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15章 卒園式も大騒ぎ!?

171. なにやら物騒な劇の練習

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 アデーレと向かい合わせで木陰に座り、リリスは真剣な顔でセリフを呟く。

「貴様の悪事もここまでだ! 我が剣の……」

 途中でつっかえてしまう。続きが出てこなくて悩んでいると「錆び、です」とアデーレが救いの手を差し伸べた。

「ありがと! 我が剣の錆びにしてくれるわ! そんで右手の剣でずばぁっ!!」

 袈裟懸けに斬る仕草をすると、アデーレが手を叩いた。後ろで見ているヤンは複雑そうな顔をしている。ピヨは自分勝手に餌を探して地面を突いた。まとまりのない集団だが、見慣れた光景に首なし騎士デュラハンが手を振って通り過ぎる。

「ばいば~い」

 手を振るリリスに、一際大きく振り返したデュラハンは城の左官作業を担当している。最近はやっと城の骨格が出来上がった奥の間を中心に作業していた。彼らの癒しであるリリスは無邪気に手を振ってから、再び真剣な顔で続きを始める。

「斬った後はえっと~。我が正義の元に……なんだっけ」

「敵なし、です」

 脚本のセリフが書かれた冊子を指で追いながら、アデーレが答えを告げる。するとリリスが剣を上に掲げる仕草をして、「我が正義の元に敵なしっ」と叫んだ。

「なんだか物騒な劇ですな」

 ヤンがこっそりぼやくが、彼も口止めされたので劇の内容を漏らすことは出来ない。観劇した際に我が君が驚かなければ良いが……。老婆心ながら心配の溜め息を吐いた。

 今度は岩タイプのガーゴイルに手を振り、「こんにちは」と挨拶を交わしている。城内でリリスは人気があるため、意外と挨拶に忙しいのだ。

「最初から通しでやりましょうか?」

「ううん、そろそろパパのお茶の時間だから、一度戻る」

「あら、本当ですわ。一度戻りましょうか」

「今日のおやつは?」

「焼き菓子にしましたよ。先日お気に召していたメレンゲも用意しましたからね」

「やったぁ!!」

 大喜びで歩き出すリリス。後ろにアデーレ、護衛のヤン、芋虫咥えたピヨの順で続く。大名行列のような光景に、ドワーフが作業の手を止めてほんわかしていた。





 バタン! 

 突然ドアが開くが、近づく気配はわかっているので穏やかな笑みを浮かべて顔を上げる。リリスはお菓子の入った籠を腕にかけ、鼻歌を歌いながら入ってきた。

「お姫様、今日のおやつかな?」

 にっこり笑って近づけば、さっと籠を後ろに隠す。しゃがみこんで待っていると、そっと手を入れてお菓子を摘んだ。どうするのか見ていると、自分の口に放り込む。

「お行儀悪いとお姉さんらしくないぞ。こっちに座ろうか」

「ふ…んぅ」

 うんと返事をしたのだろうが、口いっぱいに頬張ったクッキーのせいで言葉にならない。抱き上げてソファの上に下ろすと、ヤンは近くで丸くなった。入り口からも窓からも守れる絶妙な位置である。ピヨはヤンの上に飛び乗り、高さを利用して机の上に降りてしまった。

「陛下、お茶はリリス姫がお好きなフレーバーでよろしいですか?」

「任せる」

 侍女アデーレの気が利く選択に頷き、リリスの隣に腰掛けた。顔色を窺いながら、おずおず膝の上に移動してくる姿が可愛い。居心地がいいように足の位置を調整していると、振り返ったリリスが「あ~ん」とメレンゲを差し出した。

「ありがとう、リリス」

 素直に口に入れてもらう。じわっと溶ける感触がお気に入りで、最近リリスがよく強請るお菓子だ。白やピンクが多いが、先日は薄い水色のものも用意されていた。

 差し出されるカップは透明で、注がれたお茶は青い色だった。この色を使ってメレンゲに色づけしたと聞いている。マメ科の植物らしいが、最近ハイエルフの間で流行っているとオレリアが献上したお茶だった。不思議なことにレモンを入れるとピンクや紫に色が変わる。

 この頃のリリスは、色が変わるこのお茶がお気に入りだった。

「パパ、ピンクにして」

「ピンクまで絞ると酸っぱいぞ」

「いいの! 蜂蜜入れるもん」

 それなら大丈夫かと、添えられた厚めの輪切りレモンを勢いよく絞った。魔法陣が大好きなリリスのために、専用の魔法陣を開発したほどである。魔法陣の中心にレモンを置くと、ぽたぽたとレモン汁がカップに注がれた。

 青から紫、徐々に色を薄くしてピンク色になって終わる。

「綺麗だな」

「うん!」

 それからアデーレが蜂蜜を掬ったスプーンを渡すと、自分でかちゃかちゃかき回してカップを口に運んだ。まだ少し酸っぱいのか、眉のあたりがきゅっと寄る。くすくす笑いながら、リリスのカップに一滴の蜂蜜を足した。
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