上 下
233 / 1,397
18章 魔王城改築の意外な効果

230. オークの前にゴブリン退治

しおりを挟む
 確かに手前の小ぶりな山に近づくと、オークの気配がした。ついでに周囲にゴブリンも住んでいるらしい。不思議なことに、ゴブリンとオークは巣が近くても互いに干渉しない。何らかの理由があるのだろうが、その辺は面倒なので誰も解明しようとしてこなかった。メリットがまったくないからだ。

 見つけ次第に駆除の対象となるゴブリンとオークだが、あれだけ狩られているのに数が減らないのは魔の森の七不思議だった。

「ぐぎゃぁああ」

 彼らなりにコミュニケーションは取る能力はあるが、他の魔族との意思疎通がない。そのため人型で2足歩行するにも関わらず、魔物に分類されてきた。

 空に浮いているルシファーに気付いたゴブリンが声をあげると、複数の矢が飛んでくる。かるく右手を掲げて風で遮った。結界があるので受けてもいいのだが、気分的な問題だ。

 いくら目の前で弾かれると知っていても、愛するリリス目掛けて飛んでくる錆びた矢を弾かない理由にならない。矢が通じないとわかると、彼らは巣穴から次々と飛び出してきた。ほとんどの武器が錆びている。手入れをする頭はないし、奪う際に相手を殺すので血が鉄を腐食させるのだ。

「あの耳、変な形してるね」

「……せめて『変わった形』と表現しような」

 相手がゴブリンだから問題ないが、これが他の耳が尖ったエルフや獣耳関係の種族へ吐いた言葉なら、侮辱したと勘違いされる。普段から言葉遣いは大切なので、毎回小まめに注意して直すしかなかった。

「じゃあ、変わった形のお耳だね」

 素直な幼女は、直されたまま口にする。ご褒美に撫でてやってから、ゴブリン達を炎で焼き払った。切り裂いてもいいのだが、絵的に残虐だ。火あぶりも十分酷いのだが、強烈な高温の火炎で焼くため臭いが気にならないし、一瞬で炭になるから見た目も我慢できる範囲だった。

「焼いちゃうの?」

「切ると臭いし、雷は周囲の別の魔物や獣が危険だから使わないんだ」

 ことあるごとに理由をきちんと説明して、反復学習としてリリスに理解させる。ゴブリンは駆除対象だから雷で貫いても構わないが、雷は周囲に飛び火するのだ。罪のない獣や木を落雷で痺れさせたり、焼いたりするのは間違っていた。

 ルシファーが雷を多用するのは、人族を相手に砦などの建物を壊してみせる時だ。少数の敵であったり、開けた場所で周囲への被害が心配ない場合、あとは建物を壊すときはよく使ってきた。

「リリスもやる!」

「いや、これはパパのお仕事だぞ」

 遠まわしにダメだと伝えたが、リリスは巣穴の洞窟から顔を出した大きなゴブリンを指差した。

「どーん!!」

 声と同時にゴブリンが爆発する。見事に木っ端微塵になったリーダーの姿に、残った数匹のゴブリンが逃げ出した。リリスは逃げる彼らに興味はないらしい。しかし逃がすと知恵をつけて面倒なため、ルシファーがしっかり焼き払った。

「リリス、パパのお仕事だから手を出したらダメだろう」

「違うよ、手を出したんじゃなくてお手伝いだもん」

「お手伝いなら雷使わないようにしてね」

「わかった。今度は焼く」

 頷いているが、納得されるのも違う気がした。そうじゃない、まだ手伝わなくていいのに。説得の方向が途中でおかしくなった自覚はあるが、あとでアスタロト達が修正するだろうと諦めた。

 最近のリリスは言葉数が増えて、口達者になってきた。この口答えのレベルが高いのは、側近であるベールやアスタロトの影響が大きいはずだ。可愛いリリスがアスタロト女版みたくなったら……想像だけで、軽く城を全壊出来る。

「お仕事終わり?」

「違うぞ。これはおまけで、本命はオークだ」

「豚肉さん!」

「雷禁止だからな」

 念を押して、ゴブリンの巣から山の方へ移動する。地脈がうねりながら流れる先で、不自然な魔力を複数感知した。これがオークの巣で間違いなさそうだ。

「見つけた」

 さっさと終わらせて、大きな街でリリスと買い食いするぞ! 魔王にしては情けないが、パパとしては立派な目標へ向かって、ルシファーは一気に下降した。

 巣穴を襲われたと叫んだ見張りの声に、オーク達が武器を片手に飛び出してくる。頭上から狙い撃ちで倒してもいいが、オークは魔獣達の食料となるため黒焦げはもったいなかった。

 焼かずに切ろう。幼女を抱えた魔王を取り囲むオーク達は、そんな思惑も知らずに襲い掛かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~

大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア 8さいの時、急に現れた義母に義姉。 あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。 侯爵家の娘なのに、使用人扱い。 お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。 義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする…… このままじゃ先の人生詰んでる。 私には 前世では25歳まで生きてた記憶がある! 義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから! 義母達にスカッとざまぁしたり 冒険の旅に出たり 主人公が妖精の愛し子だったり。 竜王の番だったり。 色々な無自覚チート能力発揮します。 竜王様との溺愛は後半第二章からになります。 ※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。 ※後半イチャイチャ多めです♡ ※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

処理中です...