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19章 神獣は番を突き落とす

250. 鳳凰は城門で飼うことになりました

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 魔法陣が消えると、鳳凰は神々しい神獣としての姿を取り戻していた。治癒の礼を口にしようとした鳳凰だが、違和感に気付いて己の身体を見回す。

「悪いが首輪をつけた。また、ピヨや我が妃に危害を加えられると困る」

 首輪経由で、魔王の魔力が繋がっている。常に他者の魔力により流れが阻害され、最低限の魔力しか使用できない形にした。これならば誰かに危害を加えることも逃げることも不可能だ。

 言い切ったルシファーは背を向けた。歩き出す彼の後ろにアスタロトが続き、残されたベールが溜め息を吐く。魔王軍の統括役であるベールは、魔物の駆除や管理が仕事だ。神獣であっても、ここで飼い殺すなら彼の管轄だった。

「仕事ばかり増やしてくれますね」

 面倒ごとを引き寄せる主君だが、何も言わずに背を向けた行為に信頼を感じて口元が緩んだ。手を繋いだルキフェルは首輪つきの鳳凰を見つめ、ヤンにしがみ付くピヨを眺める。

「ベール。つがいじゃなかったの?」

「まだピヨが子供過ぎて判断ができないようですね。仕方ないので、鳳凰は城門預かりになります」

「ピヨが危険なので、城門預かりは……」

 ヤンのもっともな発言に、ベールが考え込む。鳳凰の魔力は阻害されているが、まだヒナであるピヨを害するくらいは出来るだろう。ヤンの懸念は当然だし、彼もリリスの専属護衛なので常にピヨを守っているわけにいかない。

 城門の衛兵に鳳凰を止めろと命じるのも気の毒だった。

『彼女が我を認識するまで、大人しくしておれば良いのであろう。魔王の首輪もあるゆえ、どこか庭の片隅を借りられれば構わぬ』

 諦めきった表情で項垂れる鳳凰と警戒中のヤンへ、ベールが提案した。

「ヤンは護衛の任があるので中庭へ移動とします。城門の警護を鳳凰に任せましょう」

 最近のヤンはリリスの護衛で城門を空けることも多かった。手薄になる城門を鳳凰に守らせればいい。最低限の魔法は使えるのだから、人族や魔物の襲撃程度は退けられるはずだ。それ以上の敵ならば、大公や魔王が対応するので問題はない。

 両方が顔を合わせずに済むし、何よりピヨはヤンの後ろについて歩くだろう。以前の再生で成長したピヨは自分勝手に城門で動き回って自由にしていたが、2度目の再生で子供返りのような現象が起きてしまった。ヤンを追い掛け回す様子は、ヒナの頃と変わらない。

「……ベール大公の仰せのままに」

 少し不満そうだが、ヤンは妥協したらしい。背中で猫の子みたいに懐きまくるピヨを乗せて、中庭へ歩き出した。名残惜しそうにピヨを見つめる鳳凰の視線に気付くと立ち止まり、言いかけて飲み込む仕草を繰り返した挙句に、ようやく言葉を吐いた。

「1日に1度会いに来るといい。我が立会いならば、ピヨとの面会を許そう」

『! あ、ありがとう』

 素直に喜ぶ鳳凰を置いて、ヤンは早足で中庭へ駆けていく。大きな尻尾と背中が見えなくなったところで、鳳凰が申し訳なさそうにベールに向き直った。

『本当にすまなかった。番を傷つけられたと思ったゆえ、あのフェンリルに酷い攻撃をしてしまった。魔王とその番にも失礼をしたと、詫びを伝えて欲しい』

「伝言はお預かりしましょう」

 銀の髪をかき上げたベールが鷹揚に頷き、右手を繋いだルキフェルと歩き出す。少し離れたところで振り返ったルキフェルが、くすくす笑いながらベールを見上げた。

「魔王とその番だって」

 表現が面白かったのか、楽しそうな子供は繋いだ手に力を込める。

「僕の番がベールならいいのにね」

 驚いたようにルキフェルの水色の瞳を覗いたベールは、複雑そうに頷いた。
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