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21章 お姫様はお勉強で忙しい
261. 正装までして抗議してみたが
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「横暴だ!!」
謁見の大広間に集められた大公達は顔を見合わせた。玉座で怒り狂う主君の珍しい正装姿に、側近アスタロトは平然と切り返す。
「横暴なのは、私の休暇中の陛下ではありませんか」
正論にぐっと声を飲むが、ルシファーにも譲れない戦いがある。絶対に負けられない戦いだが、前哨戦ですでに負けそうだった。こうなる可能性があったから、正装で望んだのだが……。
「きちんと反省していただけば、お返しいたしますよ」
それはそれは良い笑顔で、アスタロトは人質の存在を匂わせる。事情に気付いたベールは「当然ですね」とアスタロトに同調した。ここ数ヶ月、ストッパーが外れた魔王の暴走に振り回された一番の被害者は、魔王軍総指揮官であるベールだ。
竜族の卵事件では、ルキフェルを巻き込んだ暴力事件に発展したため、この際アスタロトに協力するつもりだった。前にアスタロトが饗した大きな卵焼きの正体を理解していないリリスが、無邪気に卵を強請るのは仕方ない。また食べたいくらい美味しかったのだろう。
強請られたルシファーも最初は断ったが、二度目はあっさり手のひらで転がされた。それも「パパじゃ無理なの?」という単純な一言で、竜族の集落へ転移して「卵をください」と頼んだというのだから、どうにもならない。結局ドラゴンの統領であるルキフェルによる仲裁と、多少の慰謝料で手を引いてもらった。
ただでさえ人手が足りなくて忙しい時期に、余計な騒動ばかり起こして歩いていた魔王である。ベールやルキフェルの怒りはもっともだった。ちなみにベルゼビュートは他種族間の調整に動いており、ほとんど魔王城にいなかったので被害を免れている。賭け運は皆無だが、運が悪いわけではなさそうだ。
「余の妃候補だぞ!」
「そうですね、まだ候補ですから……大人しく仕事をしないなら、候補からも外します」
助けを求めるように視線をめぐらせた先で、ベールとルキフェルも呆れ顔で頷く有様。この数ヶ月は騒動の後片付けをして目を離した隙に、また騒動を起こす主の所為で苦労したのだ。このくらいの意趣返しは許されるだろうと、彼らは強気だった。
「リリスがお嫁さんじゃないなら、魔王やめるもん」
威厳ある正装で、ここにきて拗ねてしまった。玉座の上で子供じみた態度で膝を抱える姿に、アスタロトが苦笑いして肩を竦める。段上の主に歩み寄り、絨毯に触れる純白の長い髪を掬い上げた。
圧倒的魔力をもって魔族の頂点に立ったルシファーを、幼い頃から知っているアスタロトは結局のところ彼に甘い。
「顛末書や報告書の騒動を処理し終えたら、すぐにリリス嬢をお返しします。わかりますか? こうしている時間がもったいないでしょう」
幼児に言い聞かせる母親の態度だが、味方がいない状態で拗ねた魔王はじっと動かない。元から地位や財産に固執しないルシファーは、なりたくて魔王になったわけじゃなかった。物や者に執着しない魔王の唯一が、リリスなのだ。
「おやおや……リリス姫もお可哀想に。迎えに行く気がないのですね」
「行く! 迎えに行く!!」
「ならば、しっかりお仕事を片付けましょうね」
言質をとられたルシファーが「ぐぬぬ」と呻くが、諦めて頷いた。あれこれ騒動を起こしてきたせいか、ルシファーの事後処理の能力は非常に高い。正直アスタロトも感心するレベルだが、原因が彼自身なので褒める機会がないのだ。
まるで連行される罪人のように、手を引かれてとぼとぼ退場するルシファーを見送り、ベールとルキフェルが顔を見合わせた。
「ちょうどいいので、我々も休憩にしましょうか」
「うん、リリスがお菓子作るって言ってた」
ルシファーにバレないよう結界に包まれたリリスは、アデーレと一緒に調理場にいた。一時期凝って作りまくったプリンを卒業し、先月から焼き菓子に着手している。側近になった4人も付き添ったはずだ。
彼女らが作る茶菓子を楽しみに、2人は手を繋いで執務室へ向かった。
謁見の大広間に集められた大公達は顔を見合わせた。玉座で怒り狂う主君の珍しい正装姿に、側近アスタロトは平然と切り返す。
「横暴なのは、私の休暇中の陛下ではありませんか」
正論にぐっと声を飲むが、ルシファーにも譲れない戦いがある。絶対に負けられない戦いだが、前哨戦ですでに負けそうだった。こうなる可能性があったから、正装で望んだのだが……。
「きちんと反省していただけば、お返しいたしますよ」
それはそれは良い笑顔で、アスタロトは人質の存在を匂わせる。事情に気付いたベールは「当然ですね」とアスタロトに同調した。ここ数ヶ月、ストッパーが外れた魔王の暴走に振り回された一番の被害者は、魔王軍総指揮官であるベールだ。
竜族の卵事件では、ルキフェルを巻き込んだ暴力事件に発展したため、この際アスタロトに協力するつもりだった。前にアスタロトが饗した大きな卵焼きの正体を理解していないリリスが、無邪気に卵を強請るのは仕方ない。また食べたいくらい美味しかったのだろう。
強請られたルシファーも最初は断ったが、二度目はあっさり手のひらで転がされた。それも「パパじゃ無理なの?」という単純な一言で、竜族の集落へ転移して「卵をください」と頼んだというのだから、どうにもならない。結局ドラゴンの統領であるルキフェルによる仲裁と、多少の慰謝料で手を引いてもらった。
ただでさえ人手が足りなくて忙しい時期に、余計な騒動ばかり起こして歩いていた魔王である。ベールやルキフェルの怒りはもっともだった。ちなみにベルゼビュートは他種族間の調整に動いており、ほとんど魔王城にいなかったので被害を免れている。賭け運は皆無だが、運が悪いわけではなさそうだ。
「余の妃候補だぞ!」
「そうですね、まだ候補ですから……大人しく仕事をしないなら、候補からも外します」
助けを求めるように視線をめぐらせた先で、ベールとルキフェルも呆れ顔で頷く有様。この数ヶ月は騒動の後片付けをして目を離した隙に、また騒動を起こす主の所為で苦労したのだ。このくらいの意趣返しは許されるだろうと、彼らは強気だった。
「リリスがお嫁さんじゃないなら、魔王やめるもん」
威厳ある正装で、ここにきて拗ねてしまった。玉座の上で子供じみた態度で膝を抱える姿に、アスタロトが苦笑いして肩を竦める。段上の主に歩み寄り、絨毯に触れる純白の長い髪を掬い上げた。
圧倒的魔力をもって魔族の頂点に立ったルシファーを、幼い頃から知っているアスタロトは結局のところ彼に甘い。
「顛末書や報告書の騒動を処理し終えたら、すぐにリリス嬢をお返しします。わかりますか? こうしている時間がもったいないでしょう」
幼児に言い聞かせる母親の態度だが、味方がいない状態で拗ねた魔王はじっと動かない。元から地位や財産に固執しないルシファーは、なりたくて魔王になったわけじゃなかった。物や者に執着しない魔王の唯一が、リリスなのだ。
「おやおや……リリス姫もお可哀想に。迎えに行く気がないのですね」
「行く! 迎えに行く!!」
「ならば、しっかりお仕事を片付けましょうね」
言質をとられたルシファーが「ぐぬぬ」と呻くが、諦めて頷いた。あれこれ騒動を起こしてきたせいか、ルシファーの事後処理の能力は非常に高い。正直アスタロトも感心するレベルだが、原因が彼自身なので褒める機会がないのだ。
まるで連行される罪人のように、手を引かれてとぼとぼ退場するルシファーを見送り、ベールとルキフェルが顔を見合わせた。
「ちょうどいいので、我々も休憩にしましょうか」
「うん、リリスがお菓子作るって言ってた」
ルシファーにバレないよう結界に包まれたリリスは、アデーレと一緒に調理場にいた。一時期凝って作りまくったプリンを卒業し、先月から焼き菓子に着手している。側近になった4人も付き添ったはずだ。
彼女らが作る茶菓子を楽しみに、2人は手を繋いで執務室へ向かった。
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