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23章 魔王の逆鱗を引っぺがす暴挙
296. 吸血王による教会制圧
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※多少の残酷表現があります。
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わっと湧き上がる魔王軍や魔獣の声が大地を揺るがす。驚いた月が光を地上に降らせた。リリスは大きな声に驚いて周囲を見回している。その黒髪を撫で、戦闘態勢を整える配下に声をかけた。
「王城は余の獲物だ、イポス、ヤンは共をせよ。先鋒は魔王軍第一師団、ベールの指揮下にて貴族から抑える。ベルゼビュートは魔獣や義勇兵を連れ、城門や塀を外から破壊しろ。アスタロト、教会を潰せ」
もっとも嫌な役を割り当てられたというのに、アスタロトは口元を歪めて牙を覗かせた。笑みより獰猛な表情は、彼の性質を如実に表すものだ。教会のもつ聖水やその製法を手に入れるには、アスタロトがもっとも適している。
人族の恐怖を煽り、彼らを殺さずに拷問する術において右に出る者はいなかった。また聖水自体が魔族に直接の害を与えることはほぼないが、臭いに敏感な他種族では攻撃に支障がでる。ならば呼吸を止められる上で戦闘能力が高いアスタロトが一番向いていた。
ましてや魔王は「潰せ」と命じたのだ。それは生者なき地を作る許可でもあった。二度と愚かな考えで魔王に逆らわぬよう、奴らを引き裂く。後世まで語り継がれるような惨状を作り出し、聖女だの勇者もどきを生むことがないよう……恐怖を沁み込ませてやろう。
「畏まりました。必ずや陛下の満足される成果をこの手に」
膝をついて衣の端に接吻けると、すぐに転移で街中に移動する。やたらと金のかかった建物の前で、アスタロトはコウモリの翼を見せつけるように広げた。
まだ宵の口、街は多くの人族が行きかっていた。その街中に突如現れた魔法陣と魔族の姿に、人々は悲鳴をあげて教会に逃げ込む。
ここ数千年で勢力を拡大した教会の権威は、魔族に対抗する魔術の発展と聖水の威力で増していた。教会ならば魔族を倒して守ってくれる、それが人族の心の縁でもある。勇者を選定し、聖女を戴く教会の中で、溢れかえる人族が祈りを捧げた。
コウモリの羽をもち、頭に2本の角をもつ美貌の吸血鬼王は、荘厳さを纏う大きな扉に手をかける。中に転移することなど造作もないが、恐怖心を煽る目的で音を立てて扉を開いた。怯えた顔で見上げる連中のざわめきが、ひどく心地よい。
魔王を軽んじる種族など滅びればいい――そんな本音が口元に笑みを浮かべさせた。牙を見せつけるように口角を持ち上げて笑ったアスタロトへ、上から聖水が降りかけられる。魔術による簡単な浮遊を知っていたくせに、わざと被る男は水を滴らせた金髪をかき上げた。
魔物は本能的に恐怖を感じれば平伏して逆らわない。魔族は無謀に向かってくることがあっても、負ければ素直に従う。しかし人族だけは違った。何度恐怖を教えても、数世代経つと消えてしまう。わずか数百年の間に記憶を消して、都合よく歴史を解釈する。愚かで、どこまでも邪魔な種族だ。
見せしめとして、教会をもらったのは正解だった。
手前で十字架を振りかざす聖職者の首を、右手に呼び出した剣で斬りおとす。転がった首を蹴飛ばし、十字架を踏みつけた。足元が赤く濡れる。先日の魔法陣がなければ、魔法を封じる魔術は作動しないらしい。聖水を飲んだ人の血であっても、結界程度しか封じられなければ価値がなかった。
なぜなら初見ならばともかく、魔族はすでに対策を行っている。己の足元に結界を張っていれば踏んでも効果はないと証明された魔術など、何の脅威でもなかった。アスタロト程の強者ならば、結界などなくとも人族に後れを取る懸念もない。
「聖水、か?」
効果がないと示すため浴びた水を滴らせ、数歩進む。邪魔な人族を数人切り殺し、足元に倒れた死体を踏みしだいて進んだ。
「火で焼くか、水で溺れるか、いっそ風で切り裂く? 死に方くらい選ばせてやろう」
ひどく気分がよかった。かつて魔王と対峙した頃の高揚感に似た、どこか懐かしい感情が呼び起こされる。剣を振りかざす男を切り捨て、逃げようとする女をつぶし、片隅で震える子供を引き裂いた。剣も手も血で真っ赤に彩られるまで……。
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わっと湧き上がる魔王軍や魔獣の声が大地を揺るがす。驚いた月が光を地上に降らせた。リリスは大きな声に驚いて周囲を見回している。その黒髪を撫で、戦闘態勢を整える配下に声をかけた。
「王城は余の獲物だ、イポス、ヤンは共をせよ。先鋒は魔王軍第一師団、ベールの指揮下にて貴族から抑える。ベルゼビュートは魔獣や義勇兵を連れ、城門や塀を外から破壊しろ。アスタロト、教会を潰せ」
もっとも嫌な役を割り当てられたというのに、アスタロトは口元を歪めて牙を覗かせた。笑みより獰猛な表情は、彼の性質を如実に表すものだ。教会のもつ聖水やその製法を手に入れるには、アスタロトがもっとも適している。
人族の恐怖を煽り、彼らを殺さずに拷問する術において右に出る者はいなかった。また聖水自体が魔族に直接の害を与えることはほぼないが、臭いに敏感な他種族では攻撃に支障がでる。ならば呼吸を止められる上で戦闘能力が高いアスタロトが一番向いていた。
ましてや魔王は「潰せ」と命じたのだ。それは生者なき地を作る許可でもあった。二度と愚かな考えで魔王に逆らわぬよう、奴らを引き裂く。後世まで語り継がれるような惨状を作り出し、聖女だの勇者もどきを生むことがないよう……恐怖を沁み込ませてやろう。
「畏まりました。必ずや陛下の満足される成果をこの手に」
膝をついて衣の端に接吻けると、すぐに転移で街中に移動する。やたらと金のかかった建物の前で、アスタロトはコウモリの翼を見せつけるように広げた。
まだ宵の口、街は多くの人族が行きかっていた。その街中に突如現れた魔法陣と魔族の姿に、人々は悲鳴をあげて教会に逃げ込む。
ここ数千年で勢力を拡大した教会の権威は、魔族に対抗する魔術の発展と聖水の威力で増していた。教会ならば魔族を倒して守ってくれる、それが人族の心の縁でもある。勇者を選定し、聖女を戴く教会の中で、溢れかえる人族が祈りを捧げた。
コウモリの羽をもち、頭に2本の角をもつ美貌の吸血鬼王は、荘厳さを纏う大きな扉に手をかける。中に転移することなど造作もないが、恐怖心を煽る目的で音を立てて扉を開いた。怯えた顔で見上げる連中のざわめきが、ひどく心地よい。
魔王を軽んじる種族など滅びればいい――そんな本音が口元に笑みを浮かべさせた。牙を見せつけるように口角を持ち上げて笑ったアスタロトへ、上から聖水が降りかけられる。魔術による簡単な浮遊を知っていたくせに、わざと被る男は水を滴らせた金髪をかき上げた。
魔物は本能的に恐怖を感じれば平伏して逆らわない。魔族は無謀に向かってくることがあっても、負ければ素直に従う。しかし人族だけは違った。何度恐怖を教えても、数世代経つと消えてしまう。わずか数百年の間に記憶を消して、都合よく歴史を解釈する。愚かで、どこまでも邪魔な種族だ。
見せしめとして、教会をもらったのは正解だった。
手前で十字架を振りかざす聖職者の首を、右手に呼び出した剣で斬りおとす。転がった首を蹴飛ばし、十字架を踏みつけた。足元が赤く濡れる。先日の魔法陣がなければ、魔法を封じる魔術は作動しないらしい。聖水を飲んだ人の血であっても、結界程度しか封じられなければ価値がなかった。
なぜなら初見ならばともかく、魔族はすでに対策を行っている。己の足元に結界を張っていれば踏んでも効果はないと証明された魔術など、何の脅威でもなかった。アスタロト程の強者ならば、結界などなくとも人族に後れを取る懸念もない。
「聖水、か?」
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