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26章 禁じられた魔術
338. 疲れたし休もうか
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「あの子は悪い子じゃないわ。でも、キマイラになった子は狂ってしまうでしょう?」
確かにキマイラは多数の生き物を複合したせいか、脳を担当する頭の魔物や魔獣以外の意思も残ってしまう。ひとつの身体を複数の意思が動かそうとすれば矛盾が生じ、いずれは脳が処理しきれなくなった情報で壊れるのだ。
いずれ狂うなら、まだ理性が残っている間に殺してあげたい。それがリリスの行動の原点だった。そこにルーシアが持ち込んだ辺境伯令嬢の事件が重なり、両方を同時に片づけるために作戦を練った。
最初に案を提示したのはルーサルカだ。リリスが口にした「魔力に集まる特性」を利用するために、囮作戦を思いついたのがレライエで、貴族階級や仕組みに詳しい侯爵令嬢たるルーシアが「貴族が集まるなら辺境伯令嬢の件も一緒に」と提案した。
全員の意見を纏めたリリスが起案した作戦をもとに、側近少女達が穴埋めをする。互いの得意な分野を生かした役割分担を終えた彼女らは、最後の楔をリリスに託した。
それが「舞踏会の開催」なのだ。魔の森で一番大きな龍脈の上に、膨大な魔力を持つ存在を一堂に集めるための施策だった。
「リリスは優しいな。救われたキマイラは感謝しただろう。でも……」
「わかってる。パパやアシュタ達に心配をかけるって、理解しているわ」
紅茶を一口だけ飲んで、リリスはカップをテーブルに戻した。少し拗ねたような口調でルシファーの言葉を遮り、後ろに寄り掛かって足を揺らす。幼い頃から見せていた仕草に、ルシファーの口元が緩んだ。
褒めてもらえて嬉しいけれど、叱られることが分かっている時に見せた表情だった。退屈な時もよく足を揺すって膝の上に座っていたが、わずか数年前なのに懐かしく思う。長い寿命からすれば瞬きほどの短い時間なのに、すごく濃密な時間だった。
リリスが居なかった頃が霞んでしまうほど。
「次からはオレに相談して欲しい。反対しないと約束しよう」
どんなに危険な作戦や行動でも、リリスが望むなら邪魔はしない。ただ……自分が知らない場所でケガをしたり、命の危険を冒すのが怖かった。もし今のルシファーがリリスを喪ったら、考えるのも恐ろしい事態になるだろう。
同様の考えに至ったアスタロトとベールが溜め息をつき、ルキフェルは複雑そうに肩を竦めた。少女達の行動を称賛するベルゼビュートも、リリスを心配する気持ちは変わらない。
「……わかったわ、パパ。次から相談する」
むすっとした声だが、リリスも納得したらしい。反対しないという約束が嬉しかった。尊重してくれているのだ。魔王妃となるリリスの意思を封じ込めることなく、したいように行動させてくれる。
「しかし、見事過ぎて私の立場がありませんね」
苦笑いしたアスタロトの呟きに、ベールも同意する。
「たしかに……魔王の側近である我らより優秀です」
「あら、嬉しいこと。その言葉は私の大切なお友達に向けてあげて。彼女らの情報網やアイディアがなければ、何も出来なかったんだから」
笑いながら扇を広げて口元を隠すリリスの言葉に、ルーサルカ達は恥ずかしそうに頬を染めた。その仲の良い様子に、アスタロト達はほっとする。
「そうですね、本当に見事でした」
「「「「あ、ありがとうございます」」」」
お礼を言った4人と合わせるように、入り口を守るイポスも黙礼した。
「ここから先は大人の仕事です。我々に任せていただけますか? リリス姫」
ベールの要請に、意外にもリリスは素直に頷いた。あのキマイラを作った者を見つけ出さなくてはならない。禁術を使った者を捕らえて罰を下すのが、魔王の側近としての役割だった。
「レライエ嬢、ルーサルカ嬢、シトリー嬢、ルーシア嬢は明日の朝に改めて話を聞かせていただきます」
残った処理は、魔王の側近であり軍や行政を管轄するアスタロト達の領分だ。時間が遅いこともあり、少女達は挨拶をして自室へ戻った。膝の上でお座りしたまま手を振るリリスが、ひとつ欠伸をする。
「疲れただろう、リリス。もう休もうか」
ルシファーの宣言でお開きとなり、全員が立ち上がった。アスタロト達が頭を下げて見送る中、ルシファーは執務室から自室へと歩き出す――その腕にリリスを抱きしめたまま。
「陛下……いえ、ルシファー様。そのままお部屋に?」
「何か問題が?」
逆に問い返され、腕に抱き締められたリリスもきょとんと首をかしげる。この親子は……本当に周囲への配慮と自分の立場を理解しない。そうぼやくアスタロトを残し、リリスの頬にキスをしたルシファーは結局彼女を抱いて廊下へ出ていった。
「こういう方ですわ」
ベルゼビュートの慰めにならない言葉が、執務室で頭を抱える側近達の上に降り注いだ。
確かにキマイラは多数の生き物を複合したせいか、脳を担当する頭の魔物や魔獣以外の意思も残ってしまう。ひとつの身体を複数の意思が動かそうとすれば矛盾が生じ、いずれは脳が処理しきれなくなった情報で壊れるのだ。
いずれ狂うなら、まだ理性が残っている間に殺してあげたい。それがリリスの行動の原点だった。そこにルーシアが持ち込んだ辺境伯令嬢の事件が重なり、両方を同時に片づけるために作戦を練った。
最初に案を提示したのはルーサルカだ。リリスが口にした「魔力に集まる特性」を利用するために、囮作戦を思いついたのがレライエで、貴族階級や仕組みに詳しい侯爵令嬢たるルーシアが「貴族が集まるなら辺境伯令嬢の件も一緒に」と提案した。
全員の意見を纏めたリリスが起案した作戦をもとに、側近少女達が穴埋めをする。互いの得意な分野を生かした役割分担を終えた彼女らは、最後の楔をリリスに託した。
それが「舞踏会の開催」なのだ。魔の森で一番大きな龍脈の上に、膨大な魔力を持つ存在を一堂に集めるための施策だった。
「リリスは優しいな。救われたキマイラは感謝しただろう。でも……」
「わかってる。パパやアシュタ達に心配をかけるって、理解しているわ」
紅茶を一口だけ飲んで、リリスはカップをテーブルに戻した。少し拗ねたような口調でルシファーの言葉を遮り、後ろに寄り掛かって足を揺らす。幼い頃から見せていた仕草に、ルシファーの口元が緩んだ。
褒めてもらえて嬉しいけれど、叱られることが分かっている時に見せた表情だった。退屈な時もよく足を揺すって膝の上に座っていたが、わずか数年前なのに懐かしく思う。長い寿命からすれば瞬きほどの短い時間なのに、すごく濃密な時間だった。
リリスが居なかった頃が霞んでしまうほど。
「次からはオレに相談して欲しい。反対しないと約束しよう」
どんなに危険な作戦や行動でも、リリスが望むなら邪魔はしない。ただ……自分が知らない場所でケガをしたり、命の危険を冒すのが怖かった。もし今のルシファーがリリスを喪ったら、考えるのも恐ろしい事態になるだろう。
同様の考えに至ったアスタロトとベールが溜め息をつき、ルキフェルは複雑そうに肩を竦めた。少女達の行動を称賛するベルゼビュートも、リリスを心配する気持ちは変わらない。
「……わかったわ、パパ。次から相談する」
むすっとした声だが、リリスも納得したらしい。反対しないという約束が嬉しかった。尊重してくれているのだ。魔王妃となるリリスの意思を封じ込めることなく、したいように行動させてくれる。
「しかし、見事過ぎて私の立場がありませんね」
苦笑いしたアスタロトの呟きに、ベールも同意する。
「たしかに……魔王の側近である我らより優秀です」
「あら、嬉しいこと。その言葉は私の大切なお友達に向けてあげて。彼女らの情報網やアイディアがなければ、何も出来なかったんだから」
笑いながら扇を広げて口元を隠すリリスの言葉に、ルーサルカ達は恥ずかしそうに頬を染めた。その仲の良い様子に、アスタロト達はほっとする。
「そうですね、本当に見事でした」
「「「「あ、ありがとうございます」」」」
お礼を言った4人と合わせるように、入り口を守るイポスも黙礼した。
「ここから先は大人の仕事です。我々に任せていただけますか? リリス姫」
ベールの要請に、意外にもリリスは素直に頷いた。あのキマイラを作った者を見つけ出さなくてはならない。禁術を使った者を捕らえて罰を下すのが、魔王の側近としての役割だった。
「レライエ嬢、ルーサルカ嬢、シトリー嬢、ルーシア嬢は明日の朝に改めて話を聞かせていただきます」
残った処理は、魔王の側近であり軍や行政を管轄するアスタロト達の領分だ。時間が遅いこともあり、少女達は挨拶をして自室へ戻った。膝の上でお座りしたまま手を振るリリスが、ひとつ欠伸をする。
「疲れただろう、リリス。もう休もうか」
ルシファーの宣言でお開きとなり、全員が立ち上がった。アスタロト達が頭を下げて見送る中、ルシファーは執務室から自室へと歩き出す――その腕にリリスを抱きしめたまま。
「陛下……いえ、ルシファー様。そのままお部屋に?」
「何か問題が?」
逆に問い返され、腕に抱き締められたリリスもきょとんと首をかしげる。この親子は……本当に周囲への配慮と自分の立場を理解しない。そうぼやくアスタロトを残し、リリスの頬にキスをしたルシファーは結局彼女を抱いて廊下へ出ていった。
「こういう方ですわ」
ベルゼビュートの慰めにならない言葉が、執務室で頭を抱える側近達の上に降り注いだ。
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