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28章 魔の森、復活大作戦
380. 純粋な好奇心による事故
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大量の育児グッズは半分以下となり、それでも多いのだがルシファーが泣き喚いて死守した分は残された。ぐずぐず文句を言いながら、側近から守りきった幼児服やリボンなどを王妃の間に運んで片づける。
取られそうになった服を回収しながら「リリスに着せるために買ったんだから」と必死に抗議したルシファーの姿に、「あの頃は可愛かったですね」とアスタロトが昔話を始め「ええ、最初はただの白い子供でしたから」とベールが同調する。頷くベルゼビュートと、興味深そうにメモを始めるルキフェルが魔王の私室に大集合だった。
「片付けた」
上手に魔法陣を使って、自動的に片づけるシステムを作ったルシファーが胸を反らせる。片づけるまで没収されていたリリスに手を伸ばすと、赤い瞳を輝かせた赤子が手を伸ばした。
この部屋に来た当初はベルゼビュートが抱いたが、今は大型犬サイズで丸くなったヤンの毛皮で遊んでいる。実はベルゼビュートがお乳をやるフリをしたため、慌ててルシファーが引きはがしたのだ。たとえ女性相手でも、リリスが吸い付くのは許せないらしい。
「だ、ぶぅ! るー」
「おいで、リリス」
抱っこして満足げなルシファーの顔を、小さな手がぺちぺちと辿っていく。涎塗れの手であっても、ルシファーは嫌な顔ひとつせず笑顔で応じる。頬ずりして、白い頬にキスをした。
「これ、よくできてる」
覗き込んで魔法陣を解析したルキフェルが呟くと、興味を持ったベールも横から魔法陣を読み解く。クローゼット前の絨毯の上に描かれた魔法陣の上に衣服を置くと、浄化してから指定した場所に整頓される仕組みだった。
「この上に、人が乗ったらどうなるんだろう」
禁止事項の文字を読んだルキフェルが首をかしげる。洋服やアクセサリーを分類する魔法文字はあるが、生き物が乗った場合の記載がない。つまりどうなるか試さないとわからないという意味だった。
「乗せてみましょう」
用意された紅茶を飲むベルゼビュートに、ベールが手招きする。
「あら、なに?」
「こちらへ……」
珍しく手を差し伸べるベールに応じたベルゼビュートが、ぽんと魔法陣の上に乗せられた。魔法陣が発動する魔力の供給源は、乗せた服などに残留する微量な魔力だ。しかし魔力の塊である魔族を乗せたらどうなるか。純粋な興味を浮かべた水色の瞳が見守る中、ベルゼビュートに浄化がかけられた。
きらきらと魔法陣が光り、過剰供給となった魔力を周囲に放出する。
「ん? 何を……っ」
派手な光に振り向いたルシファーが咄嗟に結界を強化する。ヤンを含めて張った結界に、ちゃっかりアスタロトも便乗していた。吸血種族である彼にとって、浄化関係の魔法は相性が悪い。
「きゃ……えぇ!?」
ベルゼビュートの衣装がほどけて消滅し、全裸の豊満な肉体が残された。ピンクの巻き毛はストレートに戻り、化粧もすべて消えてすっぴんだ。
「……なんだぁ。残念」
何が起きると期待したのか。がっかりした様子のルキフェルの頭を撫でながら「地味な効果でした」とベールが慰める。
「とりあえずこちらをどうぞ」
早く隠せと言わんばかりの態度で、アスタロトが長い裾のローブをベルゼビュートの上から被せた。首をすぽんと出したベルゼビュートが真っ赤な顔で怒りだす。
「何の実験よ! もし髪の毛とか消えてたらどうしてくれるの?」
「治癒すれば平気でしょう。騒がしいですよ」
ルキフェルの好奇心を満たすためには容赦しない男ベールの言葉に、ルシファーが「さすがに酷い」と呟いた。足元の魔法陣は無事残されているが、とりあえず撤去することにする。
間違えてハイハイしたリリスが上に乗ると事件だからだ。万が一部屋の中ですっぽんぽんになったら……まあ、それはそれでいい。自分だけなら問題ないが、侍従や側近がリリスの裸体を拝む可能性がある以上、危険な魔法陣は残せなかった。
便利なので今後も使う予定の魔法陣だったが、ルキフェルの実験で危険が証明された。尊い犠牲となったベルゼビュートに手を合わせ、ルシファーが足元のヤンに目を止める。
「純粋な好奇心なんだが……ヤンを乗せるとどうなると思う?」
「わ、我が君。我が命と忠誠は捧げておりますが、毛皮は……毛皮だけは」
がくがくぶるぶる震える小型フェンリルの耳を撫でながら、ルシファーは「やらないぞ、危険だからな」と優しく声をかけた。浮かんだ興味は一瞬だが、確かに毛皮がはがされる可能性も考慮すべきだろう。
この片づけ魔法陣は便利な発明だが、人体への危険を避けるために封印すべきだ。魔王と側近達の判断により、数年を経て別件で必要とされるまで――魔法陣は役立たずの烙印を押されて封印されるはめとなった。
好奇心は猫ではなく竜や狼を殺すか……定かではない。
取られそうになった服を回収しながら「リリスに着せるために買ったんだから」と必死に抗議したルシファーの姿に、「あの頃は可愛かったですね」とアスタロトが昔話を始め「ええ、最初はただの白い子供でしたから」とベールが同調する。頷くベルゼビュートと、興味深そうにメモを始めるルキフェルが魔王の私室に大集合だった。
「片付けた」
上手に魔法陣を使って、自動的に片づけるシステムを作ったルシファーが胸を反らせる。片づけるまで没収されていたリリスに手を伸ばすと、赤い瞳を輝かせた赤子が手を伸ばした。
この部屋に来た当初はベルゼビュートが抱いたが、今は大型犬サイズで丸くなったヤンの毛皮で遊んでいる。実はベルゼビュートがお乳をやるフリをしたため、慌ててルシファーが引きはがしたのだ。たとえ女性相手でも、リリスが吸い付くのは許せないらしい。
「だ、ぶぅ! るー」
「おいで、リリス」
抱っこして満足げなルシファーの顔を、小さな手がぺちぺちと辿っていく。涎塗れの手であっても、ルシファーは嫌な顔ひとつせず笑顔で応じる。頬ずりして、白い頬にキスをした。
「これ、よくできてる」
覗き込んで魔法陣を解析したルキフェルが呟くと、興味を持ったベールも横から魔法陣を読み解く。クローゼット前の絨毯の上に描かれた魔法陣の上に衣服を置くと、浄化してから指定した場所に整頓される仕組みだった。
「この上に、人が乗ったらどうなるんだろう」
禁止事項の文字を読んだルキフェルが首をかしげる。洋服やアクセサリーを分類する魔法文字はあるが、生き物が乗った場合の記載がない。つまりどうなるか試さないとわからないという意味だった。
「乗せてみましょう」
用意された紅茶を飲むベルゼビュートに、ベールが手招きする。
「あら、なに?」
「こちらへ……」
珍しく手を差し伸べるベールに応じたベルゼビュートが、ぽんと魔法陣の上に乗せられた。魔法陣が発動する魔力の供給源は、乗せた服などに残留する微量な魔力だ。しかし魔力の塊である魔族を乗せたらどうなるか。純粋な興味を浮かべた水色の瞳が見守る中、ベルゼビュートに浄化がかけられた。
きらきらと魔法陣が光り、過剰供給となった魔力を周囲に放出する。
「ん? 何を……っ」
派手な光に振り向いたルシファーが咄嗟に結界を強化する。ヤンを含めて張った結界に、ちゃっかりアスタロトも便乗していた。吸血種族である彼にとって、浄化関係の魔法は相性が悪い。
「きゃ……えぇ!?」
ベルゼビュートの衣装がほどけて消滅し、全裸の豊満な肉体が残された。ピンクの巻き毛はストレートに戻り、化粧もすべて消えてすっぴんだ。
「……なんだぁ。残念」
何が起きると期待したのか。がっかりした様子のルキフェルの頭を撫でながら「地味な効果でした」とベールが慰める。
「とりあえずこちらをどうぞ」
早く隠せと言わんばかりの態度で、アスタロトが長い裾のローブをベルゼビュートの上から被せた。首をすぽんと出したベルゼビュートが真っ赤な顔で怒りだす。
「何の実験よ! もし髪の毛とか消えてたらどうしてくれるの?」
「治癒すれば平気でしょう。騒がしいですよ」
ルキフェルの好奇心を満たすためには容赦しない男ベールの言葉に、ルシファーが「さすがに酷い」と呟いた。足元の魔法陣は無事残されているが、とりあえず撤去することにする。
間違えてハイハイしたリリスが上に乗ると事件だからだ。万が一部屋の中ですっぽんぽんになったら……まあ、それはそれでいい。自分だけなら問題ないが、侍従や側近がリリスの裸体を拝む可能性がある以上、危険な魔法陣は残せなかった。
便利なので今後も使う予定の魔法陣だったが、ルキフェルの実験で危険が証明された。尊い犠牲となったベルゼビュートに手を合わせ、ルシファーが足元のヤンに目を止める。
「純粋な好奇心なんだが……ヤンを乗せるとどうなると思う?」
「わ、我が君。我が命と忠誠は捧げておりますが、毛皮は……毛皮だけは」
がくがくぶるぶる震える小型フェンリルの耳を撫でながら、ルシファーは「やらないぞ、危険だからな」と優しく声をかけた。浮かんだ興味は一瞬だが、確かに毛皮がはがされる可能性も考慮すべきだろう。
この片づけ魔法陣は便利な発明だが、人体への危険を避けるために封印すべきだ。魔王と側近達の判断により、数年を経て別件で必要とされるまで――魔法陣は役立たずの烙印を押されて封印されるはめとなった。
好奇心は猫ではなく竜や狼を殺すか……定かではない。
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