354 / 1,397
26章 禁じられた魔術
351. 黒幕の尻尾を掴む
しおりを挟む
※多少の残酷表現があります。
***************************************
「なんという有様、ルキフェルが嘆くでしょうね」
自領に建てられた不審な小屋は、大炎上中だった。地下室もある立派な研究室が、松明のように燃えている。転移した先で燃える建物に、とりあえず消火を試みることにした。結界で炎ごと包み込んで、燃焼が収まるのを待つ。
燃焼に必要な風と酸素を断たれた結界内は炎が消え、黒炭と化した哀れな残骸をさらけだした。
「証拠品の押収を命じたあの方に、なんとお詫びすればいいやら……ねえ、そうは思いませんか?」
嘆いたアスタロトは左側の茂みに目を向けて、答えを促す。がさりと草が揺れて白衣の男3人が飛び出した。同時にアスタロトへ鋭い氷片が向けられる。先端が尖った氷はひとつが成人男性の腕程もあり、無数に降り注いだ。
「やったぞ!」
「よし!」
風を操って複雑な軌道を描いた氷片は、立ち尽くすアスタロトの頭上や左右から死角を狙うように叩きつける。勝利を確信した白衣の男が叫び、隣の男も同様に勝利の予感に声をあげた。
ザシュ、ザン、ダダン! 激しい音でアスタロトの周囲が土煙に覆われる。
「せっかくだ、寿命不明の吸血鬼でキマイラを作ろう」
眼鏡をした男が提案すると、研究者らしき3人は大いに盛り上がった。土煙が薄くなった現場に人影はなく、肉片となったであろうアスタロトを回収するために近づく。
大量の血が残る現場で、彼らは大喜びで試験管やピンセットを取り出した。摘まんだ肉片を大切そうにパックしてしまい込み、まだ湯気の出る血をかき集める。互いに赤く濡れた手で笑い合った後ろから、笑いを含んだ声がかけられた。
「この程度の攻撃で、魔王の側近を害せると――本気で思う魔族がいることに驚きましたよ。魔物と私の区別がつかない研究者ですから、仕方ないのでしょうけど」
淡い金髪を風に揺らした吸血鬼王は、びくりと肩を揺らして動きを止めた3人に微笑みかけた。一番手前の眼鏡の男の首を掴み、無造作に持ち上げる。左腕一本で釣り上げた男の怯えた顔に、穏やかな表情で優しく響く声が告げた。
「……私はあまり血が好きではないのです」
だから困ったと嘯きながら、掴んだ男の首を斬りおとす。長い爪を武器にして簡単に行われた殺しに、残る2人は赤い血を浴びながら悲鳴を上げた。頸動脈から吹きだした血で真っ赤に染まった白衣で、地面に頭をこすりつける。
「ひっ、わ、悪かった」
「命令されて、だから……っ」
命乞いを聞き流しながら、男の首を掴んでいた手を緩める。びくびくと痙攣した身体が地面に落ちて、重たい音を立てた。長い右手の爪についた血をぺろりと舌先で味わい、アスタロトは一瞬複雑そうな顔をする。
吸血種族である彼が血液から得る情報は多種多様で、殺した男の種族や年齢、魔力量に至るまで流れ込んできた。情報を取捨選択しながら、足元で這いつくばって喚く2人の処遇に迷う。証人は不要だと言われたが、それは証拠品の回収が最優先だったからだ。
燃やされた証拠を復元するには大量の血液と魔力が必要だった。使える魔術の中からいくつか候補を思い浮かべ、アスタロトはもっとも簡単で残忍な方法を選ぶ。
「燃えた証拠品に関して、あなた方に責任を取っていただきましょうか」
こくこくと頷いた2人は知らない。アスタロトにとって都合よく、証拠品を復活させて証人を処分する残酷な魔術が存在することを――復元魔術用の魔法陣が足元に浮かび、とっさに読み解こうとした彼らを包んだ。
「失敗しないといいのですが」
炭となった証拠品の上に吊られた彼らの身が無残に千切られる。滴る血が触れた場所から建物が、証拠となる書物が、研究材料が復元された。必要な物のみを復元させたところで、呻いている2人を処分する。魔法陣が搾り取る血を一部掬って舌に乗せ、先ほど読み取った情報との照合を行った。
黒幕へ続く尻尾の先を掴まえた。これをトカゲの尻尾切りで逃げられるわけにいかない。
「……これは面倒な騒動になりそうですよ、陛下」
呟いた言葉と正反対に、アスタロトの口元は弧を描いていた。
***************************************
「なんという有様、ルキフェルが嘆くでしょうね」
自領に建てられた不審な小屋は、大炎上中だった。地下室もある立派な研究室が、松明のように燃えている。転移した先で燃える建物に、とりあえず消火を試みることにした。結界で炎ごと包み込んで、燃焼が収まるのを待つ。
燃焼に必要な風と酸素を断たれた結界内は炎が消え、黒炭と化した哀れな残骸をさらけだした。
「証拠品の押収を命じたあの方に、なんとお詫びすればいいやら……ねえ、そうは思いませんか?」
嘆いたアスタロトは左側の茂みに目を向けて、答えを促す。がさりと草が揺れて白衣の男3人が飛び出した。同時にアスタロトへ鋭い氷片が向けられる。先端が尖った氷はひとつが成人男性の腕程もあり、無数に降り注いだ。
「やったぞ!」
「よし!」
風を操って複雑な軌道を描いた氷片は、立ち尽くすアスタロトの頭上や左右から死角を狙うように叩きつける。勝利を確信した白衣の男が叫び、隣の男も同様に勝利の予感に声をあげた。
ザシュ、ザン、ダダン! 激しい音でアスタロトの周囲が土煙に覆われる。
「せっかくだ、寿命不明の吸血鬼でキマイラを作ろう」
眼鏡をした男が提案すると、研究者らしき3人は大いに盛り上がった。土煙が薄くなった現場に人影はなく、肉片となったであろうアスタロトを回収するために近づく。
大量の血が残る現場で、彼らは大喜びで試験管やピンセットを取り出した。摘まんだ肉片を大切そうにパックしてしまい込み、まだ湯気の出る血をかき集める。互いに赤く濡れた手で笑い合った後ろから、笑いを含んだ声がかけられた。
「この程度の攻撃で、魔王の側近を害せると――本気で思う魔族がいることに驚きましたよ。魔物と私の区別がつかない研究者ですから、仕方ないのでしょうけど」
淡い金髪を風に揺らした吸血鬼王は、びくりと肩を揺らして動きを止めた3人に微笑みかけた。一番手前の眼鏡の男の首を掴み、無造作に持ち上げる。左腕一本で釣り上げた男の怯えた顔に、穏やかな表情で優しく響く声が告げた。
「……私はあまり血が好きではないのです」
だから困ったと嘯きながら、掴んだ男の首を斬りおとす。長い爪を武器にして簡単に行われた殺しに、残る2人は赤い血を浴びながら悲鳴を上げた。頸動脈から吹きだした血で真っ赤に染まった白衣で、地面に頭をこすりつける。
「ひっ、わ、悪かった」
「命令されて、だから……っ」
命乞いを聞き流しながら、男の首を掴んでいた手を緩める。びくびくと痙攣した身体が地面に落ちて、重たい音を立てた。長い右手の爪についた血をぺろりと舌先で味わい、アスタロトは一瞬複雑そうな顔をする。
吸血種族である彼が血液から得る情報は多種多様で、殺した男の種族や年齢、魔力量に至るまで流れ込んできた。情報を取捨選択しながら、足元で這いつくばって喚く2人の処遇に迷う。証人は不要だと言われたが、それは証拠品の回収が最優先だったからだ。
燃やされた証拠を復元するには大量の血液と魔力が必要だった。使える魔術の中からいくつか候補を思い浮かべ、アスタロトはもっとも簡単で残忍な方法を選ぶ。
「燃えた証拠品に関して、あなた方に責任を取っていただきましょうか」
こくこくと頷いた2人は知らない。アスタロトにとって都合よく、証拠品を復活させて証人を処分する残酷な魔術が存在することを――復元魔術用の魔法陣が足元に浮かび、とっさに読み解こうとした彼らを包んだ。
「失敗しないといいのですが」
炭となった証拠品の上に吊られた彼らの身が無残に千切られる。滴る血が触れた場所から建物が、証拠となる書物が、研究材料が復元された。必要な物のみを復元させたところで、呻いている2人を処分する。魔法陣が搾り取る血を一部掬って舌に乗せ、先ほど読み取った情報との照合を行った。
黒幕へ続く尻尾の先を掴まえた。これをトカゲの尻尾切りで逃げられるわけにいかない。
「……これは面倒な騒動になりそうですよ、陛下」
呟いた言葉と正反対に、アスタロトの口元は弧を描いていた。
23
お気に入りに追加
4,927
あなたにおすすめの小説
呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。
光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。
ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…!
8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。
同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。
実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。
恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。
自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。
勇者がアレなので小悪党なおじさんが女に転生されられました
ぽとりひょん
ファンタジー
熱中症で死んだ俺は、勇者が召喚される16年前へ転生させられる。16年で宮廷魔法士になって、アレな勇者を導かなくてはならない。俺はチートスキルを隠して魔法士に成り上がって行く。勇者が召喚されたら、魔法士としてパーティーに入り彼を導き魔王を倒すのだ。
「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった
今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。
しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。
それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。
一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。
しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。
加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。
レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。
【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~
大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア
8さいの時、急に現れた義母に義姉。
あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。
侯爵家の娘なのに、使用人扱い。
お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。
義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする……
このままじゃ先の人生詰んでる。
私には
前世では25歳まで生きてた記憶がある!
義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから!
義母達にスカッとざまぁしたり
冒険の旅に出たり
主人公が妖精の愛し子だったり。
竜王の番だったり。
色々な無自覚チート能力発揮します。
竜王様との溺愛は後半第二章からになります。
※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。
※後半イチャイチャ多めです♡
※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる