434 / 1,397
32章 怯える聖女、追う幼女
431. 地下迷宮で聖女を探せ!
しおりを挟む
人族を排除しつつエルフやドワーフが切り開いた道を、獣人達が駆け抜ける。尻尾や耳を立てて興奮状態の獣人は、人族より戦闘能力が高かった。運動神経が違いすぎるのだ。走りながら兵士と冒険者を斬り捨て、逃げる一般市民を放置して拠点を制圧していく。
「聖女を探せ」
「手がかりはないか?」
あれこれと騒ぐ彼らだが、いくら鼻がよくても対象者が不明では見つけられない。離れた場所で様子を見ていた狐獣人が、にやりと口元を歪めた。一部の兵士や騎士が駆け込む場所がある。おそらく指揮系統のトップにいる貴族が隠れている拠点だった。ならば、そこに聖女が囚われてる可能性が高い。
「左の大きな商家の入り口を破れ! その先に指揮官がいる」
彼の発言に、近くの獣人達が屋根を駆けのぼり、壁を伝って商家に入り込む。
「悪いことを考える人族は、地下が好きなんだよな」
にやにやしながら、狼獣人が鼻をひくつかせる。たくさんの人族の臭いの中に、不思議な香りが混じっていた。汚物や腐った水の臭いが混じるのに、どこか惹かれる香りだ。女性のものか。
そこまで判断した時点で、彼も声をあげた。
「地下だ!! 女がいるぞ、行け」
地下室へ続く扉をぶち破り、獣人が我先にと飛び込んだ。魔獣の血が濃い者は獣の姿を取っている。そのまま手分けして地下室を探る彼らが、下水道を使って逃げる人族を発見した。聖女を連れている可能性があるので、そちらに半分ほど人員を割く。
逃げる人族を追いかける部隊と、残った施設を捜索する部隊に分かれた。狼獣人の一人が地下牢の一番奥に隠れる毛布の塊を見つける。小刻みに震える大きさは子供くらいだが、臭いは女であると示していた。
「お前が聖女か?」
「……ちが…い、ます」
苦しそうに告げられた声に、今度は狐系の女性が優しく語り掛けた。
「もう大丈夫よ、誰も傷つけたりしないわ。だから顔を見せてちょうだい」
しっしと強面の狼獣人を追い払った彼女が待つと、恐る恐る顔を見せたのは少女だった。まだ幼さが残る彼女の頬や首筋には傷があり、額には血の跡もある。暴行されたのは間違いない。痛々しい姿に息をついて、腰に下げたポーチから水袋を取り出した。
「お水、飲める?」
「……くれるの?」
頷くと手を伸ばし、だが触れる直前に動きが止まった。脅かさないよう気を付けながら、少女の手に水袋を手渡す。大した重さではないのに、支えられないほど衰弱した少女が水袋を落とした。拾おうと狐獣人が手を伸ばすと、少女は頭を抱えて「ごめん、なさっ……ごめ、なさい」と泣きながら謝る。
殴られると思ったらしい。可哀想になって、牢の中に入って彼女を抱き締めた。じたばた暴れる少女が大人しくなるまで、数分の間ずっと背中を撫で続ける。
「大丈夫、傷つける人はいない。だから心配いらないわ」
落ち着いた少女に、もう一度水袋を手渡した。飲む彼女の手に手を添えて、ごくりと喉が動くのを何度も見続ける。しばらくして気が済んだのか、少女は水の袋から口を離した。
「けほっ、う……ぅ」
咳き込んだ少女に、今度は携帯していた果物を渡す。水分が多い果実だから、胃にもたれることもないだろう。狐獣人の女性は、そっと尋ねた。
「ねえ、あなたは聖女なの?」
上目遣いで怯えた表情ながら、小さく頭が縦に動いた。気遣って見えない位置に下がっていた狼獣人の耳が、ぴくぴく動いて音を拾う。
「彼女が聖女で間違いないわ。陛下に連絡して」
狐獣人の小さな声に反応し、獣人達が一斉に走り出した。外へ飛び出し、上空で飛び回るペガサスに合図を送る。その合図はあっという間にルキフェルを経由して、ルシファーに届けられた。
「聖女を探せ」
「手がかりはないか?」
あれこれと騒ぐ彼らだが、いくら鼻がよくても対象者が不明では見つけられない。離れた場所で様子を見ていた狐獣人が、にやりと口元を歪めた。一部の兵士や騎士が駆け込む場所がある。おそらく指揮系統のトップにいる貴族が隠れている拠点だった。ならば、そこに聖女が囚われてる可能性が高い。
「左の大きな商家の入り口を破れ! その先に指揮官がいる」
彼の発言に、近くの獣人達が屋根を駆けのぼり、壁を伝って商家に入り込む。
「悪いことを考える人族は、地下が好きなんだよな」
にやにやしながら、狼獣人が鼻をひくつかせる。たくさんの人族の臭いの中に、不思議な香りが混じっていた。汚物や腐った水の臭いが混じるのに、どこか惹かれる香りだ。女性のものか。
そこまで判断した時点で、彼も声をあげた。
「地下だ!! 女がいるぞ、行け」
地下室へ続く扉をぶち破り、獣人が我先にと飛び込んだ。魔獣の血が濃い者は獣の姿を取っている。そのまま手分けして地下室を探る彼らが、下水道を使って逃げる人族を発見した。聖女を連れている可能性があるので、そちらに半分ほど人員を割く。
逃げる人族を追いかける部隊と、残った施設を捜索する部隊に分かれた。狼獣人の一人が地下牢の一番奥に隠れる毛布の塊を見つける。小刻みに震える大きさは子供くらいだが、臭いは女であると示していた。
「お前が聖女か?」
「……ちが…い、ます」
苦しそうに告げられた声に、今度は狐系の女性が優しく語り掛けた。
「もう大丈夫よ、誰も傷つけたりしないわ。だから顔を見せてちょうだい」
しっしと強面の狼獣人を追い払った彼女が待つと、恐る恐る顔を見せたのは少女だった。まだ幼さが残る彼女の頬や首筋には傷があり、額には血の跡もある。暴行されたのは間違いない。痛々しい姿に息をついて、腰に下げたポーチから水袋を取り出した。
「お水、飲める?」
「……くれるの?」
頷くと手を伸ばし、だが触れる直前に動きが止まった。脅かさないよう気を付けながら、少女の手に水袋を手渡す。大した重さではないのに、支えられないほど衰弱した少女が水袋を落とした。拾おうと狐獣人が手を伸ばすと、少女は頭を抱えて「ごめん、なさっ……ごめ、なさい」と泣きながら謝る。
殴られると思ったらしい。可哀想になって、牢の中に入って彼女を抱き締めた。じたばた暴れる少女が大人しくなるまで、数分の間ずっと背中を撫で続ける。
「大丈夫、傷つける人はいない。だから心配いらないわ」
落ち着いた少女に、もう一度水袋を手渡した。飲む彼女の手に手を添えて、ごくりと喉が動くのを何度も見続ける。しばらくして気が済んだのか、少女は水の袋から口を離した。
「けほっ、う……ぅ」
咳き込んだ少女に、今度は携帯していた果物を渡す。水分が多い果実だから、胃にもたれることもないだろう。狐獣人の女性は、そっと尋ねた。
「ねえ、あなたは聖女なの?」
上目遣いで怯えた表情ながら、小さく頭が縦に動いた。気遣って見えない位置に下がっていた狼獣人の耳が、ぴくぴく動いて音を拾う。
「彼女が聖女で間違いないわ。陛下に連絡して」
狐獣人の小さな声に反応し、獣人達が一斉に走り出した。外へ飛び出し、上空で飛び回るペガサスに合図を送る。その合図はあっという間にルキフェルを経由して、ルシファーに届けられた。
24
お気に入りに追加
4,927
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~
大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア
8さいの時、急に現れた義母に義姉。
あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。
侯爵家の娘なのに、使用人扱い。
お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。
義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする……
このままじゃ先の人生詰んでる。
私には
前世では25歳まで生きてた記憶がある!
義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから!
義母達にスカッとざまぁしたり
冒険の旅に出たり
主人公が妖精の愛し子だったり。
竜王の番だったり。
色々な無自覚チート能力発揮します。
竜王様との溺愛は後半第二章からになります。
※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。
※後半イチャイチャ多めです♡
※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる