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14章 飛び散るあれこれ、料理は爆発だ!

156. 目を離すと危険です

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 普段は入ることがない調理場で、リリスは魔力で作った半透明の台の上にいた。子供が調理場に入ることはないため、丁度いい大きさの台がなかったのだ。最初はヤンが下で寝そべる予定だったが、獣の毛を嫌う調理人に追い出されてしまった。

「我の毛は犬のように抜けたりせぬ!」

 憤慨ふんがいしきりのヤンだが、調理人である炎の妖精族イフリートと争うわけにもいかず、最終的にすごすごとドアの外へ出て行った。廊下で警護するつもりらしい。

 侍女のアデーレに白いエプロンをつけてもらい、黒髪は後ろできっちり結い上げられた。その上から三角の布巾を巻いて髪が落ちないように留める。少し離れた場所で、ルシファーは腰掛けていた。椅子が見当たらないので、自前でエア椅子を作って寄りかかる。

「パパっ!」

「楽しみにしてるぞ、頑張れ」

 嬉しそうなリリスだが、今日は簡単にプリンにするらしい。調理方法は詳しくないが、火を使った焼き菓子は火傷の可能性があるし、複雑すぎる工程の菓子は初心者向きじゃないとか。徐々にレベルアップして、最終的には誕生日ケーキを作るのだと息巻いていた。

 そこはもっと精進して、ウェディングケーキを作って欲しいパパ魔王である。

「卵を割りますよ」

 目の前でひとつ割って見せるアデーレに、リリスが目を輝かせた。狩りで非常識な魔法をぶっぱなす、やんちゃ娘だが女の子である。友達が女の子中心なこともあり、料理や髪飾りに興味津々だった。

 おままごとも、彼女達に習えば本来は可愛い遊びだったはずだ。忌々しい、とベルゼビュートを思い出して舌打ちする。しかし手を振る幼女にすぐ頬が笑み崩れた。でれでれした魔王に視線を向けないよう気遣うアデーレやイフリートが、リリスの手元を注視する。

「ゆっくりやりましょうね」

 アデーレが後ろから二人羽織状態で支え、そっと卵をボールの縁に当てる。息をのむイフリートがボールを支え、リリスの手を掴むアデーレが卵を上下に動かした。

 コンコン、ぐしゃ! いい音がして握りつぶされた卵がリリスの両手を汚す。

「うっ……」

「最初は私も同じでした。もう一度やりましょうね」

 さっと魔法で卵液を捨てたアデーレが、新しい卵を取り出す。ちょっと青い卵だが……さっきと種類が違うのか? 疑問に思うルシファーを他所に、アデーレはリリスの手を操って卵を割った。

 きれいに二つに割れた殻から、卵が落ちる。ボールの縁に当たりそうになった卵を、イフリートが上手に受け止めて中に入れた。

 ほっ……誰もが詰めていた息を吐き出す。

「パパ、できた!」

「上手に割れたな、さすがはパパのお姫様だ」

「うん」

 機嫌よくリリスは次の卵を待つ。アデーレが取り出したのは普通の白い卵だった。殻の欠片が中に落ちたが、上手にアデーレが掬い上げて事なきを得る。手を白身でべたべたにしながら、リリスが5つの卵を割り終えた。

 嬉しそうにボールの中の卵を見せようとするので、近づいて覗き込む。ひとつだけ黄身の大きさが違うが、あれが青い殻の卵だろうか。深く考えずに、リリスの頭を撫でた。

「リリス様、次は牛乳を量ります」

 計量カップを置いたアデーレと一緒に、今度は牛乳を量ってボールに流し込んだ。後からカラメルをかけるので、砂糖はあまり加えない。しっかり攪拌するが、ここでアデーレが魔法を使った。

 目を見開いて眺めていたリリスが「ぐるぐる~」と叫んで喜ぶ。微笑ましい状況に皆が油断したところで、リリスが魔法を使おうとした。思わず、ボールの上にフタをする形で結界を張る。

「リリス! あ、危ないから魔法はダメだ」

「アデーレはしたよ?」

「アデーレは侍女だからいいんだ」

 よく分からない理論だが、説明された事実がリリスを納得させる。侍女じゃないから自分はダメ、そう理解したリリスは大人しく魔力を拡散させた。
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