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32章 怯える聖女、追う幼女
425. 異世界にもハゲはある
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結論から言うと『綺麗』にはなった。オレリアは肌艶がよくなったと喜んでいるし、服も新品同様だ。リリスも清めた手を振って、にこにこと機嫌よく笑っていた。
万能結界が仕事をしたあと、被害を被っていたのは足元の兎だ。リリスとオレリアに向かう筈だった魔法の大半が兎に適用され、気の毒なことに毛皮が行方不明になった。家出した、失踪したとも表記できるが……まあ、丸ハゲで震えている。
「……食材みたいですね」
引きつった顔で指摘したエドモンドの言葉を、リリスは違う意味に受け取った。
「これ、ごはんにするの?」
「出来なくないけど、倫理的にアウトだな」
震える兎を抱っこしたリリスが、とことこと歩いてくる。膝をついて兎ごと抱き上げて眉尻を下げた。なんとも哀れな姿である。毛を生やす魔法陣なんてストックないぞ。今まで縁はなかったが、初めて発毛関係で悩むルシファーは溜め息をついた。
子供のミスをカバーするのは親の役目だ。
「兎さん、寒そうだね」
「風邪はひくだろうな」
病気もだが、この状態で魔物行きかう魔の森で生きていけると思えない。撫でてやりながら、時間を戻す魔法陣は生き物に適用できなかったか……と頭の中で、大量の魔法陣から使えそうな物を探した。
「魔王陛下、この魔法陣などいかがでしょう」
唸っているルシファーを見かねたのか、エドモンドが提案する。魔法陣を浮かべて一部を指さした。
「この辺りを改変すれば使えそうです」
「あら、生き物でしょう? これだと兎肉(美味)になってしまいますわ」
オレリアが不備を指摘した。これだと美味しい食肉加工で間違いない。やはり生き物に使える魔法陣は限られてしまう。多少の改良では追いつかなそうだ。悩むルシファーの髪を引っ張ったリリスが「兎さんはふわふわがいい」と声をあげた。そのまま毛皮がない兎の背を撫でる。
「ふわふわ~、ふわ~、ぶわぁ……?」
リリスの手が覆った部分から、兎に毛が戻ってくる。巻き戻しなのか、新しく生やしたのか。分からぬまま兎はふたたび茶色い毛皮を取り戻した。元のふわふわを通り越して、長毛種みたいに毛が溢れていく。
「リリス?!」
「ふさふさのぉ、ぼさぼさになっちゃった」
毛が絡まる長毛種と化したモップのような姿の兎に、リリスは「何か違うの」と言いながら指でハサミの真似をした。切る仕草と同時に、兎の背がすっきりしていく。そのまま兎の毛刈りを行う非常識さに、エドモンドもオレリアも言葉を失った。
周囲の魔族は茫然としている。そもそも毛を生やす魔術があるなら、ハゲに悩む購入希望者が殺到するだろう。彼女が魔法陣を使用しなかったので、毛が生えた魔術の理屈が誰もわからない。
「……ルキフェルはどこだ?」
ぼそっと名を呼ぶと、転移で目の前に現れた。不思議そうな顔をするルキフェルは状況がつかめていない。呼び声に応えたら、ルシファーが兎を抱いたリリスを抱っこしており、衣服は短い茶毛で汚れていた。さらに茫然としたオレリアと、顎の外れそうなエドモンド。狂喜乱舞する一部の種族がいた。
「どうしたの?」
「あ、ああ。リリスが兎の毛を生やしたんだが……魔法陣に起こせるか?」
直前の魔法を写し取る魔法陣があったはずだ。そんなルシファーの問いかけに、きょとんとしたルキフェルが「毛を生やした?」と繰り返す。頷くルシファーと周囲の魔族の様子に、間違いないと理解したルキフェルの行動は早かった。
特殊な魔法陣を複数編んで、あっという間に兎を包囲する。四方から囲んで読み取りを行う。
「出来ましたか?」
期待の眼差しを向けるドワーフや一部の獣人に、ルキフェルは頷いた。
「あとで再構築してみるけど、たぶん出来ると思う」
わっと盛り上がる魔族の様子に、足元でアベルが呟いた。
「異世界もハゲはある……でもハゲは直るのか」
万能結界が仕事をしたあと、被害を被っていたのは足元の兎だ。リリスとオレリアに向かう筈だった魔法の大半が兎に適用され、気の毒なことに毛皮が行方不明になった。家出した、失踪したとも表記できるが……まあ、丸ハゲで震えている。
「……食材みたいですね」
引きつった顔で指摘したエドモンドの言葉を、リリスは違う意味に受け取った。
「これ、ごはんにするの?」
「出来なくないけど、倫理的にアウトだな」
震える兎を抱っこしたリリスが、とことこと歩いてくる。膝をついて兎ごと抱き上げて眉尻を下げた。なんとも哀れな姿である。毛を生やす魔法陣なんてストックないぞ。今まで縁はなかったが、初めて発毛関係で悩むルシファーは溜め息をついた。
子供のミスをカバーするのは親の役目だ。
「兎さん、寒そうだね」
「風邪はひくだろうな」
病気もだが、この状態で魔物行きかう魔の森で生きていけると思えない。撫でてやりながら、時間を戻す魔法陣は生き物に適用できなかったか……と頭の中で、大量の魔法陣から使えそうな物を探した。
「魔王陛下、この魔法陣などいかがでしょう」
唸っているルシファーを見かねたのか、エドモンドが提案する。魔法陣を浮かべて一部を指さした。
「この辺りを改変すれば使えそうです」
「あら、生き物でしょう? これだと兎肉(美味)になってしまいますわ」
オレリアが不備を指摘した。これだと美味しい食肉加工で間違いない。やはり生き物に使える魔法陣は限られてしまう。多少の改良では追いつかなそうだ。悩むルシファーの髪を引っ張ったリリスが「兎さんはふわふわがいい」と声をあげた。そのまま毛皮がない兎の背を撫でる。
「ふわふわ~、ふわ~、ぶわぁ……?」
リリスの手が覆った部分から、兎に毛が戻ってくる。巻き戻しなのか、新しく生やしたのか。分からぬまま兎はふたたび茶色い毛皮を取り戻した。元のふわふわを通り越して、長毛種みたいに毛が溢れていく。
「リリス?!」
「ふさふさのぉ、ぼさぼさになっちゃった」
毛が絡まる長毛種と化したモップのような姿の兎に、リリスは「何か違うの」と言いながら指でハサミの真似をした。切る仕草と同時に、兎の背がすっきりしていく。そのまま兎の毛刈りを行う非常識さに、エドモンドもオレリアも言葉を失った。
周囲の魔族は茫然としている。そもそも毛を生やす魔術があるなら、ハゲに悩む購入希望者が殺到するだろう。彼女が魔法陣を使用しなかったので、毛が生えた魔術の理屈が誰もわからない。
「……ルキフェルはどこだ?」
ぼそっと名を呼ぶと、転移で目の前に現れた。不思議そうな顔をするルキフェルは状況がつかめていない。呼び声に応えたら、ルシファーが兎を抱いたリリスを抱っこしており、衣服は短い茶毛で汚れていた。さらに茫然としたオレリアと、顎の外れそうなエドモンド。狂喜乱舞する一部の種族がいた。
「どうしたの?」
「あ、ああ。リリスが兎の毛を生やしたんだが……魔法陣に起こせるか?」
直前の魔法を写し取る魔法陣があったはずだ。そんなルシファーの問いかけに、きょとんとしたルキフェルが「毛を生やした?」と繰り返す。頷くルシファーと周囲の魔族の様子に、間違いないと理解したルキフェルの行動は早かった。
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「出来ましたか?」
期待の眼差しを向けるドワーフや一部の獣人に、ルキフェルは頷いた。
「あとで再構築してみるけど、たぶん出来ると思う」
わっと盛り上がる魔族の様子に、足元でアベルが呟いた。
「異世界もハゲはある……でもハゲは直るのか」
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