上 下
169 / 1,397
14章 飛び散るあれこれ、料理は爆発だ!

166. リリスに嫌われたかも

しおりを挟む
「鳳凰には毒がある。確かに有名な話だが……いつ毒を混入……あっ」

「あのときですわ! 青い卵」

 料理の手順を思い浮かべたルシファーとアデーレが顔を見合わせた。ひとつだけ青い殻の卵を割って中身を入れた。蒸す途中でヒナが孵った? 割って混ぜちゃったのに? まあ鳳凰側の事情はわからないが、とにかく温かい周辺状況に触発されて孵ったのだろう。

 卵を攪拌したため、すべてのプリンに毒が万遍なく入っているはずだ。

「リリス嬢は無事なのですか?」

「吐かせたし、解毒魔法陣5つくらい連発したから平気だ」

 リリスの安全を確認してほっとした顔のベールは、原因追求を始めた。中庭のベンチの上で、幼女を抱いた魔王と側近や侍女……珍しい光景ではない。

「青い卵を間違えて入れたとして、なぜ孵ったのでしょうか。それにその卵はどこから?」

 入手先を探るベールに、アデーレが申し訳なさそうに眉尻をさげた。

「卵は私が食料貯蔵庫から持ち出したものですわ。リリス様が失敗すると思い、沢山持ってきました。その中のひとつだと思います」

「他にもまだ持っていますか?」

「はい。プリンを渡した後は掃除をしていましたし、そのままこちらに来ましたので……すべて」

 収納空間から取り出された卵が、リリスが持ち歩いていた籠に並べられていく。20個ほど入れたところで溢れそうになり、アデーレが敷きマットを取り出して続きを並べた。最終的に43個あった卵は、すべて白い色をしている。

「こちらの卵は今朝納入されたばかりのものです」

 料理長イフリートから聞いた話を付け加える。卵を見ていたルシファーが顔を上げた。背後から駆けてくる子供と、慌てて追いかける聞き慣れた足音だ。

「アスタロト、悪かったな。状態異常だと思わなくてさ」

 怒られる前に謝っておく。眠ったリリスがいるため動けないルシファーへ、アスタロトは苦笑いして一礼した。

「それは仕方ありませんね。危険だと書き残す前に意識が途絶えました」

 吸血種族系の彼が危険だったということは、同族のアデーレも同じような症状が出た可能性が高い。リリスの目の前で、お気に入りの侍女がダイイングメッセージ書き残す状況にならなくて、本当によかったとルシファーが大きな息を吐いた。

「毒殺未遂事件ですか?」

「いや、ただの事故。卵の食中しょくあたりか?」

 食べても平気な種族と駄目な種族が一緒に食べた結果なので、食中たりよりアレルギーが近いかもしれない。ルシファーは胸元で寝息を立てる娘の旋毛に接吻けながら、心の底から困っていた。

「あのさ……」
 
 すごく言いづらそうに口を開くが、肩を落としながら溜め息を吐く。心なしか、顔色も青ざめていた。

「オレ、リリスに嫌われたかも」

「「「はあ?」」」

 パパ大好きっ子のリリスが、ルシファーを嫌う? 誰も想像していなかった言葉に、ヤンも含めて場は騒然とした。

「何を言い出すのです?」

「それは何故ですか」

「ないよ、そんなの」

 口々に告げられる言葉を遮って、ルシファーは哀しそうな顔で腕の中のリリスの髪をなでた。

「リリスがおやつ作ってくれたのに、取り上げて、無理やり押さえて、吐き出させたりしたし……最初にオレが食べれば良かったんだよな。そうしたら毒効かないし、きっと味に気付いただろうし、リリスを苦しませたり、泣かせなくて済んだはずだ。それにまだ美味しいって伝えてないし、初めてリリスがオレのために作ってくれたのに」

 言い訳じみた後悔がループし始めた魔王の沈みっぷりに、アスタロトもベールも顔を見合わせて首を横に振った。これは面倒くさい方へ沈んだので、浮き上がるまでに時間がかかる。

「パパは毒効かないの?」

 ぱちっと目を開けたリリスが大きな赤い目でルシファーを見上げる。治癒したため目元や頬の赤い色は引いていて、いつも通りの可愛い姿だった。ぎゅっと掴んだ髪はまだ離そうとしない。

「ああ、まったく効かない」

 前に何度も毒を盛られたが、一緒に食事をした連中が全滅しても生きていたので……毒で死ぬ心配はなかった。多少腐ってようと菌が繁殖してようと、状態異常に掛かる心配もなさそうだ。嫌われるんじゃないかと不安が全面に出たルシファーは、ぼそぼそと答えた。

「リリスのプリンは毒なの?」

「毒がある卵が間違って入ってただけで、リリスが失敗したわけじゃないぞ。ベールやルキフェルは平気だったし、たまたま気分悪くなった人もいただけで」

 たまたま気分が悪くなった人代表のアスタロトが口を挟んだ。

「うちの種族は鳳凰や神龍と相性が悪いのですよ」

 通常の毒はほとんど効かないアスタロトだが、さすがに神獣系は相性が悪い。浄化魔法が使えないのと同じ理由だった。今回のプリンもエルフ辺りなら、腹痛で済んだ可能性が高かった。

 鳳凰の毒に耐性がないのは、ヤン、アスタロト、アデーレのみ。情報が少なすぎて、リリスの毒耐性は不明だった。危険ならば食べさせなければいいし、間違えて食べたら今回みたいに吐かせる。

 対処が分かっていれば、毒もさほど怖くはないが……今のルシファーが恐れているのは、リリスからの「大嫌い」だった。
しおりを挟む
感想 851

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」 「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」  公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。  理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。  王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!  頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。 ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2021/08/16  「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過 ※2021/01/30  完結 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです! 12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。  両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪  ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/07/06……完結 2024/06/29……本編完結 2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位 2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位 2024/04/01……連載開始

死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」 私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。  聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?  私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。  だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。  こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。  私は誰にも愛されていないのだから。 なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。  灰色の魔女の死という、極上の舞台をー

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

処理中です...