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21章 お姫様はお勉強で忙しい

263. お菓子を配りました、パパ以外へ

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 足を引きずったルシファーが渋々歩いた廊下を、何も知らないリリスはスキップで進んでいた。最近上手にスキップが出来るようになり、ルシファーに褒めてもらったのだ。

「リリス様、クッキーが崩れてしまいますわ」

「本当? じゃあスキップやめる」

 無邪気に笑うリリスは知らない。彼女の肩にかかるお気に入りのポシェットは、気配遮断結界の中心だった。リリスを中心に半径5mの範囲にいる魔族の気配や魔力を遮断する魔法陣だ。アスタロトに「御守りですよ」と渡された紙を、リリスは丁寧にたたんで入れていた。

 魔力を封じ込める結界ではなく、感知を阻害するだけの魔法陣なので実害はない。

「外でお仕事している方から配りましょうか」

 アスタロトの共犯であるアデーレは、最後に魔王の執務室を訪ねるつもりである。そのため、外で仕事をするエルフやドワーフから配り始めた。ルーサルカは首をかしげているが、他の少女達は何も思わずついていく。

「おじちゃん! リリスがクッキー焼いたの」

「おお、姫様の手作りか。有り難い! お前ら、お礼を言え」

「「「「ありがとうございます」」」」

 ドワーフ達が一斉に帽子を取って挨拶する。安全強化の一環で帽子を義務付けられた外仕事のドワーフは、順番に並んでクッキーを受け取った。ハンマーやツルハシなどの工具型の焼き菓子は、ジャムが乗せられている。

 それぞれに水筒を取り出してクッキーを味わう彼らは知らなかった。魔王より先に、魔王妃候補の手作りクッキーを口にしたことを。

「次は緑のお姉ちゃん達」

 エルフを目指して、リリスは歩いていく。侍女と手を繋ぎ、4人の側近を引き連れた大名行列の後ろは、護衛のフェンリルとおまけのピヨで締めくくられる。相変わらず調理室に入れてもらえないヤンとピヨだが、廊下からリリスの護衛をしていた。

 ちなみにリリス専属騎士に名乗りを上げたサタナキア公爵令嬢イポスは、魔王城に勤めるための規則や法を詰め込む教育の真っ最中だ。近日ヤン達と合流する予定である。

 ぞろぞろ進む6人と2匹は、エルフ、ゴーレム、荷物を届けに来た仕入れ業者、すれちがった侍女や侍従、城門の衛兵に至るまで配り終えた。ピヨが城門に来たことで、門番の鳳凰が大興奮したのは余談である。まだピヨは番相手に反応しなかった。

「パパのところ行く?」

「先にベール様とルキフェル様のお部屋に行きましょうか」

「ベルゼ姉さんは?」

「城外でお仕事ですから、お留守ですわ」

 いつもながら留守が多いベルゼビュートを除外し、ベールとルキフェルがいる執務室を目指した。研究所とは別に記録業務用の部屋を持つルキフェルだが、お茶の時間はいつもベールの執務室にいる。ノックして待つリリスは、ここ数ヶ月の教育の成果を遺憾なく発揮した。

 返事の前にドアを開ける無作法が減り、ご令嬢らしく振舞えている。それもこれも、お勉強友達である側近との交流が影響していた。

「どうぞ」

 声が返るのを待って扉を開く。見慣れた2人のもとに駆け寄って、籠から取り出したクッキーを渡した。職人さん達の分は小分けに1枚ずつ包んでいたが、こちらは5枚セットを2つ差し出す。包みは青と水色のリボンで飾ってある。

「ありがとうございます。上手に焼けましたね」

「ありがとう。リリスのお菓子は好きだよ」

 2人の褒め言葉と礼に、リリスの頬が緩む。にこにことご機嫌で笑顔を振りまいた。立ち上がったベールが机の引き出しから包みを取り出す。5つ用意された包みは長細かった。

「こちらをどうぞ。私とルキフェルからのお祝いとお礼です」

「ありがとう。開けていい?」

 頷いたベールとルキフェルの前で、リリスが勢いよく包装紙を剥がした。びりびり破いて開けたのは、リリスとルーシアだ。逆に袋を綺麗に上から開けるのはルーサルカ。レライエは開けずに手に持ったままだ。シトリーはなぜか匂いを嗅いでから慎重に開いた。

 個性的な5人の様子を観察しながら、ベールは相性や勉強の方針を検討していた。こういった分析は彼の得意分野だ。勉強の内容や種類によって、組ませる相手を変更すると効果が高まるだろう。

「ペンだ!」

「凄い綺麗なガラスのペンよ」

 大喜びの5人は手を取って歓声を上げる。微笑ましいと見守るアデーレに連れられ、彼女らは最後の部屋に向かった。
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