上 下
419 / 1,397
31章 異世界召喚は違法行為?

416. お昼休憩はのんびり長め

しおりを挟む
 ルキフェルが満足するまで答えた結果、お昼休みの予定時刻に15分ほど食い込んだ。報告が一段落したところで、アスタロトが遮る。

「さらに詳しい説明が欲しい者は、個別にルキフェル大公と約束を取り付けてください。では、今から70分のお昼休憩に入ります」

 解散と言わなくても、三々五々に散っていく。魔族の食事は種類が多すぎるため、夜会でもなければ用意はしないのが通例だった。生き血を飲む種族や生肉を好む者も多数いる。そういった者は少し離れた魔の森で餌を確保するのだ。

 食事の確保に時間がかかることを考慮し、休憩時間は60分ではなく70分に延長された経緯がある。わずか10分だが、午後の会議への遅刻者が激減した実績のある10分だった。

「陛下、起きてください」

 穏やかな笑みを浮かべて器用に寝ていたルシファーを軽く揺する。腕の中ですやすや眠るリリスが「ぱぱぁ?」と寝ぼけた声を出しながら目を開いた。

 欠伸を噛み殺したルシファーが周囲を見回し「終わったのか?」と首をかしげた。呆れ顔のアスタロトが「お昼休みです」と答える。専門用語の羅列と、仮説が新たな仮説を生む話は、長く聞いても10分が限度だ。それ以上になると脳が拒否して睡眠状態になる、そうぼやきながらルシファーはリリスの頬にキスをした。

 アスタロトの先導で控室に移動したルシファーは、用意された食卓の椅子の数に眉をひそめる。大公4人と自分で5つあれば足りる。リリスはいつも膝の上だから、間違っていないはずだった。なのに6つ用意された椅子の理由を尋ねようとしたところに、ルキフェルとベールが戻ってくる。

「ルシファー、勇者も一緒でいい? 午後からアベルも会議に連れていくから」

 あざといくらい可愛い笑顔で頼む少年に、ルシファーは肩を竦めた。事情が分かれば、別に異存はない。アスタロトが何も言わずに用意したなら、手続き上も問題ないのだろう。アデーレが料理の皿を並べ終え、カトラリーをチェックしてお茶を淹れる。

「構わない」

 さっさと座ったルシファーの左右をベルゼビュートとアスタロトが固めた。その先でルキフェルとベールが並んで座り、彼らの向かい側に勇者アベルの席だ。

 連れてこられた人族の青年は、やや怯えている様子だった。偽勇者に連れてこられた時の方がふてぶてしい態度だったが、徐々に自分の立ち位置が理解できたのか。

「怯えずとも人族を食べる習慣のある魔族は、この場にいない」

 魔族の中にも人族が食料になる種族は存在する。魔獣系などがその一例だが、アスタロトも人の血を吸わない以上、この場で人族が主食の魔族はいなかった。安心させようと告げた言葉に、なぜかさらに怯えられる。

「陛下、こういう場合は余計なことを言わない方が」

 にっこり笑って釘を刺され、黙って頷くに留める。今のアスタロトの発言の後半が浮かんでしまい、ルシファーは溜め息を吐いた。「余計なことを言わず、怯えさせておいた方が使える」と言いたいのだろう。きっと何か聞き出す予定があるのだ。

「パパ……これやだ」

 ぐいっと目の前の皿を押しのける。クリームシチューはリリスの好物で、キノコとコカトリス肉が入っていた。上に何やら飾られたハーブがあるが、どれが気に入らないのか。

「どれが嫌だ?」

「はっぱ」

 見覚えのないハーブが乗せられていたので、気に入らないらしい。彩りとしての飾りだろう葉を横の皿にのけて、シチューの皿を引き寄せた。じっと見るリリスの唇はまだ尖っている。

「コカトリス肉は好きだっただろう? 野菜もリリスが食べたことがある物ばかりだ。ほら」

 スープ皿の中をスプーンでかき回して見せる。じっと具材を睨むリリスへ、隣からベルゼビュートが声をかけた。

「あらやだぁ、お嫁さんなのに好き嫌いするの? 旦那さんが可哀そうよ」

 意味不明の叱り方だが、驚くほどリリスに効果があった。ぱっと表情を変えて振り返り、皿の中身とルシファーの顔を交互に眺める。それから隣の皿に取り分けられたハーブを睨んだ。

「……リリスもあれ食べる」

 シチューに乗っていたハーブを指さす。

「お嫁さんだから食べられるもん。パパがかわいそうくないもん」

 すごい睨み方だが、食べるというなら食べさせてみる。好き嫌いなく育てたいルシファーとしては願ったり叶ったりの状況だった。ベルゼビュートがくすくす笑いながら「さすがはお嫁さんね」と褒めると、まだ食べていないのに得意そうな顔をする。

 全員が席に着いたのを確かめ、「ご挨拶して」とリリスに囁く。両手を持ち上げて待つリリスの小さな手を魔法陣で清めて、愛用の金スプーンを渡した。

「いただきまちゅ!」

 肝心な場面だと噛みやすいリリスの挨拶に和みながら、ルシファーが最初に口を付ける。続いてリリスに「あーん」と食べさせた。上位者が食べたのを確かめ、大公達が続く。ルキフェルが促すと、アベルもようやくスプーンを手にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

処理中です...