276 / 1,397
22章 リリス嬢、成長の証
273. 毒でも呪詛でもありませんね
しおりを挟む
「リリスっ!」
真っ赤に染まった何かを、とっさにルシファーは手で受け止めた。毒物なら解析できるかも知れない。そう思ったが、血で濡れた飴が砕けたものらしい。一応保管しておく。
「うぁああ、パパぁ……痛いっ……痛いよぉ」
泣き続けるリリスの痛みの原因がわからないため、治癒魔法陣を使ってもいいのか迷う。人族の兵士達の駆除が終わったこともあり、急いで魔力と翼で城門まで戻った。
「陛下、すぐに浄化します」
踏んでしまった人族の血が影響した可能性もあるので、城門の上で待つベールへ浄化の魔法陣を作って渡す。そのまま発動できそうだが、呪詛がどう影響するかわからない状況で、不確定な方法を試す気はなかった。
腕の中で痛みに泣いているのは、最愛のリリスなのだ。危険は少しでも遠ざけておきたい。
飛んで舞い降りたベルゼビュートごと、まとめて浄化魔法陣に包まれた。きらきらと銀色の光が舞う様子は、リリスが好きな光景だ。しかし泣いているリリスは、顔をルシファーの首筋に埋めてしゃくりあげていた。
背中をさすって落ち着かせながら、浄化が終わった服を念のために指パッチンで着替えた。リリスが吐いた血も綺麗に消える。これで呪詛の要素は残っていないだろう。急いでリリスを抱いた自分の足元に治癒魔法陣を出現させた。
「リリス、もう痛くないか?」
「……うん」
頷くリリスはまだ泣きじゃくった影響で頬が濡れている。しゃくり上げたリリスが、指を口元に持っていった。そのまま中に入れようとするので、止める。
「どうした? 何かあるのか?」
「変なのがある」
「ここへ出して」
真っ白に戻った手を見せて促すと、涙目のリリスがぺっと口の中の異物を吐き出す。受け止めたそれは、何やら白い塊だった。
「呪詛の気配はないですが……呪物か聖遺物でしょうか」
呪詛を最初に研究したアスタロトが覗き込む。人族の呪詛は奥が深い。魔族にはない感情を元に作られるため、知らない情報も多かった。
しかし彼は、呪物と呼ばれる魔物の角の欠片を使った呪詛や、聖遺物と称する勇者の骨を使った儀式を書物に纏めている。以前に見たどちらかの可能性が高いと記憶をたどりながら、アスタロトは手を伸ばした。
「触れますよ」
「ちょっとまて」
念のためにリリスの上に結界を重ね掛けする。厳重に10枚張ったところでようやく許可を出した。アスタロトの白い指がそっと摘まみ上げ、指先で血を拭う。出てきたのは小さな歯だった。
「……陛下、リリス嬢が最初に吐いた物を保管されましたか?」
「もちろんだ」
真っ赤な血の球体を収納から取り出して示すと、無造作にアスタロトが指を入れてかき回して、中の飴の欠片を引きだす。飴は舐めて小さくなった丸い形状ではなく、鋭い断面がある状態だった。
「どんな毒だ?!」
「毒ではありません」
「呪詛か?!」
「それも違います」
取り出した綺麗なハンカチに白い歯を乗せて、ルシファーの手に握らせた。
「歯が、生え変わる時期のようですね」
「はぁ?」
「はい、歯です。おそらく飴を噛んだ衝撃で歯が抜けたんでしょう」
「パパぁ、ここスースーする」
説明中のアスタロトを遮ったリリスが、あーんと口を開けて見せる。治癒魔法のおかげで、歯が抜けた傷口は癒されており、痛くもないらしい。しかし下の前歯が1本たりなかった。
確かに歯が抜けただけのようだ。ほっとしてへたり込みそうなルシファーに、苦笑いしたアスタロトも何も言えない。正直、タイミングが悪かっただけに呪詛の影響と決めつけていたのだ。
「あら、下の歯は屋根の上に投げるのよね」
ベルゼビュートが覗き込んで、にこにこと歯を指さした。
「保存する予定だが……」
永久保存決定のルシファーが渋い顔で呟くと、ベルゼビュートが記憶を辿りながら説明を始めた。
「どこかの種族の風習で、上の歯が抜けたら床下へ、下の歯が抜けたら屋根の上に放ると、綺麗ないい歯が生えるんですって」
それは投げるしかない。リリスの歯は永久保存したいが、投げずに曲がった歯が生えるなんて許せない。ぎりぎり歯ぎしりしながら葛藤する主君の様子に、アスタロトがこっそり耳打ちした。
「簡単ですよ。一度投げてから回収して保存すればいいんです」
「さすがは知略のアスタロトだ! よし、その案を採用だ!!」
城門で不安そうに見ていたベールは溜め息をついて頭を抱え、近くで騒いでいた子供達は手を振るリリスに全力で手を振り返した。
真っ赤に染まった何かを、とっさにルシファーは手で受け止めた。毒物なら解析できるかも知れない。そう思ったが、血で濡れた飴が砕けたものらしい。一応保管しておく。
「うぁああ、パパぁ……痛いっ……痛いよぉ」
泣き続けるリリスの痛みの原因がわからないため、治癒魔法陣を使ってもいいのか迷う。人族の兵士達の駆除が終わったこともあり、急いで魔力と翼で城門まで戻った。
「陛下、すぐに浄化します」
踏んでしまった人族の血が影響した可能性もあるので、城門の上で待つベールへ浄化の魔法陣を作って渡す。そのまま発動できそうだが、呪詛がどう影響するかわからない状況で、不確定な方法を試す気はなかった。
腕の中で痛みに泣いているのは、最愛のリリスなのだ。危険は少しでも遠ざけておきたい。
飛んで舞い降りたベルゼビュートごと、まとめて浄化魔法陣に包まれた。きらきらと銀色の光が舞う様子は、リリスが好きな光景だ。しかし泣いているリリスは、顔をルシファーの首筋に埋めてしゃくりあげていた。
背中をさすって落ち着かせながら、浄化が終わった服を念のために指パッチンで着替えた。リリスが吐いた血も綺麗に消える。これで呪詛の要素は残っていないだろう。急いでリリスを抱いた自分の足元に治癒魔法陣を出現させた。
「リリス、もう痛くないか?」
「……うん」
頷くリリスはまだ泣きじゃくった影響で頬が濡れている。しゃくり上げたリリスが、指を口元に持っていった。そのまま中に入れようとするので、止める。
「どうした? 何かあるのか?」
「変なのがある」
「ここへ出して」
真っ白に戻った手を見せて促すと、涙目のリリスがぺっと口の中の異物を吐き出す。受け止めたそれは、何やら白い塊だった。
「呪詛の気配はないですが……呪物か聖遺物でしょうか」
呪詛を最初に研究したアスタロトが覗き込む。人族の呪詛は奥が深い。魔族にはない感情を元に作られるため、知らない情報も多かった。
しかし彼は、呪物と呼ばれる魔物の角の欠片を使った呪詛や、聖遺物と称する勇者の骨を使った儀式を書物に纏めている。以前に見たどちらかの可能性が高いと記憶をたどりながら、アスタロトは手を伸ばした。
「触れますよ」
「ちょっとまて」
念のためにリリスの上に結界を重ね掛けする。厳重に10枚張ったところでようやく許可を出した。アスタロトの白い指がそっと摘まみ上げ、指先で血を拭う。出てきたのは小さな歯だった。
「……陛下、リリス嬢が最初に吐いた物を保管されましたか?」
「もちろんだ」
真っ赤な血の球体を収納から取り出して示すと、無造作にアスタロトが指を入れてかき回して、中の飴の欠片を引きだす。飴は舐めて小さくなった丸い形状ではなく、鋭い断面がある状態だった。
「どんな毒だ?!」
「毒ではありません」
「呪詛か?!」
「それも違います」
取り出した綺麗なハンカチに白い歯を乗せて、ルシファーの手に握らせた。
「歯が、生え変わる時期のようですね」
「はぁ?」
「はい、歯です。おそらく飴を噛んだ衝撃で歯が抜けたんでしょう」
「パパぁ、ここスースーする」
説明中のアスタロトを遮ったリリスが、あーんと口を開けて見せる。治癒魔法のおかげで、歯が抜けた傷口は癒されており、痛くもないらしい。しかし下の前歯が1本たりなかった。
確かに歯が抜けただけのようだ。ほっとしてへたり込みそうなルシファーに、苦笑いしたアスタロトも何も言えない。正直、タイミングが悪かっただけに呪詛の影響と決めつけていたのだ。
「あら、下の歯は屋根の上に投げるのよね」
ベルゼビュートが覗き込んで、にこにこと歯を指さした。
「保存する予定だが……」
永久保存決定のルシファーが渋い顔で呟くと、ベルゼビュートが記憶を辿りながら説明を始めた。
「どこかの種族の風習で、上の歯が抜けたら床下へ、下の歯が抜けたら屋根の上に放ると、綺麗ないい歯が生えるんですって」
それは投げるしかない。リリスの歯は永久保存したいが、投げずに曲がった歯が生えるなんて許せない。ぎりぎり歯ぎしりしながら葛藤する主君の様子に、アスタロトがこっそり耳打ちした。
「簡単ですよ。一度投げてから回収して保存すればいいんです」
「さすがは知略のアスタロトだ! よし、その案を採用だ!!」
城門で不安そうに見ていたベールは溜め息をついて頭を抱え、近くで騒いでいた子供達は手を振るリリスに全力で手を振り返した。
23
お気に入りに追加
4,927
あなたにおすすめの小説
【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~
大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア
8さいの時、急に現れた義母に義姉。
あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。
侯爵家の娘なのに、使用人扱い。
お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。
義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする……
このままじゃ先の人生詰んでる。
私には
前世では25歳まで生きてた記憶がある!
義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから!
義母達にスカッとざまぁしたり
冒険の旅に出たり
主人公が妖精の愛し子だったり。
竜王の番だったり。
色々な無自覚チート能力発揮します。
竜王様との溺愛は後半第二章からになります。
※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。
※後半イチャイチャ多めです♡
※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる