ生活を続けさせようと決意した。危険だった自覚がないリリスは首をかしげ、「もう行っていいの?」と尋ねる。黒髪を撫でれば、大きな赤い瞳がぱちりと瞬きした。
「一緒に行こうか」
「うん」
ルシファーの手を引っ張ったリリスが向かうのは、大きな1匹の魔狼の前だった。
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