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17章 リリスのお取り巻き
204. 納得した勇者は魔王を裏切る
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正面からリリスと抱き合ったまま反論する姿がいかに情けないか。考えが及ばないルシファーだが、この場には口外しない大公4人しかいないので情報漏洩の心配は不要だった。
「そうですか、側室候補ではない…と」
意味ありげに言葉を切るアスタロトが、選手交代で前に進み出る。こちらもまた満面の笑みであった。
「ルーサルカという少女ですが、彼女に関してはリリス姫の決断を尊重する形で『お友達候補』とさせていただきました。つまり側近候補の中に含まれます」
立場が明確になったのは良いことだ。今後、側近候補から外れても侍女として魔王城で働く道も開けるだろう。頷いたルシファーだが油断はしない。ベールやアスタロトがこの種類の笑みを浮かべているとき、大抵は説教や追及が待っているのだ。
長い付き合いと実体験で学んでいるルシファーは、用心深くアスタロトの様子を窺った。
「本日のお部屋での会食、ですが……護衛を兼ねた側近としてご忠告申し上げれば、危険です。初めて会った正体不明の者と同室で、しかも陛下の私室で食事をするなど許されません。リリス姫も、陛下も、守られる立場をもう少しご自覚いただきたいものですね」
「どうして?」
怖いもの知らずのリリスは、膝の上で振り返りながらアスタロトに尋ねる。
落とさないよう腕に力を込めるルシファーのリリスに向ける視線は『リリスは勇者だな~』という尊敬が込められていた。左手の痣がなくても、説教モードのアスタロトに反論するなど勇者過ぎる行動だ。
「リリス姫には今後きちんと学んでいただきますが……あなた様も陛下も、代わりがいない唯一の存在であらせられます。何かあれば警護のヤンや私の首が飛ぶこともあるのですよ。地位や立場には責任が付き従うものです」
「そうなの? じゃあ、パパが悪いね」
「ええ!?」
ここに来てまさかの『納得した上での勇者の裏切り』に、ルシファーが眉尻を下げる。しょんぼりした魔王の姿に、アスタロトは満足そうに頷いた。
やっぱりリリス嬢経由でやり込めるのが、一番効果的でしたね。狙った効果を確認して、ベールとアスタロトが小さくガッツポーズを作る。
「陛下は自由すぎるんですわ。あたくしなんて、先日から書類ばっかり読まされて大変なんですのよ」
ペンだこが出来た手を突き出して不満をぶつけるベルゼビュート。しかし彼女を撃沈させたのは、ベールだった。
「陛下は討伐の仕事で辺境に出向いていたのです。大公のあなたが書類整理を担当するのは当然でしょう。そもそも、ほとんど戦力になっていません」
肩を落としたベルゼを哀れんでしまう。叱られ仲間というべき共感にルシファーの視線は、やや温かった。
「ルキフェルは何かありますか?」
ベールに促され、ルキフェルは少し考え込む。すぐに首を横に振ったので、どうやら不満はないらしい。ほっとしたルシファーが「これで終わりか?」と尋ねた。
正面から抱き着いたリリスは黒衣の胸元に顔を埋めて、ぶらぶらと両足を揺らしている。足を開いて向き直ったため、スカートが捲れかけるのをルシファーの手がそっと押さえた。太ももは仕方ないが、際どいところは側近であろうと見せる気はない。
「側近候補にあげるからには、ルーサルカの身辺調査を行います」
ベールからの指摘に頷く。これは仕方ないだろう。まだ彼女の口から出た身の上話しか知らないのだ。かなり確立は低いが、人族から送り込まれた刺客や魔族の貴族による仕掛けである可能性もあった。
魔王妃候補リリスの側近は、それだけの価値がある。調査して彼女の周辺を詳らかにしておくのは、ルーサルカ自身のためでもあった。何かあるたびに疑われるのでは、安心して勤めもできない。
「当然だ」
頷いたところに、ノックの音が響いた。
「何事だ」
ベールの声に重い扉が開かれ、膝をついた犬人族の衛兵が膝をついた。
「申し上げます! ただいま、ゾンビの襲撃を確認しました。以前と同じく、火に耐性がある変異種と思われます」
端的な報告に、魔王と大公4人の胸に同じ感想が浮かんだ――またか。
「そうですか、側室候補ではない…と」
意味ありげに言葉を切るアスタロトが、選手交代で前に進み出る。こちらもまた満面の笑みであった。
「ルーサルカという少女ですが、彼女に関してはリリス姫の決断を尊重する形で『お友達候補』とさせていただきました。つまり側近候補の中に含まれます」
立場が明確になったのは良いことだ。今後、側近候補から外れても侍女として魔王城で働く道も開けるだろう。頷いたルシファーだが油断はしない。ベールやアスタロトがこの種類の笑みを浮かべているとき、大抵は説教や追及が待っているのだ。
長い付き合いと実体験で学んでいるルシファーは、用心深くアスタロトの様子を窺った。
「本日のお部屋での会食、ですが……護衛を兼ねた側近としてご忠告申し上げれば、危険です。初めて会った正体不明の者と同室で、しかも陛下の私室で食事をするなど許されません。リリス姫も、陛下も、守られる立場をもう少しご自覚いただきたいものですね」
「どうして?」
怖いもの知らずのリリスは、膝の上で振り返りながらアスタロトに尋ねる。
落とさないよう腕に力を込めるルシファーのリリスに向ける視線は『リリスは勇者だな~』という尊敬が込められていた。左手の痣がなくても、説教モードのアスタロトに反論するなど勇者過ぎる行動だ。
「リリス姫には今後きちんと学んでいただきますが……あなた様も陛下も、代わりがいない唯一の存在であらせられます。何かあれば警護のヤンや私の首が飛ぶこともあるのですよ。地位や立場には責任が付き従うものです」
「そうなの? じゃあ、パパが悪いね」
「ええ!?」
ここに来てまさかの『納得した上での勇者の裏切り』に、ルシファーが眉尻を下げる。しょんぼりした魔王の姿に、アスタロトは満足そうに頷いた。
やっぱりリリス嬢経由でやり込めるのが、一番効果的でしたね。狙った効果を確認して、ベールとアスタロトが小さくガッツポーズを作る。
「陛下は自由すぎるんですわ。あたくしなんて、先日から書類ばっかり読まされて大変なんですのよ」
ペンだこが出来た手を突き出して不満をぶつけるベルゼビュート。しかし彼女を撃沈させたのは、ベールだった。
「陛下は討伐の仕事で辺境に出向いていたのです。大公のあなたが書類整理を担当するのは当然でしょう。そもそも、ほとんど戦力になっていません」
肩を落としたベルゼを哀れんでしまう。叱られ仲間というべき共感にルシファーの視線は、やや温かった。
「ルキフェルは何かありますか?」
ベールに促され、ルキフェルは少し考え込む。すぐに首を横に振ったので、どうやら不満はないらしい。ほっとしたルシファーが「これで終わりか?」と尋ねた。
正面から抱き着いたリリスは黒衣の胸元に顔を埋めて、ぶらぶらと両足を揺らしている。足を開いて向き直ったため、スカートが捲れかけるのをルシファーの手がそっと押さえた。太ももは仕方ないが、際どいところは側近であろうと見せる気はない。
「側近候補にあげるからには、ルーサルカの身辺調査を行います」
ベールからの指摘に頷く。これは仕方ないだろう。まだ彼女の口から出た身の上話しか知らないのだ。かなり確立は低いが、人族から送り込まれた刺客や魔族の貴族による仕掛けである可能性もあった。
魔王妃候補リリスの側近は、それだけの価値がある。調査して彼女の周辺を詳らかにしておくのは、ルーサルカ自身のためでもあった。何かあるたびに疑われるのでは、安心して勤めもできない。
「当然だ」
頷いたところに、ノックの音が響いた。
「何事だ」
ベールの声に重い扉が開かれ、膝をついた犬人族の衛兵が膝をついた。
「申し上げます! ただいま、ゾンビの襲撃を確認しました。以前と同じく、火に耐性がある変異種と思われます」
端的な報告に、魔王と大公4人の胸に同じ感想が浮かんだ――またか。
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