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20章 鬼の居ぬ間に選択
251. 苦労性の側近アスタロト倒れる
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城に入ったところで、ルシファーが振り返った。視察は半分ほどしか消化していないし、リリスの専属騎士イポスの件も決めなくてはならない。長い純白の髪を揺らしたルシファーの視界で、ぐらりと長身の側近が倒れた。
「ところで……っ、アスタロト?!」
咄嗟に受け止めようとして、左腕のリリスに気付いて躊躇う。手を付く気配もなく倒れたアスタロトを、右肩で受けたあと右腕で支えた。勢いを殺すためにアスタロトと一緒に床に座り込む。
「パパ、アシュタはどうしたの?」
「わからない」
座ったルシファーの腕から飛び降りたリリスが、金髪に手を伸ばす。結界を張っているアスタロトの手前で、ぱちんと弾かれた。どうやら魔力の問題ではなさそうだ。
「アスタロト」
アスタロトを横にして、自分は膝をついて覗き込む。苦しそうな様子はなく、眠っているように見えた。穏やかな表情だが、ちょっと眉間の皺が気になる。手を伸ばすと、やはり結界がぱちんと音を立てて接触を拒んだ。
「仕方ない。誰かいるか!」
魔王城の廊下でルシファーが声を上げると、侍従であるベリアルと数人のコボルトが走ってきた。以前のリリスおままごと事件から廊下に敷かれ始めた絨毯のお陰で、足音はない。アスタロトを寝かせた場所も絨毯の上だった。
「いかがなさいました……! アスタロト大公閣下?!」
倒れた人を確認したベリアルが叫ぶ。咄嗟に自分の口をふさいだが、アスタロトは反応しなかった。あり得ない事態に、驚いておろおろし始める。そんな侍従を手招きして、ルシファーがある女性の名を口にした。
「アデーレを呼んでくれ」
「はい!」
リリス専属侍女の名に、コボルトが1人走っていく。見送ったベリアルがすぐ近くの空き部屋の扉を開いた。現在は使用していない部屋だが、元は来客の控え室だった場所だ。幸いにして白い布を被せた家具が残されている。
「陛下、この部屋に運びましょう」
「そうだな」
最初に部屋に飛び込んだリリスが、白い布を捲って下の家具を覗き込む。長椅子や机を次々と確かめるリリスへ「白い布を取ってくれ」とルシファーが声をかけた。
「わかった!」
仕事を頼まれたのが嬉しいらしく、リリスが布を引っ張って部屋を走っていく。するすると家具が露になると、部屋の隅に布を置いて、また別の家具の布を引いた。楽しくなってきたところで、長椅子の上から布が退けられる。
「よし、運ぼう」
振り返ったルシファーの号令に動いたコボルトが、アスタロトを何とか抱き起こして運ぼうと試みる。しかし犬人族は小柄な種族で無理があった。さらにアスタロトの表面に張られた結界が、他者の接触を拒む。
「うわっ」
「どうしよう」
手を触れたら静電気のような痛みが走り、コボルトが困惑して顔を見合わせた。
「オレが運ぼう」
「「え」」
お姫様抱っこを想像した彼らだが、ルシファーはアスタロトを結界で包むと魔力であっさり移動させた。予想が外れてほっとする反面、怖いもの見たさで抱っこ姿も見たかった複雑な思いが過ぎる。そんなコボルトの心境を知らず、ルシファーは器用に長椅子にアスタロトを横たえた。
寝かせるときに頭を長椅子の手すりにぶつけたが、それでも起きる様子がない。
「パパ、アシュタは?」
「まだ起きない。コイツに限って病気はないし……病気の方が逃げそうだもんな」
失礼な発言をしたルシファーだが、表情は心配そうだ。だらりと垂れた腕を身体の上に乗せながら、接触を拒む火花に眉をひそめた。普段ならこんな強い結界は張らないはずだが。
「陛下、お呼びでしょうか……あら」
開きっぱなしのドアから入ったアデーレが、驚いたように声を上げた。彼女は吸血系の種族で、アスタロトと同種族に分類される。
何か知らないかと尋ねる前に、近づいたアデーレはアスタロトの髪に手を伸ばした。ぱちっと音がして弾かれたのを確かめ、くすくす笑い出す。
「アデーレ、何かわかったか?」
「アデーレ、わかったぁ?」
ルシファーの真似をして尋ねるリリスに向き直り、まだ笑い続けるアデーレが衝撃の事実を明かした。
「ええ。わかりましたわ。アスタロト大公閣下は、深い眠りに落ちておられます……ふふっ」
堪えきれずに笑うアデーレの言葉に、心当たりがあるルシファーはほっと肩の力を抜いた。
「ところで……っ、アスタロト?!」
咄嗟に受け止めようとして、左腕のリリスに気付いて躊躇う。手を付く気配もなく倒れたアスタロトを、右肩で受けたあと右腕で支えた。勢いを殺すためにアスタロトと一緒に床に座り込む。
「パパ、アシュタはどうしたの?」
「わからない」
座ったルシファーの腕から飛び降りたリリスが、金髪に手を伸ばす。結界を張っているアスタロトの手前で、ぱちんと弾かれた。どうやら魔力の問題ではなさそうだ。
「アスタロト」
アスタロトを横にして、自分は膝をついて覗き込む。苦しそうな様子はなく、眠っているように見えた。穏やかな表情だが、ちょっと眉間の皺が気になる。手を伸ばすと、やはり結界がぱちんと音を立てて接触を拒んだ。
「仕方ない。誰かいるか!」
魔王城の廊下でルシファーが声を上げると、侍従であるベリアルと数人のコボルトが走ってきた。以前のリリスおままごと事件から廊下に敷かれ始めた絨毯のお陰で、足音はない。アスタロトを寝かせた場所も絨毯の上だった。
「いかがなさいました……! アスタロト大公閣下?!」
倒れた人を確認したベリアルが叫ぶ。咄嗟に自分の口をふさいだが、アスタロトは反応しなかった。あり得ない事態に、驚いておろおろし始める。そんな侍従を手招きして、ルシファーがある女性の名を口にした。
「アデーレを呼んでくれ」
「はい!」
リリス専属侍女の名に、コボルトが1人走っていく。見送ったベリアルがすぐ近くの空き部屋の扉を開いた。現在は使用していない部屋だが、元は来客の控え室だった場所だ。幸いにして白い布を被せた家具が残されている。
「陛下、この部屋に運びましょう」
「そうだな」
最初に部屋に飛び込んだリリスが、白い布を捲って下の家具を覗き込む。長椅子や机を次々と確かめるリリスへ「白い布を取ってくれ」とルシファーが声をかけた。
「わかった!」
仕事を頼まれたのが嬉しいらしく、リリスが布を引っ張って部屋を走っていく。するすると家具が露になると、部屋の隅に布を置いて、また別の家具の布を引いた。楽しくなってきたところで、長椅子の上から布が退けられる。
「よし、運ぼう」
振り返ったルシファーの号令に動いたコボルトが、アスタロトを何とか抱き起こして運ぼうと試みる。しかし犬人族は小柄な種族で無理があった。さらにアスタロトの表面に張られた結界が、他者の接触を拒む。
「うわっ」
「どうしよう」
手を触れたら静電気のような痛みが走り、コボルトが困惑して顔を見合わせた。
「オレが運ぼう」
「「え」」
お姫様抱っこを想像した彼らだが、ルシファーはアスタロトを結界で包むと魔力であっさり移動させた。予想が外れてほっとする反面、怖いもの見たさで抱っこ姿も見たかった複雑な思いが過ぎる。そんなコボルトの心境を知らず、ルシファーは器用に長椅子にアスタロトを横たえた。
寝かせるときに頭を長椅子の手すりにぶつけたが、それでも起きる様子がない。
「パパ、アシュタは?」
「まだ起きない。コイツに限って病気はないし……病気の方が逃げそうだもんな」
失礼な発言をしたルシファーだが、表情は心配そうだ。だらりと垂れた腕を身体の上に乗せながら、接触を拒む火花に眉をひそめた。普段ならこんな強い結界は張らないはずだが。
「陛下、お呼びでしょうか……あら」
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何か知らないかと尋ねる前に、近づいたアデーレはアスタロトの髪に手を伸ばした。ぱちっと音がして弾かれたのを確かめ、くすくす笑い出す。
「アデーレ、何かわかったか?」
「アデーレ、わかったぁ?」
ルシファーの真似をして尋ねるリリスに向き直り、まだ笑い続けるアデーレが衝撃の事実を明かした。
「ええ。わかりましたわ。アスタロト大公閣下は、深い眠りに落ちておられます……ふふっ」
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