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31章 異世界召喚は違法行為?

419. 召喚された勇者の証言

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 大広間に再び集結した貴族達は、午後の会議の準備に勤しんだ。どうせ寝てしまうと諦め気分でクッションを用意する竜人、獣姿なら寝てもバレにくいと逃げ道を探す獣人、起きているためにミントの葉を大量に持ち込んだ精霊など。その対策は様々だが、半分ほどはまた寝てしまうと思われた。

 玉座に座ったルシファーの膝では、すでにリリスが熟睡している。この状態で会議を始めて、彼女が起きてしまったらどうするのか。前列の精霊やドワーフがざわつくが、ルシファーの遮音結界にくるまれたリリスは、くたりと身を任せる眠り姫だった。

「召喚魔法についての詳細は省きますが、人族が異世界から勇者を召喚しました。召喚された勇者の魔力量は歴代勇者の中でも上位です。今後も人族が勇者を召喚する可能性が高く、異世界からの召喚者の取り扱いに関する法律を制定します」

 決定事項として告げられた内容に、誰も反対はしなかった。

 異世界から呼ばれた者の地位が確定しないのは、今後の取り扱いが「人扱いしなくてもいい」という非道であっても文句が言えないという意味だ。貴族はそれなりに教育を受けている者が多く、魔族は権利への意識が高いこともあり、人族の所業に眉を顰める者が多数だった。

 このまま放置すれば、人族はまた異世界から誘拐同然の召喚を行い、不幸な異世界人を増やすと考えたのだ。ならば先に彼らの立ち位置を決めて、保護する形にすればいい。弱者を保護するのは強者の務め、魔族の間で共通の認識だった。

 召喚された者にとって新しい法が不利でなければ、異論はない。

「証言者、勇者アベル前へ」

 ルキフェルが手招きすると、小奇麗な衣服に身を包んだ青年が歩いてくる。クリーム系の明るい肌と濃い赤毛、青い目をしたアベルはルキフェルの斜め後ろで足を止めた。先ほどまで泣いていたので、多少目元が赤く腫れている。

 毅然と顔を上げた人族の姿に、魔族達は「あいつ、意外と根性あるな」と好意的に受け止めた。強者を貴ぶ風潮の中、弱者であっても怯えた態度がないだけで印象は違う。事前に言い聞かせたベールとルキフェルの言葉を、アベルはきちんと理解していた。

「嘘偽りなく、事実のみを述べてください。人族の都に召喚されてからのお話をお聞きします」

「はい」

 事前に昼食会として顔合わせをしていたおかげで、思ったより緊張しなくて済む。ルキフェル達がそこまで考えてセッティングしてくれたのだと、アベルは感動していた。

「召喚された時の状況を話してください」

「はい、自宅にいた僕は光が眩しくて、閉じた目を開けたら知らない人に囲まれてました。床の上に丸い円と文字がたくさん……あと記号みたいな模様も刻んである窓のない部屋です。魔術師が大勢いて、僕と女の子が一緒に召喚されました」

 ルキフェルに言われた通り、目上用の話し方で統一する。鱗が生えた大きな人や小さな子供みたいな人もいる。耳が尖ってたり、角があるけれど、もう怖いと思わなかった。

 アベルが必死で続ける内容は、静まり返った大広間の全員に届く。

「女の子は聖女だと言われて連れ去られ、その後会えていません。勇者と言われた僕は戦う訓練をさせられました」

「あなたの意思で?」

「断ったら立てなくなるほど殴られました。僕のいた世界は戦うことなんてなくて、だから怖くて言うことを聞くしかないです。魔法も剣も上手に扱えないから、塔の横の馬小屋で寝て、残飯みたいなご飯でした。『ハズレを引いた』と王様が言ってて、周囲も『魔物だ、化け物だ』と僕を罵りました。逃げる場所もなかったから、魔王様と戦うように命じられて森の入り口に捨てられたんです。貴族の息子が監視役でついてきましたが、勝手に勇者を名乗って自滅しました」

 思い出すと悔しくて、涙が滲んだ。零れないよう我慢しながら、必死で話し続ける。召喚された部屋から引きずられていった少女が、どんな扱いを受けているのか。自分が安全な場所にいると自覚した途端に涙が頬を伝った。

「パパ、あの子……痛そう」

「そうだな。すごく苦しくて痛い思いをした」

 幼女と魔王のかわす言葉が、じわりと胸に沁みた。
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